5話 春休み、遊ぶ話をしよう
『今日はありがとね!ひなもまた遊びたがってるから次のいい日があれば教えてほしいです!』
彼女らと解散して帰宅した夜、俺のもとに届いたメッセージはずいぶんとかわいらしいお誘いだった。
解散間際になって、連絡先を聞かれた俺にそれを断る理由はなかったし、それとは別に資格も度胸も当然なかった。連絡先を交換した以上、俺から連絡するのがマナーか?いやそもそも俺から連絡するなんて失礼じゃないか?という相反する思いに揺れている間に、そんなものをすっ飛ばしてこちらにやってきたようにさえ思える。
彼女たちを見ているとコミュニケーションはこんなにシンプルで簡単なものでいいのかと思わされる。変に気を遣って疲れるようなことがないのは、きっと人柄のおかげなんだろうな。まぁがっつり話したのは今日が初めてだったはずなんだけど。
さて……まずいな、女の子とのやり取りってどうやるんだっけか。いや別に初めて話すとか、女の子の友達がいなかったわけじゃあねえんだ。……この話はちょっと気分が下がるからもう考えないようにするが。
ただマジでここ一、二年は関わりがなかったものだから困る。そもそも連絡を取る相手も家族を除けば、大地と他には、他校に通う友人が数人いる程度だ。
男相手でもなにを送ればいいか悩むんだから、女の子、ましてやアイドル様に送る文面なんて困ってしょうがないだろう。
こんなときに頼るものはなにか……答えは簡単だ。ネット?いや違う。俺にはなにより、誰より頼りになる存在がいる。妹である。このクソがつくほど生意気で、数え切れないほどのクソがつくほど可愛い妹が。いろいろあって落ち込んだ時も、優しく接してくれる兄想いのいい妹なのだ。
そうと決まれば善は急げと言うだろう。妹の部屋のドアをノックし声をかける。なにー?と愛らしい声で返ってくる声に、俺は開けるぞと告げて部屋に入る。
「はぁ!?開けていいなんて言ってない!いきなり入んないで!」
どうやらノックしたのが俺だと気づかなかったらしい。顔面にクッション?を叩きつけられてしまった。少し前から部屋に入る時はノックを厳命され、これからは入る前に入室の許可を取ることを約束させられた。
一度退室させられ、再び入室を許可されたのは、体感で数分くらい。まぁそりゃ見られたくないもののひとつやふたつあるか……。妹の成長には少し寂しいね。
「それでどうしたの?急に。お兄ちゃんがわざわざ私の部屋まで来るなんて、びっくりしたよ!」
「まぁいつもはリビングで喋ってるもんなあ。ごめんな、こんな時間に急に来て」
いつものこの時間は、お互いだらだらとリビングで過ごしたあとに、部屋に戻って各自の時間を過ごしている。妹である紬が俺の部屋に用事があって来ることはあってもその逆はほとんどない。まぁそれは俺がわざわざ行かなくても、こいつが俺の部屋にそこそこの頻度が来るからというのも一因だと思うが。
「いや別にそれはいいけど。どうしたの……?学校でなんかあった……?」
心配そうな表情に、紬にもいろいろと心配をかけてきたな……と思うと同時に、兄想いな気持ちに感動。
「いや別に何もないよ、順調に目立たず平穏な生活を送ってる」
「そ、ならよかった。まぁお兄ちゃんがぼっちっていうのは妹としては複雑だけどねー……」
「なら安心していいぞ、ぼっちじゃないからな。かろうじて大地がいる!まぁ別なクラスだけどな。……一応クラスにも話せる人くらいいるから……!」
呆れたような、それでいてほっとしたような顔で見られると変に気まずい。クラスで話せるやつがいるというだけで、妹に安堵されるなんて情けねえな……。
「思うところがないことないけど、お兄ちゃんが楽しそうでよかったよ。またなんかあったらパパもママも心配するんだからね」
「あ?別にそんな学校生活が楽しいってほどじゃあねえけど……?」
「あ、そうなの?今日とかちょっと楽しそうな感じしたから。最初は学校でいいことでもあったのかと思ったけど、春休みだし。新しいお友達でもできたんじゃって」
「えーと……お友達ってわけではないんだけどな。まぉそれは置いといてだ、例えば紬はやっぱり春休み忙しいのか?」
「ええとねえ……部活の練習とかあるけどだいたい午前だからその後は暇かなあ。あ、でも私は忙しいからお兄ちゃんの相手はしてあげられないかもなあ!でもでも、全奢りなら遊んであげないこともないんだけど……!」
「あ、わりぃけどお前誘ったわけじゃねえんだ。世間一般の人がどれくらい忙しいのか知りたくてな。まぁやっぱみんな忙しいよなあ、俺よりは絶対」
「は……?」
「え?いやほら、どんくらい忙しいかとかわかんねえじゃん。今回は大地に聞いても参考にはなんねえしさ、俺他に友達ほとんどいねえし」
ははっと笑って自虐してみせても妹の視線は冷たい。
ここまで冷たい視線はいつぶりだろうか……。いやもしかするといままで見たことがないかもしれない。
「へー……楽しそうだね。相手……女の人?あーだからそんなに楽しそうだったんだ。へー……珍しく私の部屋まで来たと思ったら……そういうことね」
「へ?いやいや女の子ではあるけどさ、全然そういうんじゃないよ。まじで友達……というか友達ですらないな……。とにかくさあ、お前には連絡の取り方聞きに来たんだよ。ほら、女の子相手のメッセなんて久々でさ、どんな感じで送ればいいかな」
「は?キモ。そんなの適当に送れば?それで、要件終わりならとっとと帰ってんない?キモイ兄を持つと妹も大変なの。まじ信じらんない、さいってー!髪切ればか!前髪おばけ!」
軽蔑したような視線と可愛らしい罵倒を向けられ、部屋を追い出される俺。え、まじで俺なんも悪いことしてなくね?
釈然としないまま部屋に戻る。ひとりきりの部屋で改めて彼女が送ってくれたメッセージと向き合う。
改めてよく考えてみればこれはあくまで彼女と俺のやり取りだ。妹とはいえ他の誰かに頼ろうなんてこと自体間違いだったのかもしれない。きっと紬はそういうことを伝えたかったのだろう。俺はしっかりと自分で考えることに決めた。
そのうえで、送信できたメッセージはひどくシンプルだ。
『基本的にいつでも暇です なんでもいいだと困ると思うので 今週だと月木あたりでどうですか』
ま、まぁこんなもんだろ……。大地にでも相談するべきだったか……?いやでもあいつは絶対変な勘違いしてくるだろうしな……面倒だからやめて正解か。
それにしても誰かを誘って、それの返事を待つという時間自体が久しぶりだ。緊張と楽しみの混ざったこの時間が。
少しだけ昔のことを思い出した。中学の頃、初めて好きになった子を誘った時、俺はどんな気持ちだったんだろうか。ふとそんなことを思ったが、やっぱり忘れよう、思い出すのはきっと辛いから。
ぴこんという通知の音は、少しだけブルーになった俺の心を晴らしてくれた。遊ぶことを楽しみにしてるのは、ひなちゃんよりむしろ俺の方かもな。
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