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4話 遊びと今後と連絡先

「いやね、知ってたというか……だって初めて会った日俺は制服着てたじゃない?だから同じ高校なのはバレてると思ってたし……それにうちの高校で白坂さんのことを知らない人なんていないしさ。いや俺はまぁ最近まで知らなかったと言えば知らなかったんだけど……!だからなんというか……別に隠してたわけじゃないというか、わざわざ言う必要もないのかなって……。いやでも知らないやつに知られててきもちわりぃってのはたしかにその通りというか……」


「ま、待って待って!別に怒ってるとかじゃないから!ただ知らないのかなって思ってたからびっくりしたというか……!」



とにかく必死に弁明する俺に、白坂さんは手をぶんぶんと大きく振ってさえぎる。



そして少しだけ赤くしたような顔で白坂さんが言う。



どうやら以前も今回も特に話題として触れてこないし、名前を確認もされなかったから同じ高校でも自身のことを知らないと思ったらしい。それがやっぱり知ってるとなったからこそ動揺してしまったということだ。



だから別に白坂さんのことは知っていたし、特に言う必要もないかなと考えていたことを話すと少しだけ嬉しそうにうなづいた。



しかし、それもほんの一瞬同学年だとかいうことを思わずこぼすと、とたんに顔を青くして申し訳なさそうな表情になってしまった。


「ごめんなさい……同学年なのにお名前覚えてなくて……。言い訳させてもらえるならね、他クラスと関わることもなくてね、だから……、それに男子とはあんまり話す機会もなくて……」




男子が苦手とか全く話せないというわけではないんだけどね、という言葉からも彼女の苦労が透けて見える。下手に関わればどう考えても揉め事になるのだろうから。大地の話からもそれは分かっていたが、改めて本人から聞くとずいぶんと苦労していそうだ。




「いや全然、むしろ覚えてもらってたら恐縮しちゃうよ。俺クラスでもほとんど話さないし、学年全員の顔と名前覚えるなんてこと自体無理あるしね。そもそもあんまり友達いないし……」




アイドル的人気の彼女と俺が万が一にも教室で話したりすれば、視線で殺されかねない。俺は俺でそれはごめんだ。



「そ、それでね今日このあとの話なんだけど……」



白坂さんは少しおどおどしたような、こちらをうかがうような視線を向けてくる。こういうところはやっぱり姉妹なんだなとほっこりしたような気持ちが湧いてきた。




「うん、ごめんねやめとこうか。黙って近づこうとかそういうつもりはほんとになかったんだ、学校でも極力影をひそめるつもりだから何卒ご容赦を……」



「違うの違うの!むしろお願いしたいというか、全然!全然、嫌じゃなかったらの話なんだけど……!」




思っていたのとは真逆に展開していく現実にかえって混乱してしまう。うまく返事を言えないでいると、やっぱり嫌だよね……とかどんどんしゅんとしていく白坂さん。大人しく買い物袋を物色して暇をつぶしていたひなちゃんも何かを感じ取ったのか、マネをするようにしゅんとしてきた。



「いやいや俺が嫌ってことはないんだよ!でもほら、同学年だし、それにクラス替えだってあるしさ。いろいろ考えると、嫌かなって……」



「……んー?ええと、仮にクラスメイトだとしたらダメなの?それにむしろ迷惑かけちゃうのはこっちだし、私学校だといろいろややこしい立場にいるからさ……」




俺は彼女を見て、ああ、寂しいそうな顔までそっくりなんだな、なんてどうでもいいことを思った。そしてもしかしたらこの誘いは彼女も勇気が必要なことなのかもなんて思った。そう思ってしまえば、この姉妹の可愛らしい遊びの誘いを無下にはできないだろう。



「白坂さんが問題ないなら、俺から断る理由は何もないよ。……それにひなちゃんが待ちきれなさそうだからね」




足元には遊びに行けそうな雰囲気を察したのか、俺の左脚に絡みつくようにくっつくひなちゃんの姿がある。それを見て白坂さんは呆れたように小さくため息をついてから



「ごめんね、それとありがとう」



正面から照れくさそうな笑顔でそう言われてしまえば、さすがの俺も少しだけ顔が熱くなる。

ああ、これは人気なわけだと痛感した。




スーパーからほんの少し歩いたところに、わりかし広めの公園が見えてくる。あまりこっちに来たことがなかったなと少し新鮮な気分がした。スーパーがあるら辺はごちゃごちゃと混んでにぎやかな様子であるが、こちらはずいぶんと静かで穏やかな雰囲気だ。




「お兄ちゃん見ててね!ジャングルジムのてっぺんとってくる!」



ひなちゃんはグッと親指を立てて目標に向かって駆けていく。白坂さんとふたり、妙な気まずさはあるがベンチに腰掛けた。少しの沈黙が流れ、先に破ったのは向こうからだった。



「ええとね、名前、もう一度聞いてもいいかな……?さっきも聞いたけど、いろいろ衝撃の事実もあったから、ちゃんと覚えたくて」


「はい、えっと天沢、天沢遥って言います。……趣味は音楽と映画を見るのが好きで、読書とかスポーツ見るのも好きです。あ、あとは……」


「ふふっ、HRの自己紹介みたいだね。私はね、白坂結衣と言います。趣味は料理と音楽を聞くこと、映画も読書も好き」



変な緊張でテンパった俺に合わせて、聞き覚えのある自己紹介をしてもらった。あの大盛り上がりの自己紹介を、ある意味で独占していると考えると少しだけ優越感のようなものがある。



「あれだね、聞いてる感じ私たち趣味合うね。音楽はなに聞く感じです?」


「わりかしなんでも聞くからなあ、でもやっぱり最近だとこのバンドかなとかかな。あとはJPOPも洋楽もなんでも」



スマホのプレイリストを見せれば、彼女もテンションを上げて食いついてくる。



「え!いいね!いい趣味してるよ、私も大好きなの!映画は映画は?」



「うわー悩むなあ。一番好きなのは……洋画のかっこいいやつを言いたいところですけど、アニメ系が好きだったりするかな。夏といえばみたいなやつが。俺あれ毎年見ちゃいますもん」



「天沢くん……!私はね、いま感動してる。とっても趣味が合います……!」



ありがたいことにお眼鏡にかなったらしく、そのあとは好きな作品やアーティストを語り合い、教え合いながら過ごした。合う時は良さを語り合い、異なる時は否定などせず魅力を楽しそうに聞いてくれる彼女との時間は、とても心地よいものだった。




「ひなー?機嫌直してよぉ……ごめんて。ひなちゃーん?」



拗ねた妹を必死であやす姉という構図はなかなか和むものだ。原因に自分が絡んでさえいなければの話だが。



「むー……!お兄ちゃん全然見てないもん!せっかくのぼったのに……!」


「ご、ごめんね……!見てなかったわけじゃないんだけどさ……」



談笑に夢中になって、俺も白坂さんもひなちゃんに気づいたのは、すっかり頂上へと登りきりジャングルジムを制覇し終わった後だった。それもひなちゃんに呼ばれて気がついたのだ。



そんなこんなで、この幼い少女はすっかりご機嫌ななめというわけだ。もちろんこれに関しては俺、と言うより俺たちふたりが悪いだろう。



「ひなちゃん、お詫びと言ってはなんですがアイスでも食べませんか?」



ひなちゃんの手を取り、しっかりと向き合って聞いみれば、少女は一瞬花が咲いたように笑って。そのあと慌てて怒ってますというアピールをするかのような表情を取り繕った。


「……食べる。で、でもでもこれでゆるすわけじゃないもん!またあそんでくれたらいいよ……」



なんてかわいいんだ……!また遊ぶことを約束しつつ頭を撫でさせてもらうと、また一段とかわいい笑顔を見せてくれる。



一応ものを与えてご機嫌を取ろうというつもりではないが、白坂さんにアイスを買い与えていいか確認を取る。かえって申し訳なそうに、何度もごめんねと言われてしまうので、好きでやってることだからで押し切った。



「わ、私までごちそうになるわけには……!お、お金はちゃんと払うよ!」



さすがにひなちゃんにだけ買うのも忍びなく、白坂さんにも同じものを買ったわけなのだが。



「いいよほんとに気にしなくて。あー、でももし貸し借りとか気になるならむしろごめんね」


「ううん……そうじゃなくて、お世話になりっぱなしだなって。ひなのこともそうだし、本来私がおもてなしをするべきだったのでは……!」



ころころと変わる表情は、わずかばかり見た学校での彼女よりずっと幼く見えた。



「白坂さんって思ったよりもずっと可愛い人なんだね。俺の好きでやったことだし、それに楽しかったよ。だからありがとう」


少しの沈黙のあとに、ぱちんと頬を叩いた彼女はじっと睨むように俺を見つめたあとに、こちらこそありがとうと微笑んだ。


「あとね……連絡先、聞いてもいいかな?またひなとも遊ぶ約束、してくれたんでしょ?」





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