27話 メガネを買いましょう
というわけでやって参りましたのはいつものショッピングモールでございます。
なんでも揃うこの場所には当然のようにいくつかのメガネ屋も含まれている。これらを順々に巡りつつ、気に入ったものを買おうという趣旨らしい。
「ほんとにいいの?俺の買い物メインになっちゃうけど」
「全然!ちょー楽しいもん。ねー、ひな?」
「うん!おでかけ!」
ひなちゃんは俺の左手を握ってぶんぶんとご機嫌に振り歩く。
最初は少しばかり罪悪感があったが、こんなに楽しそうにしてもらえるとこちらも嬉しい。
「天沢くんはさあ、どんなタイプがいいとかある?」
「いやほんとに自分詳しくなくて。だからこだわりとかはないかな」
「なるほどねえ、じゃあこれなんかどう?」
差し出されたのは角に少し丸みを帯びたタイプのもの。ごちゃごちゃしないシンプルなデザインが好ましい。
「色も黒か茶がいいと思うんだよね。天沢くんそういうカラーが好きなイメージあるし」
「たしかにだいたいモノクロとか選んじゃうなあ。色も黒とか白が好きだし」
渡されたメガネをかけてみれば思ったよりしっくりくる。隣を見ると白坂さんも指で小さく丸を作って得意げにうなづいている。
「いいね!似合ってるよ!」
「もうこれにしようかな……」
「だめだめ!もっといろいろ見ないと!」
いろいろなデザインやカラーのメガネの取っては渡しを繰り返して、どれが一番似合うかのチェックをしてもらう。多分……俺本人より気合いが入ってるかな?
「お兄ちゃんこれは?」
「ん?どれかな?」
「あれ!」
俺たちの後ろをついてきて、白坂さんと一緒に評価してくれていたひなちゃんが指を差すのは少し高めの位置にあるサングラス。
サングラスかあ……普段使いは流石に無理かな。俺まだ全然高校生だし、教室でサングラスかけてるやつは痛い通り越して怒られるだろ。
とはいえキラキラした瞳で見られれば断れない。買う買わないは別としてかけるくらいは問題ないだろう。
「おー!わあー!いい!」
「うーん、たしかにこれはいいね。ちょーっとチャラさを感じないこともないけど……」
コテコテのサングラスというより、カラーレンズのメガネに近いからかたしかにそこまで違和感はない。というより結構ありだ。洋画もかなり好きな俺としては、こういうのにちょっと憧れがあるし。
「これも買っちゃおうかな……!」
「私も夏だしそういうの買ってみようかなあ。あ、でもさ気に入ったならいいと思うけど……学校じゃかけられないよ?」
「そ、それもそうですね。今度検討しよ。まずは普段使いを買わなきゃ」
はしゃぎすぎたテンションを落ち着けて、サングラスを棚に戻す。ひなちゃんはえー、と残念そうにしていたがあまりにも必要ないものは買えないからね。残念なのは俺もだよ。
「なんだかんだ最初のやつがいちばん良かったかも。白坂さん的にどう?」
「うーん私もそうかなあ。よし!じゃあ次のお店に行こう!もっといいものと出会えるかも」
「ありがとう、じゃあお言葉に甘えて付き合ってもらいますね」
「任せといて!せっかくなら最高のやつをかけて欲しいし!」
「ひなもがんばる!」
気合いを入れる時に小さくガッツポーズみたいな格好をするのは姉妹共通らしい。シンクロしたポーズの可愛らしさと善意に、俺は心からありがとうと返した。
場面は変わって、俺たちはいまフードコートでスイーツを食べている。それはなぜか、シンプルにおやつの時間ということと、残り二つどちらにするかを悩んでいるからだ。いまいち最後の決め手に欠けてしまい、決断に時間がかかりそうだったので、悩むついでにスイーツタイプにしようというわけだ。
「どっちもすごく似合ってたからあとは好みだけど……これは悩むよねえ」
「そうなんだよね、正直自分でもどっちもいいなって思っちゃって。悩むなあ」
あの後残りのテナントを全部回って試着してみたら、最初に気になったやつ以外にももうひとつ気になるものがあった。いまはその二択なんだが……いかんせん悩む。
久しぶりに買い物でこんなに悩んでいるかもしれないな。気分転換で食べているスイーツの甘さが脳に染み渡る。
「お兄ちゃん、これおいしいよ?たべる?」
俺が悩んでいるのを気遣ってか、ひなちゃんが自分のドーナツを差し向けてくれる。
「お、いいの?じゃあひなちゃんには俺の分をあげようかな」
「いいの!?」
「もちろん、食べてみて美味しかったら全部食べちゃってもいいからね」
「うん!ありがと!」
ひなちゃんの分の残りを味見させてもらいつつ、差し出せばもぐもぐと美味しそうに頬張っている。
俺は一度悩むとなかなか突破できない性格だったが、こうして気分転換をするとやはり違うな。だいぶ気が楽になった気がする。
「へー……。白坂さん!俺決めました!最初のやつにする!」
「お、決まったんだー。何が決め手になったの?」
「これを見てください!」
俺はネットでぽちぽちと調べた画面を見せる。
「あ、知ってるハリウッド映画とか出てる人だよね!私この人好きなんだよねー!」
「俺もファンだったんだけどね、この人のメガネのフレームが最初のやつと同じやつなんだって」
「へー!たしかに言われると同じだね」
「だからこっちにします!やっぱりこういうのは憧れから入るのも悪くないんで!」
読書も映画や音楽の趣味も、コーヒーだって親に影響された面は大きい。やっぱりいつだってなにかのきっかけは憧れだろう。
「いいね!じゃあこれ食べたら買いに行こっか」
俺は元気よくはい!と返事をする。ひなちゃんはもう移動だと思って焦って食べようとしたが、ゆっくりで大丈夫だよと声をかけるとホッとしたように、美味しそうに頬張ってみせてくれた。
「どう?やっぱりメガネあるだけでだいぶ違う?」
「うん……全然違うかも。なんかいつもより呼吸が楽……?っていうかなんていうか」
「そっか、なら良かった!」
メガネを買ったことだし、せっかくなら髪を上げてメガネをかけて散歩でもということになり、俺たちはいま帰りがてら近所を散歩している。
知らない人しかいない外では前からある程度平気だったが、それでもメガネひとつあるだけで精神的にひどく落ち着く。自分がまたひとつまともな人間になれた気がして、それがまた嬉しいのだ。
「教室でも……これさえあれば大丈夫になれるかな……」
何気なく呟いた独り言のつもりだったが、白坂さんにはしっかりと聞こえていたらしい。
「もしね、もし良かったら私の友達で練習する?」
相手にとって地雷を踏まないように、不快にさせないようにと遠慮がちに尋ねる。
「ごめんね、嫌じゃなかったらなんだけど。私の友達なら私も一緒にいても問題ないし?」
「……もし白坂さんやお友達が嫌じゃないなら、お願いしてもいいかな?」
今ならいける気がした。最近は色んな人のおかげで、自分や他人と向き合うことができてきたから。なにより彼女の善意や好意に遠慮するのも違うと思った。
「もちろん!え!じゃあじゃあいつにしよっか!放課後に教室とかならいいかな?」
俺のことなのに、ああなんて心が清らかで優しい人なんだろうか。自分のことのように喜び嬉しそうな彼女に俺はいつも救われている。
「白坂さんには、お世話になりっぱなしだね」
「ええ?私の方が色々助けられてるけどなあ」
「そう?」
「絶対そうだよ!ま、これで少しはお礼ができてるのかな?」
「じゃあ……これからも俺を頼ってくださいね?俺もいっぱい頼らせてもらうんで」
「ず、ずっるいなあ……!あれだよ?その顔私の友達の前じゃしちゃダメだからね!」
「あれ、変な顔してた?まいったなあ……」
「変ではないけど……!もうこの話終わりね!」
最後の最後に少し拗ねたように顔を背けられてしまったが、こちらを振り返ってべーっと舌を向ける彼女は笑顔でいる。
ああ、やっぱり救われているのは俺の方だよな。絶対認めてくれないだろうから言わないけどね。
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