26話 夏といえばプールが試練
「ねえ白坂さん、夏といえばなんだと思う?」
「えー?んー花火かなあ。ほらうちの近所でもお祭りあるじゃない?そこでも花火上がるから、夏の風物詩って感じ!」
「おまつり!ひなね、楽しみ!」
今日も今日とて、きゃっきゃっとはしゃぐ姉妹を見ながら微笑む。普段ならなんて可愛らしい姉妹なんだと心和むシーンではあるが……いや今も和むな。とはいえ今日の本題は全く違う。
「夏といえばね、プールなんですよ!そう……憎きプールです!」
俺の高らかな宣言に反して、姉妹の反応はひどく薄い。むしろ冷ややかな視線すら感じる。
「お兄ちゃん……プールきらい?ひなは好きだよ」
「プールは私も好きだけど、嫌いなんだ。ちょっと意外かも、体育とかも楽しそうにやってるし」
「いや俺もプールは好きだよ。けどね、俺が嫌いなのは……学校のプールなんですよ!」
「あーね、私も授業の水泳は苦手だったなあ。中学の頃までは男女一緒で恥ずかしかったもん」
ひなちゃんは涼しくて楽しいから好きなんだそう。可愛いね、とにかく可愛い。
思春期の男女が関係なくプールは同じって言うのは冷静に考えると恥ずかしいのは当たり前だろう。男の俺も若干の気恥ずかしさを感じたんだから女子はもっと嫌だったろう。
まあ今の本題はそこじゃあないが。
「うちの高校ね、二年男子だけ必修なんですよ!おかしいでしょ!?」
「あーそうなんだ。女子も一応選択できるらしいけど……誰も取ってない気がするなあ。水泳部の子たちは取ってるかもだけど」
私も水泳は恥ずかしいし取らないかなとボヤく白坂さんは一度置いておく。というか彼女が選択したりなんかしたらとんでもないことになるだろうな。
「一年は陸上と選択だったからもちろん取らなかったんだけど、今年は……逃げられないらしくて」
「天沢くん……泳ぎ苦手な感じなの?」
「泳ぐのはめっちゃ好き。てかプール自体はめちゃ好き、毎年行ってるかも」
「え、じゃあなんで……ってもしかしてあれかな、髪型の問題?」
そう!と俺が力強く頷けば合点がいったらしく、なるほどねえ……とうなっている。
プールに入れば通常の髪型は維持できない。そして問題は水泳の時間だけに留まらないのだ。びしょびしょの髪である以上その後の授業は残りの時間でも普段の髪型は難しくなる。そうなればつまり……髪をあげなきゃいけなかったりする。髪を整えるのが難しいことと、シンプルにウザったいからだ。
なんにせよつまり俺は心の安寧を守ってくれている、前髪という視線ガードを失う可能性が高いということだ。
「つまりね、そういうことなんです。今年一のピンチが来てしまった……!春先から考えてはいたんだけど、結局今のいままでアイディアはなしで」
「うーん……水泳中は絶対髪をキャップにしまわなきゃだけど、それは平気?」
「そこはギリ我慢できます多分。あと陸に戻っても最悪ゴーグルあるんで」
「陸に戻るって……魚じゃないんだから。じゃあ今はプール終わりの時間が問題というわけね」
普段の髪型はどうやってるの?と聞かれたから毎朝全力で下ろす感じのセットをしていると教える。ブラシとドライヤー程度の簡単なものだが、下ろしきるのは楽なもの。
「同じようにするのは……難しいね。ってなるとむしろ髪を上げなきゃいけなくなるわけね」
「そうなんです。でも俺いっぱいの視線が苦手なんで、何か顔の前に守られてる感が欲しくて」
仮に見られていないとしても、見られているのではないかとか見られたらどうしようという漠然とした不安が襲う。自意識過剰と言われればそれまでだが、どうしても耐えられないのだ。
「んー。あ、じゃあさ!メガネなんてどうかな?」
「メガネ……?俺別に視力はそこそこいいけど」
「別に度なんていらないよ!伊達メガネでいいもん。どうかな?顔を覆ってくれる実感もありそうだし」
「たしかに……いままでかけたことなかったから考えにもなかったけど。ありかも……!」
メガネではい解決とはいかなくても、ほんの少しでもマシになるなら儲けもんだ。
現状俺のこのトラウマ的なものに解決策なんて見出せていないのだから、やってみる価値は十分ある。
「よし!じゃあ俺今度メガネ見に行ってみる!」
「はいはい!私も行く!ひなも行くでしょ?」
「いく!ひなもひなも!」
ぴょんぴょん跳ねるひなちゃんとワクワクした顔を隠し切ろうともしない白坂さん。
「俺はありがたいけど……メガネ見るだけだよ?」
「もちろん!それにどれが似合ってるか聞く相手も必要でしょ?大丈夫!私がピッタリなの選んであげるから!」
ピースサインを掲げる白坂さんに一抹の不安を覚えないでもないが、たしかに人の目から見て似合うかどうかは大事だろう。別に店員さんに聞いてもいいんだけど、頻繁に会う人からの意見の方がたしかだし。
「じゃあ今度ついてきてもらって。近所のショッピングモールに入ってるよね?メガネ屋さん」
「入ってる入ってる。それにさ、今度と言わず今から行こうよ、時間まだ昼過ぎだしさ!」
「え?今からすか?俺としては助かるけど……」
「でしょでしょ!よし!じゃあ出発!」
「しゅっぱーつ!おー!」
「お、おー!」
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