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24話 体育の時間③

天沢くんと別れて伊織たちのいるフットサルコートの方へと戻る。


戻る少し手前でふとある考えが頭をよぎる。


借りてもいいって言われたんだし、ちょーっと匂ってみるくらいいいよね?それにバレなければセーフだもん!


ジャージの首元に少しだけ手を伸ばしてみる。そしてそのまま顔を埋めてみて……


「へいへい、彼女なにしてんの!」



「わー!ごめんなさい!まだなにもしてないんです!……って伊織かあ、驚かせないでよね!」



「長袖借りてきたの?あー!それでいま匂ってみようかなって思ったでしょ!」


「ち、違うって!」


「うっそだあー!見たことないくらい顔赤いし!やだぁー、やらしーわぁ」


「伊織!だから違うって!」



私の抗議もむなしく、伊織はにやにやとした顔をして楽しそうに笑っている。


「詳しくお姉さんに聞かせてみなさいな!」


「いいから!」



ニヤニヤとからかう伊織を無視してグラウンド戻る。2人で端の方に座って改めて座り直すとようやく伊織も冷静なったらしい。ただ今度は別なスイッチが入ったのか


「や、やっぱりさ…匂いとか…かいでみた?ど、どうだった!?」


改めてテンションが急上昇中だ。普段は大人っぽいのにこうなると子どもっぽくなる。



借りてきた私よりも伊織の方が大興奮な気がする……いや私は別に興奮なんてしてないけどね……!



「そ、そんなことしてないよ!……で、でもさ?やっぱりそれくらい普通だよね……?変じゃないよね!?」



あくまでも確認だ、そうあくまでも。それにまだ未遂で匂ってみてないんだから問題ない。


「ふ、普通だよぉー!絶対そう!か、かいでみようよ…ていうか、かいでみるまでもなく匂い分かったりしないの?」


「す、するよ!正直めちゃくちゃいい匂いするから!だからなおさら匂ってみたくなるの!悪い!?」



自分でも清々しいほど逆ギレしてることはわかる。でもしょうがないのこればっかりは。



「え、え、なんかさ、いざそんな場面になったら、全然茶化せないんだけど……!いいなぁー、私も男の子のジャージ着てダボダボ〜とか言ってはしゃぎたい……!」


「私そんなことしてないって!」



改めて深呼吸をして冷静になる。なんか……本人の不在のところで私物?私服?の匂いをかぐっていうのは……少し変態チックな気がしてくるかも……。


「ね、ねえ…やっぱり匂ってみてもいいよね?変じゃないよね?」


「わ、私もいーい……?いや、だって興味あるんだもん……!ねえいいじゃん!ずるーい!」



この子ほんとに伊織!?普段とキャラが違いすぎるんだけど……!ひなと話してるのかと思ったよ!



「だーめ!これは私が貸してもらったんだからね!天沢くんも私に匂われるのは想定済みでも伊織は想定外なんだから!」



私は大きく深呼吸をして、ゆっくりと慎重にかぐことにする。



「い、いくよ……。……あっ……!ちょ、ちょっとだけ待って…!」


「え、なになに!そのリアクション!」


なんかめっちゃいい匂いするんですけど……!もう私匂いフェチでいいかも……!



「ねえー!ずるい!幸せそうな顔しちゃってさー!わ、私も一瞬だけ、一呼吸でいいからぁー」


無視無視。これは私のなので譲るような義務はありません。

いままで意識したこともなかったけど……私服でもこんな感じなのかな?


ていうかもしかして……ひなはいつも遥くんにくっついてるけど……匂いフェチ的なこと?いやいやあんな小さい頃からはさすがに……でもこれが遺伝的なものなら……?ま、考えても仕方ないか。



「ちょっと!無視はやめてよぉ!いいなぁ、私もどっか適当な男子からジャージ剥ぎ取ってこようかな……」


目がマジだ。伊織のこの情熱はいったいどこからくるのだろう……。少なくとも私はあんまりこんな顔見たことないかも。


「二人とも、こんなところで何してんすか?試合、もうちょっとで始まりますよ?ていうか……なんで二人そんなに距離近いんです?あ!なにか楽しいことやってましたね!私抜きで!」


突如として千尋が私らの元へと駆け寄ってきた。


この時だけは間違いなく伊織と意見があったと思う。これ以上面倒な乱入は断固拒否!


「なんでもないよ!ね、伊織?」


「もちろんもちろん!さ、試合試合!」


そのまま私たちは不思議そうな顔の千尋ちゃんを連れてグラウンドに合流した。


試合は男子たちとは違ってかなりゆるいものだったけど……男子の視線はやっぱり少しだけ嫌だ。スタイルがいい子はみんな走っているだけで見られると言っていたし、自意識過剰かもだけど私自身も見られているなと感じることは多い。


「結衣さんなんで長袖着てんの?さっきまで半袖だったろ?」

「それ楽しみで試合見てんのになー、結局女子みんな長袖だぜ?」


そんな風な声が聞こえてくる。バレないと思っているのか視線は不躾で、会話も思わず頬がひきつるような話題も多い。本人たちは小声で話しているつもりなんだろうけど意外と聞こえてるし、そもそも声が大きいことも全然ある。別に絶対見るなとは言えないけど、せめて聞こえるような声で話すのはやめて欲しいかな。


でもそう考えると長袖借りれてほんと良かった。



「残念ながら肝心な天沢くんはあんまりこっちの試合見てないねー、活躍するところ見せたかった?」


伊織が言うように天沢くんは基本お友達とずっとリフティングの練習をしている。暑そうな伸びた髪の毛と対照的に時おり見えるのは爽やかな笑顔。雲ひとつない晴天も相まってとにかくどこかのCMくらい爽やかに見える。


「ううん、楽しそうでいいなーってくらい。たまに見てくれれば十分だもん。それより私だけ半袖だった事実に震えてる」


「まぁそれ普段のやつよりサイズも大きいし、スタイル隠すのにもちょうどいいかもね。てかあんたさ……試合中に隠れて匂うのはやめなよ……。そんなところ見られたら流石に引かれるんじゃない?分かんないけど」


うう……やっぱりバレてた……。だって走るとなんかほのかに香りが漂うというか……?自分のじゃないから結構分かっちゃうんだよね。それに見てないのを確認してからやってますから!


「天沢くんはこの程度じゃ引かない……!多分だけど……。でもたしかにこれちょっと安心するんだよね、このサイズ感しっくりきちゃって。次からも借りれないかなぁ……」


これはなんかもうやめられない気がしてきた……。だってこの安心感を知ってしまったら無理!


「いいなぁ……。あれですか、自慢ですか?あーあその恍惚とした表情を見られてドン引きされないかなぁ……」


伊織はほんとに私の友達!?なんでこんなに嫌そうなの!?それに恍惚としてなんかない、多分……!いや絶対!


「あ、試合終わった。あー疲れたぁ…結衣さんの惚気話を聞くので大変だったよ…。」


「い、伊織が聞くから!それに恍惚ともしてないし、惚気でもないから!匂ってたのは事実だけど……でも別にそれだけだからね」


だって自分でもこんなに匂いに夢中になるなんて思わなかったんだもん。こんなこと言うのもなんだけど、ある意味これを知らなかった方が精神衛生上は良かった気もする…。


「まさかあの結衣が匂いフェチで、授業中に我慢できなくなってキメてるとは思ってもみないだろうねぇ。私は嬉しいよ、結衣にもそういう一面があるって知れたからね!」


「そ、そんな言い方やめてよぉ……。だってなんかハマっちゃって……。ちょっとクセになりそうっていうか……。」


今もはやこの上着の方じゃなくて、半袖の方もかいでみたいという欲求が出てきてしまっている…。


さ、さすがにやらないけどね!少しだけ興味があるってだけで…。


「あんた……その顔絶対人前しちゃダメだからね。特に絶対男どもの前でなんてやめときなさいよ」


「し、しないよ!伊織の中で私って今どんなイメージなの!?」


「あーでも天沢くんの前ではいいのか……。彼以外の男の子の前ではってことにしよっか!」


「伊織!冗談でもそういうこと絶対本人の前とかで言わないでね!」



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