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20話 自宅へお邪魔しよう

今年のゴールデンウィークは中日に平日を挟んでいる。そのためその平日を休めない場合、連休は前半後半というような形で分かれるわけだ。


動物園に行った日は前半であり、混雑はそこまでだった。しかし、今日という日は違ったようだ。後半の祝日と土日が続く基本的には連休となるゴールデンウィーク本番はどこもかしこも激混みである。



俺や大地が遊ぶようなカラオケやらであれば予約すればいい話だしそこまでストレスはない。だがファミリーの訪れる場所はどうだろうか。例えばショッピングモールやアウトレットである。

特にアウトレットは激混みである、本当に。



「うぅ……お姉ちゃん……」


「はいはい、ひなおいで、抱っこしてあげるから」



人酔いしてグロッキー状態のひなちゃんとそんな幼い妹を健気に介抱する白坂さんを目の前にする。


そう、俺たちはいま絶賛アウトレットにいるのだ。理由はいくつかあるが、まずはゴールデンウィーク期間中はキッズ向けにミニ縁日や屋台が出ていたりする。お祭りが好きらしいひなちゃんはここに興味津々だったこと。次に俺も白坂さんもシンプルに服を見るのもいいかと思っていたからである。セール中で普段より安いし。



「いやー……舐めてたなあ。ゴールデンウィークってやっぱりこんな混んでるんだ。夏休みとかはここまでじゃないのに」


「ゴールデンウィークは短くてずらせないだろうしねえ。夏休みなら日程調整とかもできるかもだけど」


「今日は帰ろうか?また来ればいいし」


「うーん……そうしてもらってもいいかな?せっかく付き合ってくれたのにごめんね」


全然大丈夫と告げて駅の方へと向かおうとすると


「お姉ちゃん、おうちかえるの……?」


「人多くて疲れちゃうからねー。ひなももう疲れたでしょ?」



不満はあるものの、わがままを言わないように我慢しているのか、白坂さんの胸元へと頭を埋めてぐずぐずとしている。


どうしたものかと白坂さんと顔を見合せていると、小さな手で軽く袖口を引かれる。


「お兄ちゃんもうかえっちゃう……?いっしょにおまつりしたい……」


「ここのお祭りは難しいけど、他のだったら夏とかもあるから、またいつでも行けるよ」


「なつ……なつ!?いっしょにいってくれる!?」


即答でイエスとは言えないが、純粋な眼差しを前にノーとも言えない。パスという意味でちらりと白坂さんを見れば、


「ひな、天沢くんは絶対来てくれるよ!だから今日は帰ろうね」



彼女はこちらを満足げに見つめ、これでいいよね!という意味かなにかで親指を突き立てポーズを決める。


こちらの意図とは少し異なったが、彼女がいいというなら俺としても問題はない。いろいろと誤解はあったが、ありがとうと返す。



アウトレットと最寄りは数駅ほどあるので、電車で帰ることとなる。そんな道中、夏祭りに思いを馳せご機嫌だったひなちゃんであったが、子どもながらに夏がまだまだ先だということに気がついたらしく、だんだんと不満げな顔をし始める。


「もうおわり?」


「んーどこも混んでるしなあ……。あ!じゃあ天沢くん、うちくる?」


「は……?」







「わりと駅から近いでしょー」




駅を降り連れられるまま姉妹の自宅へと導かれてきた。あの後結局断れる空気感でもないし、本人がいいと言っているなら別にいいかくらいの軽い気持ちでここまで来てしまった。



しかし……いざ目の前まで来るとこれでよかったのかは疑問が残る。だってこれ万が一バレたらほんとに殺されるからね。



「そ、そうっすね。え、俺ほんとに上がっていいんですか?」


「え、うん。あー、もしかして緊張してるのかなー?」



時々やる、ニヤニヤとからかったような表情で見てくるがこればっかりは素直にリアクションせざるを得ない。



「まあそうっすね、女の子の家に上がるわけなんで多少は緊張するのもしゃーなしというか……」


「……なんか本気のリアクションされるとこっちまで緊張するというか……照れるというか……」



「お姉ちゃんなにしてるの?お兄ちゃんはやくいこ!」



やっぱり気まずい空気をぶち壊してくれるのはいつもいつもひなちゃんだよ。変な緊張もすっかりほぐれ、いつも通り過ごせばいいんだと改めて思い直す。



勢いよくグイグイと引っ張られマンションのエントランスに入れば、オートロックなんてのはもちろん管理人も常駐しているらしく、セキュリティはバッチリだ。これならたしかにこの姉妹のような女の子たちにとっては安心だろう。



「ひな!天沢くん連れてエントランスのソファらへんで待っててね!」


「らじゃ!」



ビシッと敬礼のようなポーズでお姉ちゃんからの指示を受ける。こういうやりとりは微笑ましくてついつい頬がゆるむが、何をしに行くのか。行く先に目をやれば先ほど見た管理人さんの元へと何かを頼みに行ったらしい。



俺は一軒家育ちだからマンションのシステムをいまいち理解できていないかもしれないが、何かしら用事があったのだろう。



「ごめんね、お待たせ。さっ!行こうか!」


「ひながつれてってあげるね!」


幼い手に引かれるままについて行く。ちらりと先ほどの管理人さんを見れば穏やかな表情でにこりと微笑んでくれたので、会釈を返しておく。





「さあどうぞ!いらっしゃいませ!天沢くん」


「いらっしゃいませ!」




玄関を開けるとひと足先に入り、わざわざ出迎えるポーズを取ってくれる姉妹。俺が彼女に当初抱いていたクールなイメージはもう完全にない。



「お邪魔しますね、手ぶらで申し訳ないけど」


「ぜんっぜん!むしろ急にごめんね」



リビングに通され、適当に座っててとは言われたもののどこに座るべきか悩ましい。テーブルのイスは家族で普段どこに座るとかもあるだろう。かといってソファにずけずけと座るというのもいかがなものか。



しかもどれもかなり良さげというか、綺麗に扱われているのがひと目でわかる。うちの適当に扱われた形跡しかないソファやイスとは全くの別物に見える。



「お兄ちゃん!ひなのおへやみる!?」


「ひなちゃんもう自分の部屋あるのかあ、いいね。じゃあ良かったら案内してくれるかな?」


「こっち!」


リビング以外にもある部屋のひとつがひなちゃん用の部屋らしく可愛らしいぬいぐるみや絵本、勉強道具が並んでいる。


お気に入りのおもちゃや本を見せてくれたりと至れり尽くせりの案内だ。もうひとりで読み書きは十分できるらしく、ひとりで絵本や児童書のようなものなら読んだりするらしい。もちろんスラスラと読むというのは難しいかもしれないが。



「すごいねえ、もうそこまで読めるんだ。じゃあもう読み聞かせとかはいらないかな?」



「え!……よんでもらうのも好きだよ……!」



「あはは、そうだよね良かった。じゃあお姉ちゃんが戻るまで俺が読んであげようか」



「ほんと!?じゃあねじゃあね、これ!」



本棚から引っ張り出してきたのは、いつの日か俺が買ってあげた絵本だ。俺も昔好きだった本で、読み聞かせられたことはあっても、読み聞かせる側になったのは初めてかもしれない。俺もだいぶ大人になったんだなとしみじみ思いつつひなちゃんから受け取る。



「あとねあとね、おひざ乗ってもいーい?」


「もちろんどうぞ」



おいでと膝のうえをぽんぽんと叩けば勢いよく座った。男の膝なんて座り心地も良くないだろうし、姉である白坂さんと比べれば雲泥の差だろうが嬉しそうにしているから満足してもらえているのだろう。

いや……白坂さんがどうとか考えるのはちょっとまずいか?



雑念を頭から払いつつ読み聞かせる。一緒になって読んでいると俺も懐かしさと話のクオリティの高さに驚く。子どもが読んでも面白いということは大人が読んでもやはり面白い。



可愛らしい絵で惹き付けつつ物語を楽しめるようになればもっと魅力的に見せれるというのはなんて素晴らしいのだろうか。大人も子どもも一緒に楽しめるコンテンツはすごいなと感心させられる。



何度か読んでいるだろうに、お話が終わればひなちゃんはワクワクした顔で満足げだ。何度も夢中になれる性格なのか、この本がよほど気に入っているのか。その両方だったらいいな。



「お疲れ様、ありがとうね!天沢くんはコーヒーか紅茶ならどっちがお好みかな?」



読み終わってすぐに扉のそばから白坂さんが声をかけてきた。少し扉に寄りかかった姿は妙にさまになっている。微笑ましいものを見たような視線はいたたまれないものがあるが。


「コーヒーが好きかな。それよりも居たなら言ってくれれば良かったのに」


「邪魔したら悪いかなーって。それに私も見てて楽しかったし!」


いい笑顔でそう言われてしまえば返す言葉などない。俺は軽くため息を吐いてからひなちゃんの頭を軽く撫でて改めてリビングへとお邪魔した。





「やだー!かえんないで……!」


「うーん……参ったなあ。嬉しいような困ったような……」


絶賛足に絡みつくのは例によってひなちゃんだ。今日はいつもより激しく引き留められるのは家の中という空気感がそうさせているのか。


「ダメだよひな!天沢くんも帰んなきゃなんだから。……毎回毎回ごめんね」



あの後リビングで飲み物とお菓子をいただきつつ、3人でテレビやアニメを見て過ごした。自宅のためいつもより長い時間が遊べたこともありひなちゃんのテンションも高いままだったから尚更寂しいのだろう。


「もし良かったら、また来てもいいかな?」


「え、全然いいよ!むしろ嫌じゃなかったなら嬉しい!」


「よかった。それじゃあひなちゃん、今日は帰るけどまた遊びに来るからね」


「ぜったい?やくそくだよ?」



普段よりも念押しされるからよほど楽しんでくれたんだなと心が温かくなる。絶対だよ、約束するからねとしっかり目を見て伝えれば納得してくれたらしく最後は笑顔で見送ってくれた。


エレベーターを降り、エントランスまで出るとさっきも見た管理人さんと目が合う。


住民でもないし話しかけるわけにもいかないが、軽く会釈だけしておく。向こうも会釈してくれたあとに優しく微笑まれた。


なんか最近こういう微笑ましそうな笑顔で見られることが多い気がするな……。





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