19話 親友に隠しごとはできない
ゴールデンウィークの序盤、姉妹と動物園に行ったのはつい昨日のことだ。今日は少しゆっくりしながら読書や映画でも、と思っていたが
『遥くん、お前がこそこそと俺に隠れてなにかやってることは知っています。詳しく聞きたいので今日の1時にいつもの場所でお前を待つ』
半ば脅迫に近いようなメールが親友を自称する男、大地から届いたこともあり家を出なければならない。特段こいつに隠しごとなんてしているつもりもないんだけどな。
「おーい!こっちだこっち!」
いつもの場所、とは俺たちの家の比較的近所にあるファミレスだ。学生のたまり場としては定番中の定番だろう。俺が来るまで待っていられなかったのか、大地はポテトとドリンクバーを飲みながら俺を呼ぶ。
「ごめん、待たせたか?」
「いや俺がちょい先に着いたからな。あ、ポテトは好きに食っていいぞ」
「さんきゅ、ドリンクバーだけ頼むわ」
タッチパネルで俺の分を追加でドリンクバーを注文しておく。いちいち店員さんを呼ばなくて良くなったのはこういう時ありがたい。
「それで?わざわざ呼んだ理由は?」
「やだなあ、親友と遊ぼうっていうのに理由が必要か?」
「遊ぶ予定ならもうちょい先に立ててたろ。わざわざ午後から呼んでまでしたい話がなんだって聞きたいんだ」
「まぁ遊んだ時にじっくり聞いても良かったんだが……どーしても気になってな」
「だからそれがなんだって聞いてんだ。いちいちもったいぶるなよ」
最初こそニヤニヤとこちらを煽るような顔をしていたが、俺にわざわざ急に呼んでまでする話題に心当たりがないことに気づいたらしい。ついには怪訝そうな顔をし始めた。
「え、まじでないの?俺に言うことだよ?俺に!」
「だから別にねえって」
「はー!そうですか!だったらこれを見てもそんな態度でいられるかな!?」
ドヤ顔で突き出してきたのはスマホの画面だ。それも俺の妹である紬とのトーク画面である。
「……俺いくらお前でも紬狙ってんなら許さないけど?」
「ちげえよ!お前のことがいろいろと心配だからって紬ちゃんが一応交換してくれたんだよ。マジでお前の話しかしてねえよ、ほんとだからな!?」
「あんなに可愛いんだぞ!興味無いなんて信じられるかよ!」
「うるせえなあ!……お前も知ってんだろ、俺の好みは年上なんだぞ。百歩譲って同年代までだな」
「まあそれもそうか……。でも紬は例外的な可愛さだからな……」
「もうその話いいよ……多分お前最後まで折れないから。変なとこ頑固なんだよまじで」
この話は終わりだと言ったあと、仕切り直すように再びトーク画面を見せてくる。
そこには
『お兄ちゃんに彼女ができたかもしれません 何か知ってますか』
『お兄ちゃんって言うのは天沢遥くんのことだよね?』
『それ以外あるわけないですよね?』
『いやマジで知らない 少なくとも学校で女子と話してる記憶なんてマジでない』
『でも今日わざわざ髪型までセットして出かけたんですよ?それも服装も一応私が合格を出した服でです』
『それは、、ガチだな 学校ではほんとに心当たりがないから俺が問い詰めるよ』
『ありがとうございます』
「と、以上だ。分かるな?どこの女と会ってんだ!紬ちゃんにも内緒で!」
いろいろと言いたいことはあるが……何よりも紬が鋭すぎないか?そもそも俺がどこの誰と出かけようが、なんでこいつや妹に断りを入れなければいけないのか。
いや……散々心配かけてきたからな、今回ももしかしたら……なんて思わせているのかもしれない。
「まずひとつだけ言わせてくれ。俺は本気でお前らに話すことでもないと思っていてな、さっきのは別にとぼけてたわけじゃないんだ」
「それは分かってるよ。だから、あ、こいつガチなんだってちょっと引いたから」
大地は場を和ませようと茶化すような口調で言った。それはそれとしてムカつくことはムカつくが。
「まあ……実際新しく出来た友達みたいな人がいて、その人が女の子だってのは事実だよ」
「うえ!まじか!」
「あーでも、お前らが勘ぐるような関係ではないからな?ほんとにただの友達なんだよ」
「男女の友情なんてあると思うか?どっちかが好きになったらそんなもんは破綻するんだぞ」
「俺はそんなんじゃないし、向こうもそうじゃない、全くな」
「またまたあ!紬ちゃんから聞いてるぜ、しっかり決めて行ったてなあ!少なくとも俺と会うよりラフではない!」
ビシッとこちらを指を差して渾身のドヤ顔を決める。その自信に満ちた表情はまるっきりなにかの名探偵にでもなったつもりなのだろう。
「仮にも女の子と出かけようってんだぞ?お前と会う時ほど手は抜けないだろ」
あくまでマナーとしてだ、とはっきり言い切ってしまえば大地としてと納得はできるらしく、うーむと唸りながらも閉口した。
「それで、どこで出会ったんだ?俺の知ってる相手か?」
関係性の面ではこれ以上深掘りしても無意味と悟ったのか、今度は相手の方を掘り下げるつもりらしい。
ここでその友達というのが、白坂結衣であると話すべきか。俺も大地相手に嘘やごまかしは気が進まないという気持ちと、勝手に話してしまっていいものかという相反する気持ちがある。
「んー……いったん時間くんね?相手に聞いてみるから、どこまで喋っていいか」
「……そのリアクションで少なくとも俺の知ってそうな相手ってのが透けて見えるな……」
「まぁそう焦んないでくれ、向こうの都合もあるし返信来なかったらまた今度遊ぶ時にでも説明してやるよ」
へーへー、と渋々ではあるが納得した大地を横目に、俺は白坂さんに事の顛末を説明し、俺の友人である大地に対しては説明してもいいかの許可を取る。
ゴールデンウィーク中ではあるし、返信にはあまり期待していなかったが、彼女からの返信は想像より遥かに早かった。というよりも送って少し目を離した隙に返ってきた。
『全然大丈夫だよー!むしろ話してもらって!』
『ありがとう なるべく余計なことは言わないようにするから』
『余計なことってなにかな!?私なにか粗相を……?』
『いやほらプライベートなことだし 出かけた話とかもなるべく言わない方がいいかなって』
『むしろ言って欲しいかも それに天沢くんのお友達なら変に言いふらしたりしないでしょ?』
なんだかこう……信頼されているのだろうが変にくすぐったい感じがする。それに彼女の立場的なことを考えればもっと警戒した方がいい気もするが、それは今さらの話か……。
「あのー!俺といること覚えてるか?ずいぶんと楽しそうにやりとりなさってますけど!」
「覚えてる覚えてる、許可は取れたよ、気にせず話してくれていいってさ。けどお前絶対他に言ったりするなよ?」
「それくらいは分かってるって。それでそれで?どこのどなたなんですかー?例のお友達ってやつは」
「白坂結衣さん、同じクラスの」
目の前でコーラを飲んでいた大地はぶふっっ!と吹き出した。若干俺の顔にもかかったことで、文句でもと思い睨みつけようとしたが、それより早く大地がまくし立てる。
「正気か!?お前……夢でも見てんじゃねえのか……?あの人難攻不落なんだぞ?」
「まあ夢かもなあ。それに俺別に落とそうとか思ってねえし」
「そういうことじゃ……てかお前全然興味無さそうだったじゃねえかよ。いつから仲良くなったんだよ」
「春休みにちょっとな。それまで顔と名前くらいしか知らなかったし、興味なかったのはほんとだからなあ」
「お前らしいっちゃらしいな。そういや……委員会も同じだったな、お前が殺気の満ちた目で見られたやつ」
言われてまた憂鬱な記憶が浮かび上がってくる。あの時は完全に終わったって思ったもんな。俺が地味すぎて逆に騒ぎは落ち着いたけど。
「あれは別に示し合わせたわけじゃないよ、向こうも委員会とか興味あったんだって。でも知らない男だと面倒になるだろ?」
「あー……白坂さんのペアなんて争奪戦になるな、間違いなく。それに言い寄られたりするだろうし、納得だよ」
「そういうこと、まあ人柱みたいなもんだな」
「不満はねえのか?いきなりでビビったろ」
「そもそも可愛いってだけで委員会入るのすら躊躇しなきゃってのがおかしいからな。俺は別に」
「そりゃたしかに。今年はマシな方なんだぜ?去年めぼしいやつは基本振られたから」
そりゃ大変だなと呟いてポテトをつまむ。大地もそんなに面白くない話だと思ったのか、そうそうに切り上げて、再び俺と白坂さんの話へと戻っていく。
基本的な出会いやらその後の流れを大ざっぱに説明すると、出来すぎた話だと思ったのか、最初のほうはごまかしていないか疑っていたが結局は信じてくれたらしい。
最後まで俺のことを時々怪訝そうな顔で見つめてくるのは変わらなかったが。
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