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17話 動物園へ行こう②

ふれあいコーナーを出たあと、園内にあるレストランで食事を済ませることにした。動物をモチーフにした料理の数々はひなちゃんだけでなく白坂さんも魅了したらしい。


「かわいいー!こんなにかわいいと逆に食べられないなあ……」


「えー、じゃあひな食べていい?ちょっと食べたい!」


「だ、だめだよ!まだお姉ちゃんひと口も食べてないんだからね?」



白坂さんは可愛らしいクマをモチーフのランチプレートの前でにらめっこしている。ひなちゃんはお子様カレーを食べていたが、少し物足りなかったのかまだ食べたそうにしている。


「じゃあひなちゃん、俺のピザ食べる?それにこのあとデザートでもって思ってたんだ。ほら、かわいいうさぎのパフェがあるらしいよ?」


小さく切ったピザを差し出すと嬉しそうに頬張った。それからメニューを見せると興味を持ったらしい、何種類かあるデザートを真剣に考えている。


「白坂さんもそろそろ食べないと冷めちゃうよ?まぁかわいくて食べるのもったいないのはわかるけどね」



非常に葛藤しながら、愛らしいクマにスプーンを入れて食べ始めた。一度食べてしまえば気にならないらしく、美味しいという感情全開の笑顔だ。こういう表情はほんとに姉妹そっくりで微笑ましい。



メインの食事を終え、デザートを楽しんだ俺たちはレストランを出て動物園巡りを再開した。


チンパンジーをはじめとした類人猿コーナーを過ぎ、ペンギンのいるコーナーへ向かう途中だ。


「ひなー、ご機嫌直してよぉ。せっかくのお出かけだよー?」


ひなちゃんはいま完全に俺に抱きかかえられる形で、胸に頭ごとうずめている。お姉ちゃんが呼んでるよ、と声をかけても頭をふるふると横に振って見向きもしない。


「これは……やっちゃいましたね、白坂さん?」


「うぅ……だってかわいくて……!ついからかいすぎちゃったの……!ひな、ごめんねー!」


サービス精神の旺盛なチンパンジーに怯えていたところ、白坂さんがすこーしだけ怖がらせた結果がいまだ。すっかりご機嫌をななめにしたひなちゃんは俺の腕の中というわけである。



「ひなちゃん、せっかくだしペンギン見ない?ペンギンは怖くないし、ガラス越しだから安全だよ」


「見る……でもこのままでいーい……?」


「もちろんだよ、でも後でいいから意地悪しちゃったお姉ちゃんのことも許してあげてね?」


「お兄ちゃんがいうなら……とくべつだよ?お姉ちゃんたまにいじわるなの」


「そりゃあひなちゃんが可愛いからだよ。俺にも妹がいるけどね、昔はよくちょっかい出して怒られたもん。可愛くて大好きで仕方がないからついついやっちゃうんだよ」


自分でも言いながら過去の反省すべきことが浮かび上がってくる。思えば俺も紬をトラの檻の前で押すふりをして本気で怒られたことがあったな。


小学生男子が好きな子にイタズラをして嫌われるみたいに、やっぱり好きな子やかわいい子をからかいたいみたいな思いは人類共通なのかもしれない。だって白坂さんにだってそんな気持ちがあるのだから!



いざペンギンコーナーまで来てしまえば、その愛らしい姿に一瞬で魅了されたのか、すっかりご機嫌である。姉妹ふたりでかわいいねときゃっきゃっとしている姿は、白坂さんのファンからすれば垂涎ものだろうな。


「ありがとね、天沢くん!こうやって出かけるのも久しぶりだったから、私もテンション上がっちゃって。ひとりだったらひなに嫌われたままだったと思うからさ!」


「全然気にしないでください。むしろ白坂さんにもああいう一面あるの意外だったんで」


「え!もしかして引いた……?ごめんねー、変なとこ見せちゃったかな……」


「ああ、いやむしろ逆っていうか。なんていうか人間味というか親近感というか。言語化しにくいけど、俺としては学校で見る感じより、いまの方が好きですよ」


「うえ!?そ、そうかな……?あ、天沢くんも口が上手いなあ!もう!なんか照れちゃうよ……!」


パタパタと紅潮した顔を冷ますように扇いでみせる。この人の照れるポイントはあんまりよく分からない時がある。


それに日々告白という、人生で最もくらい照れて緊張するようなイベントをこなしているというのに。よく分からずにいると、じっと顔を見つめていたらしく、じろじろ見るなと顔を背けられてしまった。



若干の気まずさはあったものの、そこは癒しの存在であるひなちゃんが補ってくれた。そしてペンギンコーナーを終えればとうとうトラやライオンのゾーンがやってくる。


なにを隠そう俺の今日の最大の目的はこの姉妹にネコ科の猛獣のかっこよさを布教することにある。




「うわー!すごい、すごいね!」


ひなちゃんはさっそくテンションを上げてくれている。口で説明してもピンときていない様子だったが、見ればひと目で魅力がわかってくれたらしい。


「かわいいね!おっきなねこちゃんでしょ!?」


まぁ……意図した魅力とは違ったがね。


白坂さんもすっかり調子を取り戻してはいるが、そこまで熱中はしていない。前提として初めて生でネコ科の猛獣を見るひなちゃんと違って、白坂さんは何度も見てるだろうし、今さら感は否めないだろう。そもそもかっこいい動物より可愛い動物派っぽいし。


「でもね、トラは最強なんだよ。あのしなやかな肉体に鋭い牙と爪。トラこそが最強の生き物なんだ……!」


「えー!ひなライオンさんがいいなあ。あのもふもふかわいいもん!」


「まぁ俺もライオンの映画めちゃくちゃ好きだしな。正直ライオンも同じくらい好き、かっけえもん」


小学生の頃、授業かなにかの待ち時間で見たライオンの映画に俺はどハマりした。思えば動物が好きになったのはあの映画以来な印象がある。

おかげでハイエナを大嫌いになったわけだが。最近になってハイエナはネガキャンされていたことを知った。ライオンが意外と大したことないと知ったときは……なかなかにショックだったな。



その後は残りのエリアを順々に巡りつつ会話を楽しんだ。結局のところ可愛いものが好きらしく、姉妹そろって今日一番きゃあきゃあと楽しそうにしていたのはレッサーパンダである。もちろん俺も好きだけれど。



動物園のシメといえばなにかと聞かれれば難しいだろう。しかしテーマパークしかり動物園、水族館しかり非日常的スポットの帰りはやはりお土産コーナーだ。


当然ここの動物園にもこじんまりとしたものであるがお土産売り場がある。可愛らしい動物のぬいぐるみやTシャツをはじめとしたグッズがずらりと並べられている。


キラキラとした瞳でそれらを眺める姉妹はほんとにそっくりだ。



「ぬいぐるみほしい!お姉ちゃんだめ?」


「うう……!妹が可愛すぎる!でもね、ひなこんなにおっきいのはだめよ!」


ひなちゃんが欲しがり指さしたのはかなりの大きさのクマのぬいぐるみだ。たしかにこれは……持って帰るのも、置くのも大変かもしれないな。そもそもなぜこんなこじんまりしたスペースに置いてあるのかは疑問だが……。


とはいえなかなか諦められないらしく交渉を続けている。白坂さん曰く、ひなちゃんはあんまりわがままを言わないらしいからきっと記念になにか欲しいのかな。



「じゃあひなちゃん、このストラップはどうかな?」


「わー!くまとれっさー?かわいいねえ!」


「せっかくだし、お姉ちゃんとお揃いでっていうのはどうかな?」


「お兄ちゃんはー?おそろい?」


「俺?いやあ俺は……」


「やだ……?」



なんて罪悪感を刺激する瞳なんだ……!ノーとは言いづらいよ!?


「天沢くん、良かったら3人で買わない?趣味じゃなかったらごめんだけど」


「え?逆にいいんすか?キモくないすか?仮にも俺とお揃いって感じになっちゃうけど」


「ふふふっ、ぜんっぜんキモくないから大丈夫です!」


「お兄ちゃんもおそろい!?ひなね、くまがいいなあ!」


「お姉ちゃんはねー、ペンギンにしようかなあ。天沢くんはどうする?」


楽しそうにストラップを選ぶ姉妹に招かれて、俺もその輪に混ざる。

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