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16話 動物園へ行こう①

ゴールデンウィークが始まり、今日はとうとう動物園に行く日だ。いままでも土日に遊ぶようなことはあったが、改めて休日に少し遠出となるとわずかではあるが緊張は否めない。


待ち合わせ場所である駅に着き、トイレの鏡の前で改めて自分の姿を確かめる。髪型を直し、いつも通りラフな格好ではあるが、多少気を遣った服装にしてある。とりあえずこの服装は普段妹の紬と出かける際も合格はいただけているわけだから、きっと大丈夫ではあるはずだ。




「天沢くん!ごめんね、待たせちゃって」


「お兄ちゃん!おはよう!たのしみー!」



待つこと少し、仲良く手を繋いだ愛らしい姉妹がやってくる。



「ふたりともおはよう。俺も楽しみにしてたんで、ちょっと早く着きすぎちゃいました」


「お兄ちゃんも!?ひなもね、おめかししてきた!」



ひなちゃんは俺の前で何度もくるくる回って見せてくれる。動きやすさはありつつ、いつもより可愛らしい格好に癒される。



「天沢くんも……見違えたねえほんと。私は流石にわかるけど、これなら同級生には絶対バレないね」



「でしょ?だから今日はしっかりと楽しみます!」


俺がそう言うと白坂さんは柔らかに笑っているが、どうにも……ひなちゃんを見るのと似たような目で見られている気がする。



よく言えば優しいまなざし、あえて悪く言うならば子どもを見る目だ。

仮にも俺、同い年の男なんですけどね……!まぁ変に緊張されたりされずに、気を抜いてもらえているっていう証拠なのかもな。



「別にあれだよ?俺だけ楽しもうみたいなことじゃなくて、ひなちゃんにも白坂さんにも全力で楽しんでもらうつもりなので!」



「え?……ふふふ、あはは!そんなこと思ってないよ、ただなんていうかかわいいなって思っただけ」


「絶対バカにしてるんだよなあ……。そんなにからかうなら俺とひなちゃんのふたりで楽しんじゃいますよ?」



足元をちょろちょろしてるひなちゃんを抱きかかえ、ねー?と聞いてみると、楽しそうに「ねー!」と同調してくれる。



なんてかわいいんだ全く。



「えー?置いてかれちゃうのは寂しいなあ。でもほんとにからかってなんてないのにー」



口ではそんなことを言いながら、表情はにやにやとした顔を抑えきれていない。幼さというか、学校で見るような大人っぽい顔以外の一面を、彼女は日に日に見せてくれるようになっている気がする。そんな信頼が嬉しいけれど、なんだか妙に調子が狂う。






「とーちゃく!!お姉ちゃん!お兄ちゃん!はやくはやく!」


地下鉄を降り、改札を出るとさっそく可愛らしい動物のモチーフが並んでいる。子どものわくわくした気持ちをかきたてるには十分すぎたらしく、ひなちゃんのテンションはどんどんと上がっている。


さっきまで地下鉄にテンションが上がっていたし、多分このままだと帰りはもたないだろうな。でもせっかくだし全力で楽しんでガス欠になるもの悪くない。最低限俺の体力さえ残っていればどうにかなるし。



「それじゃあ行こうか。白坂さんも大丈夫そう?」


「だ、大丈夫です!私のことはどうかお気になさらず……!」


白坂さんは地下鉄に乗った途中あたりから様子が変だ。なんとなく挙動不審というか、視線もなかなか合わない。けどかなり体調が悪いということもなさそうだし、もしかしたらひなちゃんのテンションにつられて、単純に疲れ始めているのかもしれないな。



改札を出たところを案内にしたがってまっすぐ進めばすぐに動物園は見えてきた。子どもの頃はよく紬とふたりで連れてきてもらったな、なんて懐かしい気持ちも抱きつつ、いまはひなちゃんの手を引く。



入場口でチケットを買いゲートへ向かう。いまはチケットもそれぞれ描かれる動物が違うらしく、どれがいいか聞くと、ひなちゃんはゾウを、白坂さんはレッサーパンダを選んでいた。ちなみに俺はトラだ。




「ふぁあ……!ゾウだ!おっきいねえ……!シマウマもいるー!お姉ちゃんお姉ちゃん!すごいねー!?」


駅から一番近いゲートは、入るとすぐにアフリカエリアが広がっている。ひなちゃんはいきなりの大本命登場にテンションマックスだ。


「ほんとだねーひな、でも離れちゃダメだよ?」


ぐいぐい進んで、身を乗り出す勢いのひなちゃんをやんわりと止めつつしっかりと手を繋いでいる。こういうのを見ると、ほんとうにしっかりしたお姉さんなんだなと感じる。


「へー!久しぶりに来たけど楽しいね。それに子どもの頃よりこういう動物の説明書きが面白い!」


「たしかにこういう豆知識とか雑学って面白いんだよなあ。俺意外とテレビのクイズ番組とかも真剣にやっちゃうし。」


「わかる!不思議と見ちゃうよねー。音楽番組の似たようなランキングもついつい見ちゃうんだよね」



テレビ番組のあるあるやどんなものを見るかという話に花を咲かせつつ、園内を進んでいく。アフリカエリアを堪能したひなちゃんもニコニコと上機嫌だ。




「次はどうしようか?ふれあいゾーンは流石にちょっと混んでるしなあ……。まさか要予約だとは、リサーチ不足でした」


ゴールデンウィークという期間に動物園に来たことがあまり記憶にないし、親に連れてきてもらっていた時は多分、両親が予約をしてくれていたのだろう。まさか予約がいるとは思ってもみなかった。


「ううん、私もマップとかは見てたけど予約までは調べてなかったもん。ひなもふれあいゾーンは見るだけだけどいーい?


「うん!ひなね、かわいいけど触るのちょっとこわい……」


「だって、むしろラッキーだったかも。だから天沢くんもあんまり気にしないでね?天沢くんが元気なほうが嬉しいから」


「ありがとう……!そう言ってもらえるとだいぶ救われるよ。少し遠めからではあるけど、見るだけ見てく?」


「ひな、どう?遠くからだから怖くはないと思うけど……見てく?」


「うん……!追いかけてきたりしない?」


ずいぶんと可愛らしい不安を感じていたひなちゃんに、大丈夫だよと声をかけると嬉しそうにうなずいてくれた。


混雑で見えにくかったため、ひなちゃんに肩車をしてあげると大変お喜びいただけた。きゃっきゃっと頭のうえで楽しそうに笑っているのは、初めて会った日のことを思い出させる。


「どうかな?なかなかかわいい動物たちだと思うんだけど。特にヒツジなんかもふもふそうで」


「うん!かわいいねえ……ひな、さわりたいかも……ヒツジさん」


「はは、それは良かった。でも今日は触れないから、また今後来ようか」


「いいの!?またこれる?」


「もちろんだよ。でも日程合わせたりとかもあるからすぐには難しいけどねえ」


勝手に約束してしまったがちらりと白坂さんのほうを見れば優しく微笑みながらうなずいてくれているから、きっと大丈夫だろう。



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