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1話 アイドル様とクラス替え

「ハルといると……恥ずかしいの……!その女の子みたいに綺麗な顔も……全部が、全部……恥ずかしいの。……一緒にいると辛くて……もう嫌なの……ごめんね」


振られたのは俺の方、なのに俺よりずっと辛そうな彼女の顔がいまでも鮮明に思い出せてしまう。人生で初めてできた彼女、恋人だった。そんな彼女が絞り出すように放ったその言葉が、いまでも胸の奥に刺さったまま。あの日から何度この夢を見たか分からない。でも春になると、毎年彼女を思い出すのはきっといまでも彼女が大切な人だからかも。



俺はあの日から、自分の顔が嫌いだ。

4月になると不思議と自分は変わることができるんじゃないかと思う。でもすぐに人はすぐには変われないんだなと分からされる。



変わりたい、いますぐにでもこのじめじめした自分と、思い出したくない過去を切り捨てて、変わってしまいたい。そうできないのはきっかけがないからだ。人が変わるにはきっかけが必要だ。きっかけを待つのは、変わる勇気が出ないから。



それでも最近になってそれが少しはマシになったのは、きっとそれを変えてくれた人に出会えたからだろう。




クラス替え、毎年春のこの瞬間が俺は学生生活で一番嫌いだ。

一年間なんとかやり過ごした空間がリセットされ、またやり直す。新たなクラスへの期待と不安が入り交じったこの時期独特の雰囲気が、俺にはどうにも居心地が悪い。



クラス替えの名簿をなぞるように眺める。そこにはわずかばかりの仲の良かった去年のクラスメイト、中学の頃からの唯一の友達、そしてひとりの女の子の名前がある。


白坂結衣。その綺麗な名前を俺は少しだけ見つめていた。




わずかばかりの緊張と、ざわざわと騒がしい教室で、スマホと文庫本を一冊持って自分の席に座る。HRが始まるまで、本の世界にでも浸って時間を潰そうか。



挟んだ栞に指をかけ本を開こうとした瞬間、前の席の椅子が引かれ、ガタガタとやかましく男が座った。そいつは少しだけ俺の顔をじっと見つめて



「そのなっがい前髪でお前は一発でわかったよ。それにしても……相変わらず暗い顔だな。ハル、お前今年こそ彼女の一人や二人くらい作ろうぜ?せっかく青春!せっかく高校生活だってのにさあ」



顔を合わせて最初の会話だというのに。こんなことを呆れたように吐き出した。こいつは俺のもしかしたら高校で唯一かもしれない友人だ。小学校から付き合いのあるこいつとだけは気楽に付き合える。去年は別のクラスで、友達も多いやつだからあまり関わることもないかと思ったが、お節介な性格は変わらないらしい。



「そういうのは合わないんだよ。それに別に彼女なんていなくても青春は送れるし、そもそも俺はいまの高校生活に不満はないし納得してんの」



「いやいや!彼女は青春の要だろ!……それにお前俺以外友達いなくね?俺はお前にもさ、友達作って楽しく過ごして欲しいのさ。じゃなきゃ俺がつききっりで面倒見てやらなきゃいけねえよ」



「大地……俺は別に世話してもらわなくていいんだぞ……。それにわりかし楽しく過ごしてるつもりなんだけどな。友達ならお前がいるし、今年はいっそうよろしく頼むな」



でかい声でこれ以上ごちゃごちゃ言うな、という想いを込めつつにこりと笑顔を向けておく。明るく声のでかい大地は、当然クラスでも中心的な存在なわけで。そんなやつと去年ほとんど話すこともなかった暗いやつが一緒にいるとなれば無駄に視線を集める。



現にいまも、なんであいつと……?という意味のこもった、値踏みするような視線にいたたまれなくなる。



「わりぃ……でも俺はまたお前と楽しく過ごしたいんだよ。だって放課後しか遊べない親友って何!?付き合ってるの隠したい彼女じゃねえんだよ!?」


「声がでかい……!まぁ……友達がどうとかは前向きに考えとくよ。とにかく、お前と話したがってるやつが待ってるみたいだからさ、また後でな」


視線を後ろの方に促してやれば、大地も気づいたようで俺に軽く会釈だけしてクラスメイトの方へと向かっていく。どうやら去年からのクラスメイトらしく、男女の入り交じったその集団はきゃあきゃあとにぎやかに盛り上がっていた。


その集団がひとりの女の子を手招きし、ちらりとそちらを見ると招かれた彼女と思わず目が合って。得体の知れない気まずさに、俺はとっさに目を逸らし、慌てて栞に指をかけた。





やがてHRが始まって、自己紹介の時間となった。この時間もまた憂鬱なものであるが、2年にもなれば名前と趣味程度のものとなり、去年よりずっと楽だった。大した盛り上がりもなかったが、女子の時だけ数度クラスが盛り上がることがあった。とりわけ男子が盛り上がったのは2人。1人はさっきちらりと目の合った彼女だった。


「白坂 結衣です!ええと、趣味は料理と音楽を聞くこと!あとは、映画とか読書も好きです!今年1年よろしくお願いします!」


今日一盛大な拍手と男子のざわめきにも驚くこともなく、笑顔でぺこりと頭を下げ席に座る。その仕草と、周囲の男子たちのひそひそ話から彼女の人気がうかがい知れた。少なくとも去年まで俺の記憶に彼女の顔と名前はなかったが、この一瞬だけで彼女の人気っぷりやモテっぷりがわかる。そしてモテるのも、ああ当然だなと納得させられるだけの容姿が彼女にはあった。




ーー

「白坂結衣さん!好きです!付き合ってください!」


放課後になってぼんやりとしていると教室の窓からそんな風景が目に飛び込んできた。


「ごめんなさい」


すごくテンポよく男が振られた。


どうやら本当にうちの学校ではアイドル的な人気があるらしい白坂結衣に告白し、振られるという一連の流れが行われている。結果こそダメだったが、それでも告白なんてすごい勇気だなと尊敬する。


油断していると彼女と目が合ってしまった。笑顔で小さくこちらに手を振る姿は先ほどまでの彼女と同一人物だとは到底思えない。万が一周囲で見られていたら、と思ったがこのまま無視すると後で文句を言われるので俺も小さく手を振る。



別に俺と彼女は付き合っているわけじゃない。そうではないが……なぜか俺は彼女と親しくしている。



俺の名前は天沢遥、ごくごく普通の男子高校生だ。特に部活もやっていないし、勉強はそこそこできるが一般的な学生だと思う。むしろ友達もいないし、一般以下だろう。



そんな俺が彼女と知り合ったきっかけも本当にごくごく些細なことだった。この出会いを話すには、ほんの少し時を遡る必要がある。




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