家へ持ちて来ぬ 弐
「これは…なんと趣深い…!!」
一応客人が来たからにはお茶を入れねばと思い一階にかけおりた私は、しばらく使っていなかった急須を大急ぎで洗ったあとお茶を入れ部屋に戻った。
少女はレインボースプリングでワサワサと遊んでいた。その瞳はキラキラと輝いていてまるで小さい子供のようだ。
レインボースプリングとは、細いプラスチックがとぐろのように巻いてあってバネのようになっているおもちゃだ。お祭りの屋台の景品でよくあるやつで、小学生の頃はこれでよく遊んでいた。
ひとりで部屋に待機させていたらどこからか発見してきたようですっかり夢中になってしまっている。
背の低い折りたたみ式の机にお盆を置き、お茶を並べる。お母さんが持たせてくれた柿ピーも個包装なので一つずつ置く。
私が歓迎の準備をしている間にも、少女はレインボースプリングの両端を掴み、腕を開けるだけ開いたあと、片方の手をパっと離すというのを何回も何回も繰り返している。ミョーンと伸縮するおもちゃを見てうっとりとした表情を浮かべている。
改めて明るいところでその顔つきを見ると、なんだか少女とは呼びがたいような気がする。だけど女性とも言えない。
何歳と言われても納得出来てしまうくらいの、美しくて端正な顔立ちが年齢不詳を感じさせる原因なのだろう。
じっと少女を見つめていると、視線に気がついたのかハッとした表情を浮かべ顔を赤くしながら机に向かってきた。どうやらおもちゃに夢中になっているのを見られたのが気恥ずかしいようだ。
しかし、お茶の横にある柿ピーを見つけるとまた瞳をキラキラさせて袋を手に取り凝視している。
「こ、これは…??」
「柿ピーっていうお菓子だよ。どうぞ食べて。」
うむ…と言いながらも見つめるばかりで食べようとしないので袋を開けてあげる。
柿ピーも食べたことがないなんてどれだけ厳しい家庭なんだろう。
一つつまんで口に入れボリボリと咀嚼をして飲み込む。
しかし、目を瞑って天を仰ぐだけでなんの反応も無い。(気に入らなかったかな…)と思い代わりのお菓子を持ってこようと腰をあげた瞬間――
ものすごいスピードで柿ピーを口に運び始めた。良かった。気に入ってもらえたようだ。一度にたくさんほおばらず一粒ずつ食べる様子から育ちの良さが伺える。
「育ちの良さ…」
自分の言葉でハッとする。そうだ。この少女になんで竹から出てきたのか、どこに住んでいるのか、なんでお母さんを説得できたのかを聞かねばならない。
一袋食べ終え、満足そうに指をペロリと舐める少女に目を向ける。
今度は得意そうな笑みを浮かべている。何故かは分からない。
「聞きたいことたくさんあるんだけどいいかな?」
「こちらとしても話さねばならぬことがあるからちょうどよい」
私は独特な口調の少女に膝を向け姿勢を正した。