四尺三寸ばかりなる人 弐
竹は光るし、無くなるし、人は急に現れるし、コスプレしているしでしっちゃかめっちゃかな状況だが、生身の人間が現れたことで緊張がほぐれて自然とこの状況を受け入れてしまっている。
竹が光っていることを発見したあたりから私の感覚はバグを起こしていていたようだ。
とにかくこの子を保護して親元に返さねば……
無駄な衣装のせいでずっしりとしている子供をおぶりながら考える。
美しい顔立ちだが童顔であったこともあり、中学生くらいだと思っていたが、いざ立って並んでみると身長にそう大差はなかった。
帰宅部の体力では運ぶのは無理そうだと思ったが、予想より体重が軽くなんとか背中に乗せることができた。
こんだけ軽いということは女の子か?と勝手に思考する。
歩き始めて10分ちょっと、限界はすぐそこだ。
出会ってしまったからには力になってやりたい、という無駄な正義感でなんとか足を動かす。
聞きたいことは山ほどあるが、この子も私も今は聞ける状態にない。
おぶられている少女は、無言ではあるが周りをキョロキョロと見ているのが背中から伝わってくる。
ギリギリの状態で運んでいるのだから出来るだけ無駄な動きは控えて欲しいところだ。
竹林の出口が見えてきた。永遠に感じられた時間が終わりを告げる。
出たところでストンとその子を降ろし、近くに停めておいた自転車を持ってくる。
不思議そうな顔で自転車を見つめるその子。
それを横目に私は、自転車の後ろ荷台の汚れを軽く払い手を差し出す。
「歩けないんだったよね?ここに乗って」
「のる……どのように……」
その子はまた不思議そうな顔で自転車を見つめている。もしかして2人乗りをしたことが無いのか?
2人乗りは世間的にあまり良くない乗り方だが、歩けないと言うのであれば後ろに乗ってもらうしか運搬方法は無い。
どうにかこうにか説明をして、2人とも自転車にまたがることに成功した。
日光が落ちたとはいえ、二人で密着するには暑すぎる。これまた一汗かきそうだとグッとペダルに力を入れる。
ふと転んでしまったら大惨事では…という考えがよぎる。
「本当にしっかり捕まっててね」
「うむ…ところでこれはなんなのだ?馬のようなものか??」
ソワソワと私の背中に捕まりながら聞いてきた内容は、私の嫌な予感を膨らませる。
「そもそも自転車に乗ったことがない……??」
「見たこともない。」
スンと答える少女。うん、多分すごい裕福な育ちなんだろう。きっといつも車で送り迎えしてもらっているんだ。勝手に結論付け、黙って前を向き右足に力を入れる。
二人を乗せた自転車はキィキィ悲鳴をあげながらも進んでいく。
安全面を気にしていたが、この子の運動神経が相当いいのか漕ぎ始めてものの数百メートルでバランスの取り方を覚え、私の背中に軽く手を添えるだけになっていた。
おかげで重心がブレることなく漕ぎ続けられたが、油断は禁物なので細心の注意をはらいながらハンドルを握る。
緊張の糸を張っている私とは対照的に、後ろにいる子は楽しそうに鼻歌を歌っていた。
ふと衣装がタイヤに巻き込まれたら大惨事だと思い警告すると、器用に裾を片手でまとめあげ、また鼻歌を歌い出した。
どこか懐かしいようなそんな旋律だった。