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蓬莱の玉の枝 弐拾肆

「おふたりが沢田家に行った時は冷房がついていた。でも、叔父さんが救急で運ばれた時は冷房が付いていなかったみたいなんです。


ちょっと不思議ですよね。暑いことが分かっているならずっと付けっぱなしにするはずですし、分かっていないなら消しっぱなしにするはずです。」



「つまり、どういうことなんですか……」



「これは高齢者によくあること、って言いましたよね。これがタニガヤによる操作だったらどうします??」



ドクン、と心臓が収縮した。高齢者が陥りがちな()()。ヒートショックといい、室内の熱中症といい、品は違えど手口が似ている。



「そういえば……沢田家に上がる際、毎回少し家の外で待たされた覚えがある。それに、家から出る時も冷房を切っていたような気がするぞ。」



「やっぱりそうですか……」



千代と智樹さんが遠くで会話しているような気がするけれど、嫌な仮説が私の頭の中で駆け巡っていて全く2人の会話の内容が入ってこない。



タニガヤは、養子縁組をする為に沢田家のお母さんをヒートショックによる事故死に見せかけて殺害する。



そして、晴れて父娘になったが、足を悪くしているものの、思った以上にお父さんが元気で遺産が手に入る様子がない。



早く金が欲しかったタニガヤは、沢田家のお父さんを熱中症の事故に見せかけて殺そうとする。



証拠が残らないように熱中症に見せかけるのは、タニガヤの言動を振り返ると可能だ。



まず、家中の窓という窓を締め切る。これは、お父さんを家から出さない為であり、熱を家に閉じこめる為でもある。



そして、エアコンを切って1人で外出する。家に帰ってきた時に倒れてくれていればいいのだ。救急車を呼んだ時には、「自分でエアコン消しちゃったみたいなんです」とでも言えば怪しまれない。



彼女が森で寝ていた理由。きっとお父さんが熱中症になるまでの時間稼ぎだったんだろう。あの森は木々に囲まれていて割と涼しい。下手に町を歩き回って町民に顔を覚えられないように、人気のない場所に身を潜めていたんだろう。



ヒートショックは冬場だったから成功した犯行だ。夏はヒートショックを起こすのは難しい。しかし、タニガヤはそこで諦めるような人間ではなかった。彼女はその暑さを逆手にとった……



欲深く、計算されつくされたタニガヤの犯行に言葉を発せないでいると、千代と話していた智樹さんがこちらを向いて私の方を心配してくれた。



「多分、僕と同じことを考えているんだと思います。僕も本当に身の毛がよだちました。でも、安心してください。アイツ……タニガヤは今、警察に事情聴取されているんです。」



「え……?!?!?!」



とんでもなく進んでいる事態に驚かされっぱなしだ。これには千代もひどく驚いている。



何故(なにゆえ)だ……??」



すると、智樹は片眉をひそめて言った。



「実は、叔父さんの身体を詳しく調べたら、体内から()()()()が検出されたんです。」



「…………え」



「多分、こんなに暑いのに全然熱中症にならない叔父さんに痺れを切らしたんだと思います。早く死んでもらうにはどうしようって考えついたのが、山菜による食中毒だったんでしょうね。


山菜の食中毒もよくある話なんです。専門家でもない一般人が、キノコ狩りでとった毒キノコを誤って食べてしまった……みたいな事例は毎年全国で発生してます。これも()()ですよね。

 

叔父さん左足を引きずっていたって言っていましたよね?でも、叔父さんは以前から足は悪くなかったんです。これの原因がキノコ毒による麻痺だったんです。


さすがの警察もこれは怪しいって言ってくれて、叔父さんの家を調べたら、キッチンから多量の毒キノコが出てきたみたいなんです。確か、ドクツルタケ……とかなんとか言ってました。


それで殺人未遂じゃないかってなって、今は任意での事情聴取しているという感じで…………」



頭が、痛い。音が、世界が遠のく感覚に襲われる。



ようやく分かった。どうしてタニガヤが私たちに協力を仰いだのか。



居場所特定なんて理由付けに過ぎなかった。タニガヤの本当の目的は、『私たちに毒を持った植物を判別させること』



タニガヤは介護に関してはプロでも、植物には疎かった。だから自分で調べてもどれが毒を持った植物なのか分からなかった。



そこで現れた2人の子供。そして何とも都合のいいことに植物に詳しい。私たちがタニガヤの腕のかぶれを解説したことから、植物に精通していることが分かったんだろう。



やけに食べれるのかを気にしていたのは、食べられないものを手に入れたかったから。



私のせいだ。



そこまで考えたところで私は膝から崩れ落ちてしまった。冷たい汗が背中から吹き出す。額からもボトボトと汗が落ちる。



「そうと……!!!大丈夫か!!!」



「大丈夫ですか!!?!」



全部、罠だった。どうして気づけなかったんだろう、毒の知識が悪用されるかもしれないという可能性に。危うく1人の命が、私によって奪われるところだった。



真夏のコンクリートは凶器のように熱い。でも、今は愚かな自分への罰として手をこれでもかと押し付ける。



「そうと……!!!!」



「私、本当に馬鹿だよ。何度も千代は忠告してくれてたのに、自分の正義感だけで、人を……殺すのを……手伝ってた…………!!!!」



汗とも涙とも分からない液体が顔中をつたっている。そんな私の顔を見た2人は、あらかた察しがついたのか、私が一通り落ち着くまでずっと傍にいてくれた。


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