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もと光る竹なむ一筋ありける 弐

光っていたのは竹だった。


 

私は少し安心した。普段から幽霊やお化けの類は信じている方では無いが、いざ不可解なことが起こると疑ってしまうものだ。



しかし、光っているのが竹となれば幽霊の仕業ではないことは明らかだ。最悪のシチュエーションは避けられた。

 


安堵も束の間に、更なる疑問が頭に浮かぶ。

 


……竹って光るものだっけ??

 


超常現象でないことが分かった後に気になるのは、なぜ竹が光っているのかということだ。

 


それも竹は内側から光を放っているようだ。


  

私が知っている竹は流しそうめんに使われている半円の棒だ。発光オプションなどないはずだ。


  

涼しい風が吹く。


 

カラカラと落ちた葉が地面を撫でていく。しかし煌々と光を放ち続けるその竹のまわりだけは、まるで一切の音をも吸収されているように静かで厳かだ。

 


「……」


 

光る竹を睨む時間が続く。


 

光っていること以外は普通の竹に見える。すらりと真っ直ぐに伸びた美しい竹だ。


 

はたと竹の発光している部分に手を近づけてみる。ほんのり温かい。ちょうど犬や猫の背中のような生ぬるさだ。


 

しばらく無言で考えた結果、竹の中にイルミネーションが隠されているのではないか、という結論に至った。


 

イルミネーションなら光っていることもほんのり温かいことも説明がつく。電球部分が発熱しているのだろう。


 

ふと古典の授業を思い出した。竹取物語みたいだな、と思って1人で苦笑する。


 

地主さんのことだ。きっと遊び心を燻らせてロマンティックな演出を竹に施したのだろう。


 

……


 

ではどうやってこの竹の中に仕込んだのだろう。


 

ぐるりと竹の周りを見る。これといった細工はされていない。


 

頭の中で某麻酔使いの名探偵が「あっれれ〜」と私の周りを飛び回っている。竹は内側から光っている。



いくら竹の玄人とはいえ、生えている竹に切込みを入れて照明を突っ込むなんてことは不可能ではないだろうか。


 

……


  


竹を傷つけないで照明を入れる方法を思いつけず、振り出しに戻ってしまった。


 

竹はなお光り続けている。何故だか、ずっと見ていても不快な気持ちにならない。人工的な光というよりかはもっと柔らかくて……ここでひとつの可能性が私の頭に浮かんだ。


  

「蛍みたいな光る虫がいるのではないか?」


 

これなら竹が光っていることにも、竹に切込みがないことにも説明がつくのではないだろうか。


 

しかしこの仮説も足元がおぼつかない。何故なら、生き物にとって竹の中のような完全に外から隔離されたに環境で生活するのはデメリットでしかないからだ。


 

出入りが自由に出来れば問題ないだろうが、アリ一匹の這い出る隙間もない。餓死してしまう。


 

安全な所に卵を産み付けたと考えても、孵化したばかりの幼虫が竹を食い破って出てくるとは考えにくい上に、発光するなんて意味不明だ。卵は出来るだけ天敵から見つかりたくないはず。 


 

長い夏の夕方は私の長考を待ってはくれず、辺りが暗くなり始める。相対的に金色色の光は美しさを増す。


 

「……分からん……」


 

空腹も相まって頭が回らなくなってきた。自分でどうこうするのは諦めよう。手頃なほかの竹を刈り取って、帰りに地主さんにこの竹のことを報告しよう。

 


そう決心が着きその場から離れようとした瞬間、

ズボっと小さな穴に足を取られ重心が傾く。


 

あっと思った時には、私は思わず目の前にある棒にしがみついていた。

 


そしてその棒は、私が両手で掴んだ部分からスルリと音もなく真っ二つに割れてしまった。




 

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