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蓬莱の玉の枝 拾参

「えーじゃあ、改めて自己紹介からしますね。沢田勝次の甥の沢田智樹です。」



吉住さんの家の居間に通してもらってすぐに話し合いは始まった。



エアコンを付いていたのか、少し肌寒い空気に腕を何度もさすってしまう。



「勝次叔父さんの娘の麻衣ちゃんは、15年前に交通事故で亡くなっています。どういう話を聞かされているかは知りませんが、確実に言えるのは麻衣ちゃんを名乗っている人は全くの別人ということです。」



改めて言われてもまだ実感がわかない。人間はみんな、なんだかんだ正直だと思っていた。あれほどまでに平気な顔で嘘をつく人間を初めて目の前にした。



ふと、淡々と話す智樹さんが、偽麻衣さんの存在に驚いていないことに違和感を覚えた。

 


私の予想が正しければ、偽麻衣さんはお父さんが認知症であることを利用して、麻衣さんになりすましている。



それがわかっているのに、どうして智樹さんは何もしないんだろう?



藪蛇になるかもしれないが、不自然に感じられたことは聞いた方がいい、と判断した。



「あの、どうして他人が叔父さんの家に住み着いているのを放っておいているんですか……?目的は分からないけど、いい気持ちはしないじゃないですか」



私が質問し終わるより先に、智樹さんはどんよりと肩を落としてしまっていた。



何かまずいことを言ってしまったのか不安になるけれど、ここをハッキリさせないと智樹さんへの不信感は拭えない。



「えーと、まず目的については大方予想はついてるんです。家の中に沢山あった高級そうな骨董品覚えていますか?」



思い出そうとしなくても思い出せる。綺麗に整頓された大小古今様々な置物。蓬莱の玉の枝なんかもあったっけ。



美しいガラス細工の記憶を辿っていると、横にいた千代がポンと手を打った。



「つまり、偽物の麻衣とやらは、沢田家の財産を狙っているということか?」



これに対して智樹さんは深く頷く。



「どちらかというと、遺産を狙っているんだと僕は思います。」



「えっ、いやでも、いくら娘だと勘違いしてても遺産は譲られないんじゃないですか?親族じゃないわけですから……」



他人である限りは基本的には遺産を受け取ることは出来ない。遺産は、基本的には家族が受け取ることになっている。



遺産を狙って高齢者と結婚するケースはたまにニュースなんかで見る。婚姻関係を結び家族になることで財産を正当に受け取れるからだ。



じゃあまさか、結婚していたとか……?!



嫌な予感に身を震わせていると、智樹さんは顎に手を当てて話し出した。



「結婚は、違うと思います。結婚する場合、婚姻届に保証人のサインがいるんです。ただ、この保証人っていうのは別に成人してれば誰でもいいんです。だけど偽物の女は、70歳を超えた高齢男性と2、30代の女の結婚は不自然に写ると思ったんだと思います。出来れば怪しまれるようなことはしたくないじゃないですか。」



なるほど。たしかに誰に保証人を頼んでいいとはいえ、怪しまれないとは限らない。では、どうやってその権利を得ようとしたんだろう……



私の問いを見透かしているかのように、智樹さんは一息ついてから言い放った。



「だから、養子縁組をしたんだと思います。」



「養子縁組……??」 



知っているけれど、馴染みの無い言葉だ。私と千代が頭を捻り始めると智樹さんは補足説明をしてくれた。



「養子縁組っていうのは、いわば他人と他人の間に親子関係を正式に結ぶことなんです。親と、養子の承認があれば、あとは順番通り手続きを行うだけで親子になれちゃいます。」



初耳だ。親子になるためにはもっと色々な所の許可が必要なものだと思っていた。



「つまり、家族になれるわけですから遺産の相続権も得られるんですよ。」



ようやく、智樹さんが言いたかったことが見えた時背中に冷たい感覚が走った。



つまり、麻衣さんの振りをして認知症のお父さんを口車にのせ、養子縁組をした……遺産を貰うために……



しかし、問題が残っていると思った。私はすかさず手を上げる。



「仮に、本当に、そうだとしたら、偽麻衣さんはどうやって沢田家が資産を持っていることを知ったんでしょう?認知症であることや、娘を亡くしていることなんかもです。それに、それを知ったとして、どうやって沢田家に取り入ったんでしょう?」



養子縁組は最終的な手段だとして、それに至る情報をどうやって仕入れたのかが謎なのだ。



人づてに聞いたのだとしても、内部に入り込むことは不可能に感じられる。



すると、智樹さんは携帯を取り出し、1枚の写真を見せてきた。

 

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