もと光る竹なむ一筋ありける 壱
「さすがに奥に来すぎた……」
懐かしさやこの場所の冷涼さもあり、ろくに竹を探すことも無くフラフラと竹林の奥まで来てしまった。
この竹林が隅々まで手入れされてるので雑草が少なく、歩きやすかったのも理由だ。
ここの竹林の具体的な広さを把握していなかっただけに、想像を超える広大さにおどろいている。
上を見るとまだ青さが残る夕方の空。西日が目に眩しく目頭をズキズキ刺激する。
ひやりとした風はさっきまでの汗を冷やすように竹林を通り抜ける。冷えた汗が頭皮からシャツの中に流れ込んできて肌が粟立つ。
スカートのポケットからスマホを出して時刻を確認する。18:12と表示される。いつもなら家でお風呂に入っている頃だ。
この時間帯は夏では普通に明るいのだが、ここでは背の高い竹達が日光を防いでしまっているので薄暗い。
ふと周りを見渡すと、なんとも言えない焦燥感が込み上げてくる。さっきまでは心地よかった冷気が一気に底知れないものに感じられてしまう。
はやく刈り取って帰らないと……
スマホをポケットに突っ込み、前方に目をやると薄暗いはずの空間がほのかに光っていた。
「ん……??」
50メートル程先にちょうど目線の高さくらいで何かが光っている。
現実世界に、ほわりと乗せられたような金色の光。
ぽっかりと宙に浮かび、しんしんと輝いている。
さっきまでスマホを見ていたからその残像のせいだろうと思い、目をキュッとつむって再び同じ場所を見たがその光は確かに存在していた。
ありえない光景に私の思考回路はキテレツな計算結果をたたき出した。
ー誰かが懐中電灯か何かを落としてそのままにしているんだろう-
自分に言い聞かせるように呟き、光に向かって歩き出す。
――大丈夫、懐中電灯か携帯のライトか何かだ――
鎌を握りしめる手の力が強くなる。
――原因を突き止めてしまえばなんてことない――
近づけば近づくほどまばゆさは増し目が離せない。
――金のライトとかもあるんだろう。車みたいに――
荒い呼吸のせいで口が乾き喉が張りつく。
――宙に浮かんでいるのは、きっと誰かが懐中電灯を枝とかに掛けたまま忘れてしまったからだ――
色々な憶測を浮かべながら歩いた50メートルは短く、到着すると同時に(何故私は見て見ぬふりをしなかったんだろう)という疑問が頭をよぎった。
生存本能に従うならここで逃げるのが普通だ。でも私は光の正体を解明することしか頭になかった。まるで本当に誘われているかのように。