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蓬莱の玉の枝 肆

「お邪魔します。」



玄関に足を踏み入れると、奥の方からパタパタと麻衣さんが走ってきた。



「暑い中外で待たせちゃってごめんなさい……今さっきエアコンつけましたので!」



麻衣さんの家は昔ながらの一軒家そのものだ。それもかなりお金持ちの。内装自体は新しいとは言えないものの、上品で落ち着いた雰囲気で私は好きだ。



案内されるがまま着いていくと、居間のような部屋に案内された。そしてそこの光景に思わず声が出てしまった。



「うわぁ……すごい……」



居間には沢山の骨董品が飾られていた。古そうな物から割と綺麗な物までが、ズラリと居間の周りの棚の中に飾られている。



居間の床が畳であるだけに、雰囲気がすごくマッチしていて雅な感じだ。どこかのお城かと思ってしまった。



「気になりますか?これ全部父のコレクションなんです。」



座布団を用意しながら、麻衣さんが説明してくれた。私たち2人はいそいそと座布団に座らせていただく。



「私には細かいことは分からないんですけど、どうやら相当大切にしてるみたいなんですよ。」



ニコニコと語る姿は父思いの娘そのものだ。しかし、その表情はすぐに不安げに揺れた。



「その……わざわざお2人にここに来てもらってまで私がお話したかったことは、実は父に関することなんです。」



ん?何か相談に乗る流れになっていないか?私たちはあの場所で寝ていた理由を聞きに来たはずだ。



趣旨がズレたことに違和感を覚えるが、とりあえず話だけでも聞いていみようと思い、忘れることにする。



「あっ、その前に!」



麻衣さんが腫れた自分の右腕を指さす。



「ここの赤い炎症、何の草のせいなんですかね?私、こういうのあんまり詳しくなくって……」



確かに、先に手当てした方がよさそうだ。じっと赤く腫れている部分を見つめる。草によるかぶれではあるだろうけど、私には種類までは分からない。



横を見ると、千代も麻衣さんの右腕を見ている。千代になら分かるのかもしれない。



「ち……は出てないみたいですね!!お兄ちゃんはどうすればいいか分かる??」



あっぶなかった。



千代に話を振ろうと話しかけたはいいものの、いつもの癖で名前を呼ぶところだった。



心臓をバクバクさせている私を半目で見たあと、千代はさらりと言った。



「もしかしたら、ヌルデによるものかもしれぬ。あの辺りに生えていた。肌が弱い人が触るとかぶれることがあるらしい。しかし、まろとて専門家ではない。病院に行くことを薦める。」



ヌルデ……??名前を出されてもあまりピンと来ない。私が毒の有無を見た目で見分けているからだろう。



麻衣さんも知らなかったようで、ふむふむと右腕を見つめながら相槌を打っている。そして、パッと顔を上げた。



「それで、相談したいことっていうのは……」



ずいぶんと話が飛ぶ人だ、と感じたが、言えないことについて考えるよりも話を聞こうと再び耳を傾ける。



「ええと、何から説明したらいいのか迷う感じではあるんですけど……



一言でいえば、最近オレオレ詐欺の電話に悩まされているんです。」



「オレオレ詐欺……??」



コクリと頷く麻衣さん。



「でも、オレオレ詐欺って高齢者にかかってくるものじゃないんですか?」



「あっ、私、父と2人で暮らしているんです。」



なるほど。しかし、それが森で横たわっていたことにどう関係しているのだろう。



「大体5ヶ月前くらいからかかってきているんです。それも、ほとんど毎日、同じ人から……」



「毎日?!」



どういうことなんだろう。同一人物でもそうでなくても、オレオレ詐欺の電話を毎日かけてくるのは、どう考えても異常だ。



オレオレ詐欺は、判断機能が弱った高齢者を標的に、息子の振りをしてお金をだまし取る詐欺だ。



詐欺をする側からしたら、100件電話して1件当たれば儲けもの。何も、そんなに1人に固執する必要はないだろう。



「でも、そんなにかかってきているなら、オレオレ詐欺電話ってだけじゃなくて、もやは迷惑電話じゃないですか……警察に相談した方がいいと思います。」



こればっかりは警察に何とかしてもらった方がいいと思い麻衣さんに提案する。



しかし、麻衣さんは私の言葉に返事はせず、何やらスマホを操作して私たちの方に差し出してきた。



「えっと……私、毎回電話を録音してるんです。これは最初のオレオレ詐欺の電話なんですけど……」



どうやら録音の音声を聞かせてくれるらしい。私と千代は黙って耳を傾ける。



『あーもしもし?オレオレ。智樹。分かる?』



ん……?なんだか違和感がある。



「あれ?具体的な名前を出しているんですね。智樹って。お父さんが先に仰ったんですか?」



「いえ、電話相手が先に言いました。」



これまた不思議だ。他人の家の息子の名前を当てるなんて、天文学的な確率でしか成功しないだろうに。



「お名前に心当たりはあるんですか?」



そう聞くと、麻衣さんは一息置いて言った。



「はい。弟のものです。」





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