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家へ持ちて来ぬ 漆

「ここの地の食事があんなにも美味とは……」



異星からやってきた坊っちゃまは餃子が大変お気に召したようだ。



柿ピーを何袋も食べたとは思えない箸の進み方に、私の家族は目を見張っていた。そして大喜びで追加の餃子を与えていた。



たらふく餃子を食べた千代は私の部屋で横になっている。横になる姿も雅に見えるのは何故だろう。



「食べたあとすぐに寝ると牛になるよ」



「牛…ちと嫌だな。」



ボソボソと身体を起こす千代。この所作もまたいちいち美しい。


 

ふと時計を見る。いつのまにか9時を回っていた。いつもなら目は冴え渡っている時間帯だが、今日は色々あって疲れている。少し早いが睡眠を摂ることにした。



しかし、千代がいる。最初は女の子だとばかり思っていたから同衾するつもりでいたけど、そうはいかなくなった。



「千代!寝る場所なんだけど……」



 そこまで言ってハッとする。どうしよう、千代が眠れる部屋がない。客人専用の部屋などまずない上、布団も家族分しかないのだ。



「寝る場所?先程食べてすぐ寝ては牛になると申していたではないか。」



ぷうと頬を膨らます千代をガン無視し、ドタドタと階段をかけおりる。お母さんに相談する為だ。結局、千代は私の兄の部屋で寝ることになった。



兄はそういったことは全く気にしない性分で、二つ返事で受け入れてくれたようだ。



千代は、新しい部屋を見られるのが楽しみなようで、ホクホクと私の部屋を後にした。



千代を見送った私は、一緒に寝なくていいの〜?と私の部屋まで小突きにきたお母さんを追い出し、布団に入る。



目を閉じるなり、深い眠りについてしまった。何かを忘れているような気もしたが、睡魔には勝てなかった。気付けばすっかり外は明るくなっていた。



「……」



やばい。そうだ。今日は普通に学校がある。ガバッと布団から飛び起きバタバタと身支度をしていると、ふわりと上品な香りが鼻をかすめた。



思わず香りがした方を見ると、現代では見慣れない寝巻きに身を包んだ人がソファで伸びをしている。そうだ。昨日から人を泊めているんだった。



「あ!そうと!」



私を見るなりソファの方からトテトテと駆け寄ってくる。ここに来て12時間くらいしか経っていないはずなのにえらい馴染みようだ。しかし、少し顔色がよくない。どうしたんだろう。



「その、すごく、よかった、すごくよかったんだが……」



何がだ。



兄との良からぬことを想像させるもの言いに身震いを隠せない。でも多分、部屋のことだ。そう思うことにする。



「ちと、兄上の部屋の香りが身体に合わないというか…」



「香り?臭いってこと?」



兄は今年で19歳だ。加齢臭はさすがにまだだろう。それなら思春期特有の臭いのことかなと思うが、兄は特別体臭がある訳では無いはず。



うんうん唸っていると、こっち来てと手招きをされたので兄の部屋までついて行く。兄の部屋には長らく立ち入ったことがないが、扉を開けてすぐに千代の不快感の理由が分かった。



「あぁ…草の匂いだね……」



「草?」



正確には兄が集めている植物達の臭いだ。農業狂は土に関することなら全てストライクゾーンだと自負している。故に兄の部屋は草やら肥料やらで溢れている。苦手な匂いがあってもしょうがない。



しかし、想像していたよりもキツイ匂いではなかった。千代は嗅覚が過敏なのかもしれない。

 


「そしたらあとで私から言っておくよ。」



「すまない。」



とりあえず解決して良かったと安堵するのも束の間、出発時間は刻一刻と差し迫っていた。



「いってきまーす!」



10分足らずで支度を終え、家を出ようと玄関で靴を履いていると、くいっとスカートを引っ張られた。勿論正体は千代だ。



「そなた…そうとはどこへ向かうのだ?まろも共に行きたいぞ。」



モゴモゴとおねだりをしてくる。

 


「今から学校なの!千代はウチの高校の学生じゃないから行けないよ。お留守番。」



えー!とあからさまに不満がありそうな返事をする千代。そしてスカートを離さない。そういう手法のようだ。



見かねた我が実兄が、千代君は一緒に畑作業しよう!と誘うと目を輝かせて家の中に引っ込んでいった。げんきんなものだ。



今度こそ家を出ることに成功し、自転車にまたがる。体力は完全回復、昨日よりも早くこげそうだ。遅刻することは無いだろう。



シャカシャカと自転車を漕ぎ、学校にむかう。1人になって、改めて昨日起こったことを思い出すと何か変な夢でも見ているのではないかと思う。竹から男の子が出てきて、それが宇宙人で、でも地球にやってきた目的は話してくれなくて……



気が付くと私の通う高校は目の前まできていた。駐輪場に自転車を止めている時思い出してしまった。



「あ、笹……」



あろうことか、笹をとってくるのをすっかり忘れていた。希美に謝って明日持ってこようと心に決め、校舎に入っていった。

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