カッサンドラー
トロイアの王女、カッサンドラーよ
汝、なんのために、この世に生まれ来しか
神に恋われ、金の聖花を咲かせし乙女よ
悲しき予知夢に、赤い口唇が震えている
「そちの予言は誰も信じぬ」
太陽神アポローンの愛は、呪いの言葉となり
その遠矢は、運命の運び手にも似て
最期の日まで、乙女を苦しめた
されど、世界をみつめる瞳に、光ありき
清らかに、祈りを宿す言の葉にも
しかし、悲しいかな、惜しいかな
耳に届けば、破滅の宣告と響きし
誰がために、如何がために
「戦争は国を滅ぼします」
ひとえに、祖国の平穏を願って
「木馬を、城壁のうちに入れてはなりませぬ」
ひとえに、民人と真実を愛したがため
だが、誰も王女の予言を信じない
「この娘は、心を病んでおる」
心なき声がこたえる――
「ありえない!」
嘲ける声が退ける――
「それはない!」
ああ、誰がために、如何がために
心を砕きて、真実かたるは悲哀ゆえなのに
我、汝の純真さに、時を越えて涙を流す
虜になり、凌辱され、殺害されし、汝の骸を抱かんとして
せめて、我ひとりなりとも、汝を悼まん