愛と死――オルペウスとエウリュディケー
潮騒が奏でるは、嘆きか
愛撫か、慰めの楽の音ねか
川の瀬音、せせらぎの歌
滝壺へ落ちては、蘇るは
愛しく人を思うゆへ
毒牙に翻弄ばれ、踵を噛まれ
死んだ妻、ヱウリュディケーを
苦しく思うゆへ、嘆くゆへ
竪琴は、愛と死を奏でる
美妙なる調べ、振り向かずに耽けべ
オルペウスの、首もつ娘の
トラキアの処女、哀しみの
瞳に宿るは、嫉妬と羨望か
狂乱神、への愛か
永遠に知るになき、儚き問いも
「決して振り向くな!」との誓約に――
背いた夫に、微笑んだ妻に
秘めたる想いも、また儚き問いも
いなむしろ、妻は確信せしたる
愛ゆへに、振り向かずにいられぬなり
笑んで「さようなら…」と、手を振る
愛と死――
愛は死で、死は愛だと、詩人は歌う
またしても妻を亡くしたる、オルペウスの
竪琴は、愛と死を奏でる
人はもちろん、獣も草木も
礫や巌さえ、妙なる調べに聞き惚れる
黒きなかの黒き心、と伝わる
復讐の女神すら、その調べに頬濡らし
愛の歓びか、死の喜びかと慟哭したるとか
トラキアの処女の惑乱も、むべなるかな
八つ裂きにされし首、竪琴に
愛と死を見たるかな
潮騒が奏でるは、嘆きか
愛撫か、慰めの楽の音か
川の瀬音、せせらぎの歌
滝壺へ落ちては、蘇るは
愛しく人を思うゆへ、嘆くゆへ
オルペウスと竪琴は、今も
永遠の歌に、奏るなり
永久に響け、愛よ死よ
その調べ、恐るるものよ
振り向かず、耳傾けよ
愛と死を恐るるものよ