10/10
ミーノータウロス
牛頭人身の晦き怪物
ミーノータウロス
醒めぬ欲火に身を焦がし
性欲の火炎を吐く者
雷霆との約束を違えたミーノース王
その報復をうけた后から生まれ
堅固な大迷宮に封じ込められた
罪なき、哀れにして純粋な怪物
彼はただ本能に従っただけ
欲しいものを欲しただけ
だが愛はそれを許さない
愛は繋がりを求め彷徨った
導きの細い糸は
アドリアネーが紡ぐ
儚く頼りない糸
手繰るのはテーセウス
糸はさながら花と蜜蜂
互いに引きあい反発する
愛は慈悲の雨となり
憎悪は冷酷の雷鳴となる
愛はまた葛藤なのだ
だが牛頭の怪物には
煙ほどの迷いもない
ひたぶるに生を欲する
王女と勇者は
絆が切れぬよう慮る
ミーノータウロスは
惜しまずに貪り喰らう
哀れな怪物は打倒され
虚しく死骸を晒した――
止まった心臓から叫び声が
「俺は、生きたかっただけだ!」