木霊と水仙――エーコーとナルキッソス
詩人は脚韻を踏む
神秘を求めて
終わりの言葉は木霊となり
やがて我が胸に還ってくる
憤懣の詩歌は殷々と響いて
やがて我が胸に還ってくる
あんたなんて、大っ嫌い!
いや、違う、嫌っていたのは——
私、この私自身
私が好いていたのは
あの人ではなく、私——
この、私だった
今際の淵で気づいても
もはや帰れない
悲しみに萎れて
痩せ衰えて枯れはて
消えゆくまで
憎悪は憎悪を返し
愛情は愛情を返す
優しさは優しさを
苦痛の声は呻きを漏らす
悲しみが木霊する
真実は見えない
ただ聞こえるだけ
お喋りも健かな
妖精エーコーは歌う
真実を覆う軽妙な旋律を
神ゼウスの窮地を救うためとはいえ
けれど、嘘はいつか罰を招く――
罰は呪いとなり木霊となり
妖精を苦しめた
愛する美少年に焦がれようとも
少年ナルキッソスが呼びかける
「誰かいるのかい、ここに?」
エーコーが呼びかえす
――「ここに?」
「どこに? 来ておくれ」
――「あなたが、来て」
「どうして、私を避けるんだ?」
「あなたが、私を避けてるの ?」
妖精は絶望し
少年は絶望し
奈落から湧き上がる悲しみに
微かに声を零す
「ああ……」
声なきこえ
「ああ……」
肌を裂く冷たい冬を耐えて
美しく咲く白い花がある
詩人の水仙――The Daffodils
自惚れと自己愛の花冠も
誇らしくも慎ましやかに
詩人は脚韻を踏む
臨終のことばを紡ぎつつ
言葉は鏡であり
思いは木霊であると知りつつ