スキル:終わらせるもの
ある日、交通事故で死んだ僕は異世界の女神様に言われた。
「あなたを転生させてあげましょう。それも強力なスキルをつけて」
「強力なスキル?」
「はい。その名も『デウスエクスマキナ』です」
その言葉を聞いて僕の全身に歓喜が沸く。
デウス・エクス・マキナと言えば『機械仕掛けの神』を意味する単語だ。
その『神様』はまさに神そのもので、どれだけの難局が現れようとも不意に現れてはチートの権化とも呼べる力で強引に解決するのだ。
つまり、たった一人で全てを解決する。
「そう。まさにあなたの思い描いている通りの能力ですよ」
僕の思考を読み取った女神がそう言った。
「素晴らしい能力じゃないか」
満面の笑みで僕がそう呟いた。
それと同時に僕の全身に寒気が沸く。
機械仕掛けの神とはどのような展開でも『終わらせるため』に現れるのだ。
そんな能力を持つということはつまり……。
「お察しの通りです。あなたはこれからあらゆる世界に呼び出されて機械仕掛けの神として生きるのですよ」
「それじゃあ、僕はどこで生きていけばいいんだい」
疑問を投げかける。
「生きていく必要はありませんよ。あなたはただ呼び出されて役目を果たすだけでいいんです」
はっきりとした絶望が浮かんだ瞬間。
「それでは失礼します」
女神は僕の前から消えた。
「それじゃあ、僕はこれから永久に世界を無理矢理終わらせるだけじゃないか」
一人の世界で泣いている僕の脳裏に『デウス・エクス・マキナ』における批判の一つが浮かんだ。
『デウス・エクス・マキナでしか解決しない物語の多くは退屈なものだ』
その通りだ。
どのような難局においてもチート能力で無理矢理解決するなんて言うのはカタルシスも何にもない、言い換えればただの超展開だとか、思考放棄だとか、ある種の夢オチのようなものに類するとも言えるかもしれない。
「そんな世界を終わらせ続けるだって……?」
僕は絶望のまま座り込む。
それと同時に空間に禍々しい大穴が空いて誰かが僕を呼び求める声が聞こえた。
「行ってやるものか……」
僕は舌打ちをしてその場に座り込んだ。
最強の能力を持ちながら、自分に出来るのはこんなことだなんて悲しくなる。
しかし、質の悪い作品を無理矢理終わらせるような存在になるよりはずっとマシだと思ったからだ。
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「……馬鹿な」
満身創痍の魔王は呆然としたまま、最期の抵抗として出現させた魔神を呼ぶ大穴を見つめていた。
「魔神よ! 何故! 何故、現れぬのだ!」
そう叫ぶ魔王の体を勇者が持つ聖剣が貫いた。
「死ね。魔王」
絶望の表情のままに死に絶えた魔王に勇者が息も絶え絶えに吐き捨てた。
「俺やお前を遥かに超える魔神だと? そんなもん存在してたまるか」
静かに閉じていく大穴を一瞥した後、勇者はへたり込んで呟いた。
長きに渡る魔王と人間の戦いが今、ようやく終わったのだ。
「これで世界は平和になる」
如何なる艱難にありながら、希望を忘れずに戦い続けた勇者の勝利。
同時に慢心を極めた末に愚かな最期を迎えた魔王の敗北。
物語は順当に終わり迎えたのだ。