目覚め
銃声の音とかすかな叫び声が聞こえる。
目を開けると、曇り空と破壊されたビル群が目に入った。ここはどこだろう。朦朧とする意識をハッキリさせていく。
最後に見た光景は、自分に突っ込んでくるトラックだった。仕事からの帰り道だったはずだ。どうやら自分は死んで、転生したらしい。
試しに指を目の前に出してみたり、ファイアとか、ステータスオープンとか言ってみたりしたが、何も起きない。ちなみに、服を何も着ていないことに気づいた。
現実逃避もそこそこに、周囲を見渡してみる。ボロボロになったビルや、その瓦礫ばかりだ。銃声はまだ聞こえるが、人影はない。
このまま一人で悩んでいても埒が開かないと思い、人を探すことにした。
銃声がなる方向は進んでいく。叫び声も大きくなってきた。この時点でハートフルラブコメ世界への転生でないことは確定だ。そもそも裸の時点で、ラブコメ世界でも詰んでいた訳だが。
そして目に入ってきたのは、異形の化け物と戦う人々だった。
化け物は全長2メートル弱で、大体人間と同じくらいの大きさだが、黒い靄のような見た目をしている。形は刻々と変化しており、ときおりノイズのように輪郭が波打っている。
対する人々は、銃を手に、化け物の進行を食い止めている。カーキ色と黒色の軍服を着て、陣形を組んでいる。おそらく統制された集団なのだろう。その中心には、指示を出している女性の姿が見える。
銃弾が化け物に当たると、その部分の靄が薄らいでいく。そして限界まで薄くなると、化け物は消滅するようだった。
人々は戦闘に集中しており、こちらに気づく様子はない。
接触を図ろうと、人々の方へ進んで行く。声を出すと、一番近くにいた女性がこちらに目を向けた。少し驚いた顔をした後、こちらに来るよう合図されたので、近づいていく。
「あなたは今この世界に来たのね!合ってる?」
「はい、この化け物は一体何なんですか?」
「話はあとでするから、とりあえず後方で待機しておいて!」
促されるままに、後方で待機することにした。
銃声が徐々に止んできた。自分に気づいてくれた女性と、おそらく指揮官であろう、陣形の中心にいた女性が自分に近づいてくるのが見える。指揮官は金髪のショートカットに、切れ長の目をしている。他の人々と違い、軍帽を被っている。
「お前が新参者だな?」
「多分そうだと思います、気づいたらこの世界にいたので」
指揮官の女性は少し鼻で笑うように言った。
「お前は何らかの理由で死に、気づいたらここにいた、そうだな?」
「そうです。まさか、お姉さんも転生者なんですか?」
「私だけではなく、この世界にいる全員がそうだ。つまり、確かに我々は転生者だが、どちらかと言うと死後の世界に近いだろうな。」
さらに指揮官は、人々が組織を形成していること、謎の化け物『ノイズ』と戦っていること、ノイズに触れてしまうと自身もノイズになってしまうことを説明した。
「つまり、死後の世界のようなこの場所で、人々は組織を形成し、ノイズと戦っている。」
「その通りだ。そして我々は常に人材不足だ。だからこそ、たまに現れる君のような新参者を確保するようにしている。...言いたいことはわかるだろう?」
苦笑いしながら答える。
「わかっています、自分もこの戦いに参加すれば良いんですよね?」
「理解が早くて何よりだ。では、これから本部に帰投する。まずはリーダーに挨拶に行こう。」