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ある王女の追想

作者: ツキノ

触りだけ。

まだ物語は始まらない。

 教会の鐘がなった時、頭の中にたくさんの情報が流れていった。普通なら情報過多で倒れてもおかしくないか、まだ10歳と幼く情報の多さに圧倒され、理解するのは「後回しにしよう」と面倒くさがりな自分が出てきて記憶の奥に箱詰めし、積み上げて置いておく。それより今は…


「お祖母様。テアをおいて行かないで。教えてほしいこと、まだたくさん…、…寂しいよ」


 荘厳な大聖堂で私の祖母であるこの国、タラント王国の皇太后バルディアの葬儀が執り行われている。祖母の棺に縋り泣く私の後ろには乳母が佇んでいる。私の傍で言葉を掛けたり、慰め共に悼んだりする様子はない。ただ偉大であった王太后の死を嘆いているだけ。これが現状。祖母がいなければ私に寄り添う者すらいないのだ。父親は葬儀の進行で忙しく、母親は出産間近の為に不参加だが、声すら掛けられなかった。


 ありきたりな話をすれば、私は異世界からの転生者らしい。前世の『わたし』がどうして死んだのかは思い出せない。が、そんなことは今の私には大したことではない。たかだか一般的な女子高生だった頃の記憶を思い出した所で生活基盤、様式、常識が違う世界でそれらを活用出来る訳ではないからだ。

 この世界は当時流行った乙女ゲームの世界に似ている。背景は近代の西洋。ただ、上下水道はすでに完備されており、衛生観念も当時より高く設定されている。正直、衛生観念の高さと上下水道の設備がしっかりと完備されていた事に、私は非情に感動している。だって近代の西洋って下水の管理はされなくて排泄物やゴミを窓から投げ捨てたりしてるのだ。

 それは置いておいて、この乙女ゲームはなかなか人気があった。私が生きていた間に第4シリーズまで出ており、もうすぐ同じ世界観の第5シリーズが出ると情報がリリースされていた。私は第1シリーズのキャラクターで幼い弟の代わりに摂政として国政を動かし、国庫をあと一歩まで破綻させ国を没落させる悪女プロテア。タラント王国の第1王女であり、妹の第2王女であるヒロインと攻略対象者のヒーローに断罪され、18歳で罪を犯した王族を幽閉する離宮に入れられる。

 …重い、重すぎるでしょプロテアの運命!生まれてすぐに母親から引き離されて、王太后である祖母に跡取りとして育てられる。これがバリバリの身分制で王族と貴族、平民は別物と教育され平民は王家の所有物だと認識し、自分の希望を通す我が儘て傲慢な性格に育つ。

 祖母や両親には敬意を持って接するが、下のものに対しては一切の容赦がない。小さなミスですら許さず体罰を与えたり、気に食わなければ辞めさせると脅し侍女やメイド、使用人たちを虐げた。ちなみに王太后も母も使用人がミスをすれば処罰を与えていたので2人を真似して鞭打ちをしたのではないかと思われる。王太后も母親も気が強いところはよく似ているが、お互いを理解せず同族嫌悪の感情をもって接しているようで不仲であった。

 王は王位を継いだが母親である王太后に頭が上がらず、プロテアの養育、教育は王太后が行うこととなる。ただ、この決定も仕方のない部分があった。王妃は友好国の姫で同盟をより強固にする為に嫁いできたが、小国でありアットホームな家庭だったらしく大国の仕来りに馴染めなかったのも大きな理由だ。文化や作法に大きな違いがあり、王太后が育てることとなったのだ。ただ、王妃としては姑に我が子を取られてしまったという確執が生じ、1年後に妹が生まれた時は今度こそ渡さないと王妃が育てることとなり更に溝が深まった。

 私は祖母の元、王城で過ごし、妹は幼い時は病弱だったこともあり母と共に自然の豊かな保養地にある離宮で過ごすことになった。その為、私は母と妹とは殆ど関わることなく生きて来た。父は王城にいたが忙しく接する事は少なかったが気に掛けてもらっていたと思う。プロテアは父親である国王を尊敬し、王城にいる日には毎日朝の挨拶を欠かさなかった。また外交で国を離れる以外は、夜に1時間だけ時間を作り、プロテアとの交流時間を作ってくれていた。本当なら両親と子供の時間としてスケジュールされているのだが、母は姿を見せてくれることはなく寂しい思いをずっとしていたが、父との交流時間はプロテアの心に穏やかさと自信を与えてくれた。

 祖母からの教育は厳しく、祖母を尊敬している学者に朝から晩まで勉強を叩き込まれ、所作や行儀作法は家庭教師や祖母自ら指導を受けた。幼いながらにプロテアはとても優秀で弱音を吐くことなくしっかりと教育をモノにしていった。

 しかし、プロテアが10歳の時に祖母は病気を患い、看病の甲斐なく崩御する。王太后の葬儀に王妃は妊娠中だった為、参加していないが、悲しむ娘を労らず声すら掛けなかった。第2王女のエリンジアも病弱の為に参加しないとの事だ。王は式典を進行するためにプロテアの傍にいない。悲しくて棺にすがるプロテアはなんとも寂しい家族だと何処か他人事のように思う。それは前世の自分と今世の自分の年齢に隔たりがあり、心が乖離していたのかもしれない。

 

 王太后の葬儀の数カ月後に弟が生まれた。今までプロテアが跡継ぎ教育を受けてきたが男児が継いだ方が良いと云う考えが根強く、弟を跡継ぎにと訴える声が家臣から多く聞かれ、プロテアの継承権は2位へ下がることとなる。それでも国を支える為にと今まで以上に勉学に励んでいたが、第1王子の生誕祭で両親の考えを聞いてしまう。


『あの子は学業は出来るけど、他者を思いやれない。傲慢で我が侭な子に育ってしまった。為政者として国を任せられないわ』

『…そんなことは』

『いいえ。継承権を外しましょう。エリンなら他者を思いやれるし、国を思いやって尽力してくれる。国を任せられるわ』

 父が何と返したのか聞くことは出来なかった。母である王妃の考えにショックを受けたからだ。急いでその場を離れ、悔しさと悲しさ、やり場のない怒り、嫉妬で胸が締め付けられたからだ。祖母王太后の部屋に駆け込みベッドへ取り縋る。

「お祖母様、私は後継ぎの資格がありませんか?母は私を嫌っているの?!お祖母様」

 先程の母の言葉といつも自分に向けられる冷たい視線を思い出し、泣きじゃくる。後継ぎになるために今まで努力してきたのに、母は自分に心を傾けてくれない。赤児の弟は仕方ないとしてもひとつ下の妹には優しく笑いかけるのに。プロテアの心は妹への嫉妬と憎しみに苛まれていった。


 それから王妃は公式行事以外はプロテアには会わず、言葉も大して交わさず、誕生日もバースデーカードとプレゼントのみで会いに来ること無く完全に切り捨てた。プロテアが何度もスケジュールにある家族の時間を過ごしたいと希望しても聞いてはくれなかった。父はそんな母を窘めていたようだが態度は変わることはなかった。

 対して第2王女は厳しくも優しく為政者としての心構えを解き、母娘として接していたことにより、プロテアの心を更に鬱屈とさせ、妹に対する妬みや憎悪を増長させる事となる。…嫁姑問題で子供達を苦しめる母親ってどうなのと他人事のように感じる事もあるが、どうしても割り切れない。

 

 それからプロテア15歳の時、王と王妃が流行病で相次いで崩御。弟はまだ幼いためプロテアが摂政として表に立つこととなる。妹は国民に慈悲を掛けろと炊き出しや救護院の支援しか声を上げない。それでは国政は回らないと妹はすぐに政治の場より退場させることとなる。

 しかしプロテアも国政は数字ばかり追って利益を追求、庶民の生活を顧みないと不満が続出。ただ、この時、冷害や災害、飢饉が立て続けに起こった事に加え、他国からの侵略戦争からの防衛戦を行わなければならず、国政が傾いたのは仕方なかった側面があった。これは2作、3作目でチョロっと出てきたので2作以降には薄幸の王女として同情を集めていたっけ。

 正直、私は摂政になんてなりたくない。前世オタク気質な女子高生で、どちらかというと内向的な自分に国のトップなんて無理!!継承権を早々に放棄して出奔出来ないだろうか?なんて現実逃避してみる。


 現在10歳。国が動乱に巻き込まれるまてあと5年。冷害に備えて寒さに強い麦の掛け合わせを考えたり、寒そに強い植物、野菜を育てて備蓄を増やして飢饉を乗り切らないといけない。今から動いてくれるかしら。来るかわからない未来の冷害のために。お父様に相談してみましょう。少しでも未来を変えていかなくちゃ。冷害や飢饉で無辜の民を死なせないために、やらなくちゃいけないことがいっぱい!


 ことあと、破滅回避のために護衛騎士(幼馴染)に前世の記憶について話したり、母と少しだけでも関係改善できるように歩み寄ったり、流行病の特効薬探しで王宮から出奔したりするけど、語力がないので一旦終了。

 元気があったらシリーズで書いていきたい。

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