転生して憧れの魔法少女に会えましたが……。~ポンコツ女神とポンコツ悪魔のせいで憧れは崩れ落ちました~
目を覚ました時に、目の前に可愛らしい高校生の女の子の顔が鼻先10センチ先にいたらどういう反応しますか。
「ぴにゃぁぁぁぁ!!」
「ぴぃちゃん!! 大丈夫!!?」
悲鳴を出す他がないと思う。
というか、俺の声が変だった気がする。
というか、俺の体が変だった気がする。
というか、俺は人間じゃない気がする。
恐る恐る自分の姿を確認してみたら、真っ白い翼にキラキラの輪っか、ロリよりもロリロリしいボディのちっちゃい天使だった。
「ぴにゃぁぁぁぁ!!」
「ぴぃちゃん!! ぴぃちゃん!!!」
落ち着いた俺は思考を張り巡らせた。
俺は確かに交通事故で死んだはず、という事はこれは俗に言う転生という事なのだろうか? 普通なら同じ人族にして欲しかったんだが……。
そんな俺は目の前の女の子の声で意識が戻ってきて
「ぴぃちゃん? 大丈夫?」
「ん、あぁ……たぶん大丈夫。それで聞きたいことがあるんだ」
「なぁーに?」
わかってるのは自分の姿だけ、なら目の前の女の子に聞いてみた方がわかるかもという事でコミュニケーションを試みる事にした。
要約すると、俺は死んで転生したらロリボディ天使になっていて、目の前の女の子、雲龍灯を魔法少女にしたのも天使のせいで、天使は魔法少女の友達という体で一緒に住んで、今家でくつろいでいたら急に倒れちゃったらしい。
「なにそれ?」
「どうしたの?」
首を傾げる灯だったが、俺はそんなのは気にしない。というかモチベーションがクソ上がっているんだよな。憧れの某魔法少女物のキーマンに転生したんだから楽しみでしょうがないんだよ、これが。
これからどんな事が待ち受けてるのかが楽しみで楽しみで。
その時、灯からブザーのような警告音が鳴り響き
「はっ?! アクマ軍団の襲撃が来たよ!!」
おぉぉぉ!! 陳腐な名前だけどこれだよな!! 魔法少女とのアクションはちょっと興奮してきた!!
「ぴぃちゃん!! 着替えてくるから5分待っててね! また覗かないでよね!!」
あれ? 変身するんじゃないの? キラキラと光ってコスチュームに変わるんじゃないの? てか、またという事はエロガキじゃねぇかこいつ!!
と、灯は自分の部屋に閉じこもってしまった。
◇◇◇
「うーん。なんとも言えない……」
自分の新しい体に慣れてくると徐々にこいつ自身の記憶等が蘇ってきたので、天使の能力の『テンシ•アイ』を使って戦況を見ていたんだが……なんとも言えなかった。
「やぁぁぁぁ!!」
__ピコッ☆
俺の目の前でピンクのフリフリコスで戦ってる灯は頑張ってると思う。某特撮のような黒ずくめの戦闘員も素手でよく頑張ってると思う。ただ……、魔法少女の武器がピコハンはダメだろ。あと怪人役の着ぐるみの奴はもっとダメだ!! そこは改造された奴の特権だろ!! ふざけるな!!
何故そんな事がわかるのかと言うと、『テンシ•アイ』には見た物の詳細がわかるようになっていて、怪人や戦闘員を見たら種族は人間で名前や生年月日や一言詳細が見えて、灯を見るとスリーサイ……あああぁぁぁぁ!!
俺はすぐさま『テンシ•アイ』の機能を停止させた。
「トドメよ!!」
__ピコッ☆
灯のトドメの一撃でアクマ軍団は撤退し陳腐な戦いも終わりを迎えたのだったが……、俺は納得出来なかった。
求めてたよりも予想以上に雑で着ぐるみなんて以ての外だろ。とりあえず、こいつの記憶では上司という立場の奴がいるから後から問い詰めてやる。
「ぴぃちゃん! 応援ありがと」
「あ…あぁ。灯もよく頑張ってたよ」
ふと、俺が『テンシ•アイ』で見てて、気づいた事があったので聞いてみる事にした。
「灯に幼馴染っているのか?」
「いるよ! ゆーじ君って言うの」
思ってた通りだった。戦闘員の中に灯の幼馴染でゆーじ君の名前があったのだから。だが灯は気づいてない様子というか黒ずくめのタイツなら気づくはずもないんだが……。
「単刀直入で聞くけど……。幼馴染の事を大切に想ってるか?」
「どういう意味?」
「大切な事なんだ。好きなのか嫌いなのか……」
俺の真面目な言葉で感じ取ったのか灯は好きと言ってくれた。だから俺はやんわりオブラートに戦闘員の中に灯の幼馴染が混じっていたと伝えると、徐々に青ざめていく灯が……。
「……う……そよね」
「本当なんだ。このままでは灯達は絶対に結ばれないと思う」
だんだんと泣き崩れていく灯に俺も涙が決壊しそうになっていた。たった数時間の間だけど灯は良い奴と思ってるし、そんな灯の幼馴染も良い奴と思ってる。だから灯の涙は出来るだけ見たくなかったのだ。
「灯。俺がなんとかするから今は耐えてくれ」
「……ホント?」
「あぁ……。俺を誰だと思ってる? 天使だぞ」
「……嘘つき天使」
あーそうだった。記憶が戻った今、灯を魔法少女にした詳細がわかってるから俺は何も言えなかった。
こいつは、当時無垢だった灯を
『一生のお願いだから助けて』
『……うん! いいよ』
と、灯を連れて路地裏で無理矢理に魔法少女に仕立て上げたのだった。天使も真っ青な悪魔の手口だな、これは。
「一生のお願いだ」
「……うん。いいよ」
もしかしたら、灯がチョロい可能性も浮上してきた。そんな短期間で二度も一生のお願いを言われたら普通は不審に思うよね!? ねぇ、チョロインじゃないと言ってくれ!!
◇◇◇
真っ白くてデカいお城。
名は、ミカエル•ファースト•リーズベット•シュタイン•マーナイン•サウ___長い!!
そんな長い長い名前の城内の奥の玉座にて俺の上司の美香•エル•リーズベットこと美香さんがいる。
「おや? ピーナッツバ•ターサン•ドマイニ•チタベタイではありませんか?」
「…………は?」
「何を呆けているのですか? ピーナッツバ__」
「なんですかそれ?」
「私が名付けた貴方の名前ですよ? ピーナッツバ__」
「……長いのでぴぃちゃんでお願いします」
「もぅ!! 最後まで言わせてください」
目の前でむすーっとしている美香さんは俺の上司であり俺の所属している長い名前の機構の最高責任者であった。美香さんは絶世の美女と言われても良いぐらいの美女で金髪ロングの存在感放っているスタイル、凛とした佇まいと全ての良いところを兼揃えた女神であった。
「もしかして、この城の名前も?」
「えぇ。私が名付けましたわ。かっこいいですわよね?」
「……えぇ」
覚えられない城の名前や俺の名前等を考えるとネーミングセンス×で完璧とならなかったらしい。
「なんか余計な事思ってないわよね? で、用って何かしら?」
「俺の担当の魔法少女がピコハンなのは何故でしょうか?」
「あら? かわいいじゃない? ピコピコと音が鳴っていいわよ」
たった4文字のかわいいで済まされたわ。
魔法少女の花形でも言ってもいい必殺技もないし、ポンコツなのか? なんて言える訳もなく。
だから本題として俺は、担当している灯の事と幼馴染のゆーじ君の事をなんとか出来ないかと要約して伝えたが……
「無理ね」
少しは考えて欲しかったが、一瞬で一蹴されるとは思ってなかった。
「長い話になるかもしれないけど聞いてくれるかしら? 私達は大昔からこうなるようになっていたのよ」
美香が俯いた事で俺のような者が口に出せないような事情があるのかと思ってしまった。
美香さん曰。美香さんには幼馴染に悪魔の久真さんがいて、昔から仲良しで皆で遊んでいたのだそうだ。だけど、時が経つにつれて些細なことで喧嘩するようになっていったらしい。焼きそばを作る時は紅生姜を一緒に入れる入れないでと、発狂して最深の海峡を作ってしまったり、3つ首犬を飼った時の名付け時にクソ短い名前とクソ長い名前等で決められなくて発狂して世界の火山を噴火させたり、ケーキの切り分けで苺が入ってる入ってないで大恐慌を起こしたりと、今でも続いてるという。最近になって美香さんと久真さんは魔法少女という機構とアクマ軍団という機構を作ったことで天災は起きなくなったとの事……
という事なのだが、俺は目の前にちゃぶ台があったらひっくり返したい!! クソ昔に聞いた親父達の気持ちがわかった気がする。
「__。という訳なのよ」
「で、この前のは何が原因だったのですか?」
「ペロペロキャンディーを上から舐めるか? 横から舐めるか? 下から舐めるか? で怒っちゃったのよ。私は噛み砕く派だから」
__協調性!! 三択の意味無いからっ!!
俺は期待してた魔法少女のアクションは雑で、ピコハンはかわいいで、転生した天使はエロガキで、絶世の美女の上司はポンコツネーミングセンス×で、とうとう臨界点を超えたようで
「おらぁぁぁぁ!!」
「ひぐっ!?」
俺の自慢の白い翼で美香さんのほっぺをビンタしていた。
「ポンコツめがぁぁぁぁぁ!!」
「お…お母様にもぶたれたことないのに!」
「ネーミングセンス最悪なんだよぉぉぉ!!」
「……ひどっ!!」
「中身が子供のくせにぃぃぃ!!」
「ひぃぃぃ!!」
もう、やっちまったよ。けど悔いはないわ。
俺は怒りに任せて往復ビンタをかましてやってスッキリしていた。……そういや翼だからこれは暴行にはならないと祈ろう。
「久真さんとやらにも会って話してきます。そして二人は平和協定してもらいますのでいいですか?」
「……え……?」
「してもらいますので!」
「は……はい!」
頬をずんぐり真っ赤に染まった元絶世の美女は項垂れていた。
◇◇◇
真っ黒くてデカいお城。
名は、アクマ城___短っ!!
そんな短い名前の城内の奥の玉座にてアクマ軍団の総帥のコア•久真•ヒルデカントこと久真さんがいる。
「失礼します!!」
「なんじゃ!! 天使如きが何しにきたのじゃ!!」
玉座でふんぞり返ってた久真さんは、これまた絶世の少女だった。
白髪のツインテールで青白い角が生えており、凹凸の少ないスタイルに愛嬌ある笑顔になると見えるであろう八重歯と、一部の人からは完璧なほど与えられた悪魔だった。
「実は久真さんの戦闘員の中に知り合いが居ましてなんとか出来ないんでしょうか?」
「無理じゃな」
一瞬で一蹴されてしまった。
戦闘員はアルバイト募集で人事部とかに言わないとダメみたいらしい。というか久真さん最高責任者ですよね? ゆーじ君もアルバイト選びは慎重にして欲しいんですけど!?
とかなんとか思ってみたが言える訳もなく、俺は本題に移ることにした。
「あと、美香さんからの言伝で平和協定を結ぶようお願いしにきました」
「無理じゃな」
少しは考えようとはしないのか? 美香さんと同じポンコツ疑惑が出てきたぞ。
そんな風に思いながら俺はお伺いを立てると
「な……何故でしょうか?」
「お前にはわからんじゃな。わしらにはとてつもない因縁があるんじゃ」
久真さん曰。チーズハンバーグを食べたかったのにおろし目玉ハンバーグにされたり、唐揚げはレモンかけたい派なのにレモンとマヨネーズが出されたり、しゃぶしゃぶは豚肉と鶏肉派で発狂したり、レア派なの知っててウェルダンで出されたり、胸で煽られて牛乳いっぱい飲んだらお腹壊してバカにされたりという因縁が……。
ぁぁぁぁぁぁ!! なんなんだこのポンコツ共は!! 某名探偵も真っ青になるわ!! 頭脳は子供だろが!!
「そ……それで、この前のペロペロキャンディーの件は?」
「あー、わしは口の中で溶かしたい派なんじゃ」
__協調性!! 三択の意味がっ!!!
俺は美香さんの件で吐き出したと思ってた怒りがすぐに臨界点を突破してしまったようで
「おらぁぁぁぁぁ!!」
「ぃ……たい!!」
俺は自慢の白い翼で久真を四つん這いにさせてお尻ペンペンしていた。
「ポンコツ共めがぁぁぁぁ!!」
「マ……ママにも打たれた事ないのじゃ!!」
「子供舌めがぁぁぁぁ!!」
「……ごべんなざい!!」
「わがままいう子はお仕置きだろがぁぁぁ!!」
「……ふぐっっ!!」
ふぅ……。スッキリしたわ。
俺は怒りに任せて久真さんのお尻を一生懸命ドラミングして怒りは収まった。……そういや、これ翼だからセクハラにはならないと祈るか。
「平和協定結んでもらいますから」
「……い……やじゃ」
「わがまま言うんですか!?」
「ひぃ!!」
露出たっぷりの小悪魔コスの尻は真っ赤に染まって、久真さんは項垂れるのだった。
こうして二人は平和協定を結ぶ事になったのだが、結ぶ直前でまた一悶着が起きたので、やっぱりポンコツだなと改めて思った。
『で? 何か言いたい事は?』
『美香がクレープはチョコバナナと言うんじゃ……』
『久真がクレープはイチゴソースアイスと言うのよ……』
『ツナマヨ一択ですよね?』
『『……へ?』』
『ツナマヨ一択ですよね!!?』
『『……はい』』
『復唱してください。ツナマヨ一択と』
『『……ツナマヨ一択です』』
その間の灯はというと、ポンコツ二人の一悶着のせいで誰かゆーじ君かわからない状態でもピコハンでなんとか耐えてくれた。
灯! よく頑張ったな!!
◇◇◇
それからそれから。
灯のthe王道な女の子の部屋の窓から外を覗くと灯とゆーじ君は手を繋いで登校していく姿を見送る俺。
ポンコツ共は平和協定してもう襲撃される事は無くなり、灯はコスを着ることもなくなった。
それでもポンコツ共は今でも一悶着をたまに起こすから俺は仲裁に入ってお仕置きをする始末。
そんな転生してから憧れの魔法少女に会えて期待していたけど、まぁこれでもありかなぁって思い始めた、その時。
部屋の中に置いていったであろうコスの小道具から警告音が鳴り響き
「あたしはペロペロキャンディーを粉々にしてから食べる派よ!!」
__協調性!! 何故、三択の意味がわかったわ!!!
赤髪ショートの元気っ娘の鬼を見て、俺は深い溜息をつくのであった。
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