第一話 出会い
先日私の父が亡くなった。
理由は交通事故だ。
しばらくは悲しみの底に沈んで、学校はおろか、外にも出ることができない日が続いた。
そんな中、母が一通の封筒を引き出しから取り出して私に渡してきた。
「お父さんがあなたに向けて書いた手紙みたいよ。誕生日おめでとうって書いてある。」
それは真っ白な封筒で父が毎年私の誕生日に書いてくれていた見慣れたものだった。
「遙へ。
お誕生日おめでとう。今年は仕事が忙しくて、なかなか会って話す機会がなくて、本当に申し訳なかった。お母さんは家庭に関心がないとか僕に対して文句を言っていたみたいだけど、本当は家族と一緒にもっと過ごしたかったんだ。だから改めて誕生日を祝いたいから一緒に焼肉でもいかないか? 早速で悪いけど。」
手紙にはそうあった。私はまた涙が込み上げてきて号泣してしまった。母は静かに肩を抱いてくれた。
私は父にもう一度だけ会って話したいと思うようになった。悲しみからはそう簡単に抜け出すことができなかった。
次の日に私は父と行く予定だった、焼肉店に行った。
店内に入ると肉の焼けるいい匂いが鼻を刺す。
「いらっしゃいませ!おひとり様ですか?」
店に入るなり、店員がにこやかに話しかけてきた。
「はい。」
高校生が一人焼肉なんて行くのはおかしいだろうかと途端に不安になったが、店内には案外1人で焼肉を楽しんでいる人がいた。前、父と一緒に焼肉に来た時と店内は全く変わっていなかった。
(そうだ。この前は私の高校入学祝いに焼肉に連れてきてくれたんだっけ…)
私は父の笑顔を思い浮かべる。
私がわがままをいって焼肉の特上コースを頼んだ時、父は文句を言いながらも私の好きな物を食べさせてくれた。
時には成績のこと、掃除のこと、学校の送り迎えの有無などで父と喧嘩したこともあったが、その全てが今になって心に押し寄せてくる。
父さえ生きていれば。あの時あの横断歩道を渡っていなければ。残業なんてしていなければ…。
涙で潤んだ瞳で父がよく座っていた席を見た時、私ははっと息を呑んだ。
そこには父がいた。いや、正確に言えば父とそっくりな人だろうか。
私は思わず彼の元へ駆け寄った。