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勇者様のお通りだ!


 ワガ村を旅立って一週間。

 僕は王都セントブルグに到着した。

 馬ならもう少し早かったけど、村長さんが用意してなかったので徒歩になった。

 まあ単なる嫌がらせだろう。

 王都前は馬や馬車や人の列で混雑している。

 ただの街道だというのに喧噪が凄まじい。

 さすがリンドブルグの中心地、人の出入りも激しいようだ。

 これはチャンスだ。


「どけ! 邪魔だ!」


 僕は大声で怒鳴り散らしながら列の人たちを押しのけて前へ向かう。


「お、おい! 順番だぞ!」

「何してやがんだ、このガキ!」

「てめぇ……ぶっ殺すぞ、ゴルゥァ!」


 罵詈雑言を向けられる。

 そして同時に心地いい音声が鼓膜に響く。

 レベルアップ、レベルアップ、レベルアップ――

 連綿と続くレベルアップの効果音。

 順番待ちでイライラしている民衆の中を、闊歩する僕。

 腹が立たないわけがない。

 中には僕を殴ろうとする人もいたけど、僕は身を躱す。


「な、なんだってんだ!」


 うろたえる人も出てきた。

 さてそろそろ状況を把握しつつも、理解できない人が大勢を占めただろう。

 そろそろ行こう。


「俺様はワガ村の勇者! マグナ様だ! 愚民共はどけぇーーーッ!」


 名乗ることで僕への嫌悪感は、僅かに薄れてしまう。

 世界を救う勇者であるため、僕の横暴がある程度許されてしまう。

 だからレベルアップの音が次第に止んだのも当然のことだった。

 でもこれは必要なことだった。

 事前に僕のことを知っている人は、これから僕の評価を定める。

 勇者という肩書を使ってやりたい放題に振る舞うと、徐々に薄っぺらく横暴な性格だという評価になっていく。

 つまり印象的嫌われ術を活用したのだ。

 今ここにいる人たちが僕の噂を流せば余計に話は広がり、嫌われ度は著しく増す。

 人がいればいるほど僕の嫌われ術は効果を発揮する。

 さあ、みんな僕を嫌って!

 もっと嫌いになって!

 こんな勇者キモイよね! ウザいよね!

 僕は僅かな高揚と共に粗野に野蛮にふるまった。

 人々の視線が僕に集まると、徐々にレベルアップの音が聞こえ始める。

 そうしているとようやく列の先頭まで到達した。

 嫌われ進軍タイムは終了だ。


「貴様、順番を守れ!」


 門衛が僕に怒号を放つ。

 僕はにへらと笑いながら、懐から赤い宝石の施された首飾りを取り出した。


「これ、なーんだぁ? よぉく見てみろ」

「そ、それは! 勇者の証である聖紅の首飾り!?」

「そう、俺は勇者。ワガ村のマグナ様だ!」


 僕が腕を組み睨むと門衛たちは平身低頭、恐縮してしまった。


「し、しし、失礼いたしました! ゆ、勇者様とは存ぜず失礼な振る舞いを――」

「言い訳はいい。さっさと通せ」

「は、はっ! すぐに!」


 門衛の人たちは慌てて通用口を開き、僕を通してくれた。

 素通りしようと思ったけど、僕はちらっと門衛さんたちの顔を見た。


「顔、覚えたからよぉ? 勇者を止めた門衛としてなぁ?」

「ど、どど、どうかご容赦をぉっ!」

「貸し一つなぁ?」


 壊れたおもちゃのように何度も首を縦に振る門衛たちに、僕は満足そうに頷いた。

 まあ、こういう貸しは作っておいた方がいい。

 その相手には余計に嫌われるし、協力を得られるし、協力の内容が誰か別の人間への嫌われる行動だったらさらにお得だ。

 村では村長さんや侍従の二人がその役目だったりしたんだけど、王都に知り合いはいないし。

 まあ、さっきの人たちを利用することはあまりなさそうだけど、念のためってことで。


「ご、ご案内いたします」


 門衛の一人が案内を買って出てくれた。

 さっきのことがあって挽回しようとしてるのかも。


「おう、まっ、当然だわな?」


 僕は偉そうに言うと、門衛の若者は嬉しそうに首肯した。

 そしてレベルが上がった。

 うん、そりゃ表面上の態度と違って、内心はムカつくよね。

 正門から大通りには沢山の人でにぎわっていた。

 左右に露店が立ちながら、人々は楽しそうに買い物をしている。

 通りには行商人、冒険者、兵士、一般市民など、様々な人たちが歩いている。


「勇者様のお通りだぞ、邪魔してんじゃねぇぞ、ゴラァァッッ!」


 通行人に怒鳴り散らすと、慌てて避けてくれた。

 今日、従者任命の儀が城で執り行われることは国民の知っているはずだ。

 僕の声に振り返り、慌てながら避けたり、あるいは怪訝そうにする人たちばかりだった。

 彼らは最終的には道を開けて、僕をじろじろと見る。

 しかし僕に睨まれると慌てふためいて首を垂れた。

 当然レベルは何度も上がる。

 この瞬間……本当に申し訳ないと共に、胃が痛い。

 五年で慣れたとはいえ、元の性格が変わるわけもなく、偉そうな態度を取ることを当たり前だとは思えない。

 最初の頃なんて吐き気と震えが止まらなかったくらいだ。

 しかし同時に嫌われることの、なんというか妙な高揚感を得ることもある。

 ……深く考えるのはやめておこう!

 僕は本心をおくびにも出さず、居丈高なままに門衛についていった。


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