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理想が現実になったら、そりゃ三次元好きになるわな

 紗音先輩が僕の腹部から離れて、二人の方へ身を翻す。


 な……紗音先輩は廃部のことを知らなかったのか? 


 釈然としない僕は、ある一つの考えが脳内に浮かび上がった。


 もしかして、二人が紗音先輩を気遣ってあげて……うううう、感動的じゃないか。ヤバイ奴らと決めつけてごめんよ……。


 「まだ廃部は先とか言ってなかったっけ?」


 紗音先輩の様子は見るに堪えない。色々なプランを練ったりして、入部者を増やそうとしていたのかもしれないのに……。


 なんとも感動的な友情物語。映画化不可避。


 「紗音先輩、二人は気遣ってあげて……」


 物語のラストスパートにしても差し支えない。そして、無知な紗音先輩に二人が抱き着いて涙を流す。


 夕陽に照らされた頬を伝う涙がキラリと光り、今までの大切な思い出を懐古しながら、観衆の涙腺を崩壊させるエンディング曲が流れる。


 そういった物語が創り出されるのだと、アニメ脳の僕は考えていた。のだが‼


 「紗音!? 言っちゃダメだってそれ‼」

 「これでは、『感動シーン的な雰囲気出して同情を誘って、言葉巧みに丸め込んで入部させてしまおう作戦その四』が台無しじゃないか‼」

 「――あっ。忘れてた~ごめんごめん!」


 …………。


 はい、ここが三次元のくそくそポイント。理想とは百八十度違う結果になる。


 そりゃそうか、もし理想が現実になったら僕はもっと三次元に目を向けているだろうし。


 「ワンチャンごまかし効くかな? 研究会も架空の催しってことはバレてないし……」

 「頭は強くないはずだ。後付けでも納得するだろう。紗音、次はしっかりと」

 「分かった! うぇーん、廃部やだぁぁ」


 三人は僕から距離を置いてコソコソ話をした後、「演技」の続きを始めた。


 紗音先輩はびっくりするほどの芋役者だが、もうそこには触れない。


 さぁ、今からキレるよ。


 「そんな茶番劇でごまかせるわけねぇぇぇだろぉぉぉぉぉがぁぁぁぁぁ‼」


 僕は心に眠っているバーサーカーソウルを解放して、積もりに積もった憤怒を怒号に変換する。


 「同情心の穴を突いて、無理矢理入部させようとするんじゃねぇぇぇぇぇぇ‼」

 

 こんな僕でも……皆の傷を癒せるのなら……って、ネガティブ僧侶ちゃんみたいに思った時間を返せやぁぁぁ‼


 熱病にかかったように怒号をまき散らす僕に、三人は怯え切った表情で縮こまったままだ。


 は? 女子を虐めて楽しいのかって? どう見たら僕が楽しそうに見えるんだい?


 きゃはは、怒号を女子にぶつけるの楽しーって言っているように見えるか!? 見えないに決まっているだろうが! 


 喉潰れちゃうから、極力自分を律して発狂しないようにはしているけど、これには許せませんでしたねぇぇ‼


 「わ、私達の策略に陥れたのは悪いとは思っている。ここは小悪魔ちゃん系女子のいたずらでしたということで、許してくれないか?」

 「うん! 許す! ……なんて言うとでも思ってその発言をしたのか!?」


 僕のお茶目な一面を見せてから、激流のような勢いのまま鈴谷先輩に怒鳴りつける。


 客観的に見てもいたずらで済むような規模ではなかっただろうが‼ 危うく今後の理想的な高校生活にズレが生じるところだったわ!


 あと、そんな上から目線で許しを得ることができると思っていたのか!? 怠慢もいいところだ。


 「だって、あんな引っかかんのアンタが初めてだったし……バカ過ぎて私達自身もブレーキを踏み切れなかったというか……」


 なに? 僕が巻き込まれ系バカ主人公だって? うん、八割はあっている。ただし二割が違う!


 バカではなくて鈍感だ! 意味は同じだが、鈍感の方が聞こえはいい。物は言いようというやつだ。


 折角お前らにキュンとかいう感情を抱いたのに、この一件で完全に冷めちまったよ! あーあ! ガチ萎え!


 大どんでん返しとは実在した。今日の収穫はそれだけ! こいつらのことなんて直ぐ忘れてやる!


 「もう僕は帰ります! それではっ!」


 「は」を強調して、僕は教室から退出しようとする。


 切り替えは早いと(僕の中では)評判なので、ドアに到着するまでの間に、先のことを考える。


 クッソォッ!! 時間を浪費しただけじゃないか! 希望としては一週間前でもいいから記憶を残したまま時間遡行したい。


 既に全部活を回ったから、生物同好会含めて部活動を視察しに行く手間が省ける。


 その期間に小暮会長についてよりつぶさに調べられる。そしたら事の運びが円滑になって、小暮会長と一気にお近づきになれる。


 ま、無駄な幻想にすがっていては一歩も前に進まない。これからどうするのかが重要だ。帰って作戦を練ろう。


 ドアノブに手をひっかけると、ピクリと動きが止まった。


 ……やっぱ今日は疲れたし、明日から本気出そう……。先延ばしそうだが、下手な作戦を計画するよりは断然構わない。


 「それでは、失礼いたしま――」

 「びぇぇぇぇぇ!! ごめんなさぁぁぁぁい!!」

 「ゴフッ!?」


 礼ぐらいはしようと後ろを振り向くと、子供のように泣きじゃくりながら紗音先輩がみぞおちに突進してきた。


 本人は謝罪の意を示そうと抱き着いてきただけなのだが、ここまで綺麗にみぞおちに入るとなると、故意的にやってきたようにしか思えない。


 感覚が麻痺しているが、そもそも抱き着いてくること自体が中々に謎だ。


 鼻声になってまで「ごめんなさい」と連呼する紗音先輩と一緒に、僕は床に崩れ落ちる。


 な、なぜ僕がこんな目に……ガクッ。


 「あぁー! 誠也君、紗音ちゃん泣かせたー!」

 「いーけないんだっ! いーけないんだっ! せーんせいにいっちゃーおー!」


 こ、こいつらここぞとばかりに僕を悪者扱いしてきおって……。


 直ぐにやめるようにと文句を言おうとするが、みぞおちのダメージが壊滅的で、声を満足に出すことができない。


 「びぇぇぇぇぇ~‼」


 や、やめろっ! 僕のネクタイで鼻水を拭くな! 僕は女子の鼻水で喜ぶほどアブノーマルな嗜好じゃないんだ!


 紗音先輩を取り外すのがベストだとは思う。が、固め技の経験があるのかがっちりと抱き着いてしまって、ひょろがりな僕では離せそうにない。


 やはり、中学時代にサイドチェストを修得すべきだったかっ! 


 紗音先輩に悪戦苦闘を強いられている僕の傍らで、海月先輩と鈴谷先輩がどこか怪しげな笑みを浮かべていた。


 「ねぇ鈴谷……。私に考えがあるんだけど?」

 「奇遇だな海月。私もだ」


 あ、嫌な予感。


 「パシャリ! 既成事実、写真に収めたなり!」

 「これを拡散してほしくなかったら、素直に入部しなさい!」


 ああああああああ! 現代ならではの脅し方ぁぁぁぁぁ! 


 昨今著しく普及率が増加傾向にあるインターネット。何千里も離れていようが、ラノベサイズの機械でワンタップで情報を共有できるようになった。


 世界規模だろうと一日もあれば拡散されるのに、それよりも小さいこの高校で情報が拡散するのは、十分も要さないだろう。


 「て、抵抗できない相手をいたぶって恥ずかしくないのか!?」

 「RPGでは最初に相手を状態異常にしてから、ずっと防御するからね。いたぶるのは大好きさ!」

 「ゲームでも性悪さを遺憾なく発揮するのかよ! 一周回って尊敬するわ!」


 僕も状態異常かけてから攻撃を開始するが、ずっとは防御しない。非効率的だしめんどくさいから。


 状態異常だけで敵を倒そうとする人、ネットの縛りプレイ実況者でしか見たことないぞ。なんて、そうなことはどうでもいいいいい‼


 「本当、この部活おかしいだろ……。それより早く紗音先輩を離してください! こんなとこ誰かに見られたら――」

 「――ごめーん。生徒会が長引いちゃって……」

 


 


 


 

 


 


 


 


 

 

 


 


 


 


 

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