第1夜その0 メデューサ×サンタ
メデューサ、それは畏怖の象徴。
だから誰も私たちを個人としては扱わない。
メデューという名前すらも知らない。
だから私も誰も対等には扱わない。
目の前は常に有象無象。
だから、ここで朽ち果てる。
「まさかここまで幼い姿だったとはな、メデューサ。だがここで終わりにしてみせる。世界の平和のために」
「…好きにすれば」
剣を構え私の前に立つのはこの世界の“英雄”。
その背後には彼女を支える仲間たち。
彼女たちは決して人間と交わることが無いように作りあげたこの空間を、私からの侵略行為だと決めつけ襲ってきた者たち。
だが、そうするだけあって私の石化能力は既に無効化されており、既に私の運命は決している。
彼女たちが定義した化け物は、自らを普通と称する蛮族に討たれるのだから。
「死ね」
そしてそれは呆気なく。
私の瞬きの間に訪れる。
額に感じる剣の切っ先。
感じた瞬間に硬直して熱くなる身体。
そして─、
「いやいや、その眠らせ方は不味いっしょ」
次に視界が開けた時には英雄は真横に蹴飛ばされ、私の前には赤い服の女が立っていた。
「いやーごめんごめん。なんか目的地が同じだったから一緒に同行させて貰ったんだけどね?まさかキミを殺すことが目的だったのは想定外!」
「…あの人の仲間じゃないの」
「まさか!私はこんな物騒な趣味はしてないよ」
「じゃあ誰なの」
私のその問いに彼女はさも当然のように、
「私はサンタ!年に1度良い子の枕元にプレゼントを置いて回る偽善者さ!」
己をサンタと名乗る。
「もう名乗っちゃったしね、ここからキミが寝るのは難しそうだし早速プレゼント渡しちゃう!さあ、キミは何が欲しいのかな?」
嘗て母が語ってくれた幻想の存在。
子どもの願いを叶えてくれる御伽の世界の住民。
ならば叶えてくれるのだろうか。
「私が生きていい世界が欲しい」
何も飾らない、私の本心。
焦がれて止まない叶わぬ理想。
「いいよ!なら私と一緒に行こうよ、サンタの世界に」
果たしてそれは。
「サンタの世界…?」
「そう!これは私の直感だけど、キミのこれまではここからの為にあったんだよ!だから始めようよ、ここからキミの物語をさ」
差し出されたその手を私は何故か素直に取ってしまう。
まるで、こうなることが決まっていたかのように。
「やあ、新しいサンタ!キミを歓迎するよ」
メデューサ、それは畏怖の象徴。
サンタ、それは希望の象徴。
私はサンタ。
メデューサのサンタ。
これは“彼”と出会うずっと前の話。
彼の物語が動き出す8年前の出会いの話。