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やよい軒にて

今日は朝からロクなものを食べていない。

朝が弱いせいでまともに朝食を取れる日が少ない。今日も小ぶりな焼き菓子を1つ食べただけだ。お昼まで耐えてお昼ご飯に全力を注ぐのだが、あと少しで休憩、といったところでトラブルが発生。昼休み返上で働いた。その甲斐あって定時で上がることが出来たが、空腹すぎて足取りが重い。

ガッツリいきたいなぁ‥‥と考える。オフィス街だとビルの方が多く、駅までの道には飲食店は限られている。その店たちもお昼は定食を出しているが、夜は居酒屋になってしまう。さて、どうしたものか。

悩みながら歩いていると駅まで来てしまった。ここで電車に乗ってしまったら家まで真っ直ぐ帰るルートになってしまう。ふと駅の向こう側を見ると、大きな看板が光っていた。私は引き寄せられるようにその店に歩みを進めた。


重量感のあるドアをくぐると大きな音を立てて閉まった。やよい軒はドアが重い店舗にしか出会ったことが無いなぁ、といらないことを考えつつ、チラリと覗いた店内はまだ混んではないようだった。

入り口で食券を買うのだが、これが頭を悩ませる。電子パネルを触ってメニューを吟味するが見れば見るほど悩む。ここで丼を頼むようなミスは出来ない。いつもはカロリーを気にするが、今日は欲望の赴くまま商品をタッチした。すると先にお金を入れるよう急かされる。いつもこのミスするなぁ、と千円札を入れた。

吐き出された食券を持ち、適当な席に座ると店員さんが食券を回収に来た。

「いらっしゃいませ。チキン南蛮とエビフライの定食ですね。お冷あちらからお取りください」

手早い接客に感心しつつ、半券を置いて行ったのを見届けてからお冷を注ぎに行く。温かいお茶もあるのだがこれからがっつく予定の私に熱いものは必要ない。

本当はチキン南蛮のみの定食にしようと思ったのだが、エビフライの誘惑に負けた。ここに来るといつも負ける。夏になれば期間限定の冷汁を問答無用で頼むため、そんな葛藤はない。やよい軒の冷汁は絶対に頼む。しかも冷汁も美味しいがセットで付いてくる鶏天がこれまた絶品で、サクサクした衣が癖になる。ちょっと前までタルタルソースが付いていてそれがまた食が進んだのだが、いつの間にか無くなっていた。あの時はショックだったなぁ。早く夏にならないかと思いを馳せた。

「お待たせしました」

声をかけられ我に返る。店員さんの手には私の注文した商品の置かれたお盆があった。

「ごはんのおかわり自由となっております。ごゆっくりどうぞ」

目の前に置かれたお盆には、ご飯とみそ汁、小さめの冷奴にタルタルソース。そしてメインのチキン南蛮とエビフライ置かれていた。

このビジュアルだけでご飯が進みそう‥‥!

高ぶる気持ちを抑え、卓上に常備されている醤油を手に取り冷奴にかける。昔はここからさらにタルタルソースを練る作業があったが、今は混ぜられた状態で提供されるのでその必要はない。よし、準備完了だ。

「‥‥いただきます」

箸を構え、まずはチキン南蛮を一口。サクサクな衣に甘酸っぱいタレが染みて、中から鶏の肉汁が溢れる。さらにタルタルソースの濃厚な味わいが口いっぱいに広がった。その味が消えないうちに白米を頬張る。これが白米に合わない訳が無い。罪深い食べ物だ。チキン南蛮の余韻に浸りつつ、エビフライを掴む。サクッと音がした。普段ファミリーレストランでしかエビフライを食べる機会が無いが、こうやって定食屋のメニューにあるのは嬉しい。サクサクの衣に包まれたエビはプリッとした食感で、いくつになってもエビフライは美味しいなぁと存分に楽しむ。

油っぽくなったので口直しに添えてあるサラダに手をつける。ドレッシングがかかっているところも美味しいのだが、下の方の甘酢ダレが染みたキャベツにタルタルソースをからめて食べるのも最高だ。これはチキン南蛮を食べた人にしか味わえない特権である。

半分ほど食べ進んだところで、白米がなくなった。立ち上がり、大きな炊飯器のようなお櫃に入ったご飯から自分でよそうのだ。これがやよい軒の良いところである。恥ずかしくてお代わりを頼めない人も気軽に何度でもお代わりが出来る。勢いよく盛り過ぎて自分をセーブする。欲張って入れすぎると後で苦しくなるから注意しなければならない。やよい軒の茶碗は意外と深くてよく入る。

席に戻って冷奴に手を付けた。さっぱりとした味は、先ほどのキャベツとは違いスルスルと入っていく。

チキン南蛮を食べ白米、サラダを食べて白米、そしてみそ汁で流し込む。これが美味しくない訳が無い。

計算しなくても分かる。この定食、カロリーが高い。でも今日は1日分の食事をここで摂取して良いと決めたので遠慮なく食べ進めた。

その後もう1杯ご飯をお代わりして完食した。


少し混みあってきたので水を飲み干し、席を立つ。店を出る間際「ありがとうございましたー」と言う声が後ろから聞こえた。

すっかり辺りは暗くなり、帰路につく人たちで駅は混んでいた。明らかに制服のスカートが苦しい。「ふぅ」と一息つき、鞄からパスケースを取り出した。

美味しいものを食べた後は気分が良い。これならいつもは憂鬱な帰宅ラッシュも難なく乗り越えられそうだった。


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