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サンマルクカフェにて

『ごめん!30分ぐらい遅れる!』

友人からのメッセージにはその文章の下に可愛らしいウサギが謝っているイラストが送られてきた。

「‥‥はぁ」

大きく尽きすぎた私のため息は改札前の混雑する雑踏に飲みこまれた。

彼女が愚痴を聞いて欲しいというから仕事を残して定時で上がってきたというのにこの有様だ。彼女の方も残業したくてしているわけではないというのは分かっている。しかし彼女の困ったところは、30分と言ったところで30分以上遅れてくるところだ。遅れる時間を大幅に見積もってくれた方が待っている方も気分が違うというのに、彼女は告げた時間内で到着できると思っている。悪い癖だ。

さて、待つ時間をどう過ごすか。

スマホから目を離し、ふと顔を上げると目立つ看板が目に入った。

あそこで時間を潰そう。

そう決めると私は改札からの流れを逆らうように、そのオレンジの看板を目掛けて歩いた。

外気が混じって生ぬるい風を感じていた改札前とはちがい、店内は空調が効いて滲んだ汗を乾かしてくれる。

焼けたチョコレートの匂いが鼻をかすめた。サンマルクカフェといえば、チョコクロだろう。ランチのときやおやつタイムの時は意気揚々とトングとトレーを持ちパンを吟味するが、これから飲みに行く身。胃袋を満たすわけにはいかない。パンコーナーもスイーツの入ったショーケースも無視し、レジカウンターに向かった。

「いらっしゃいませ。店内でお召し上がりでしょうか」

「はい」

私の返事を聞くと、店員さんは素早くトレーを準備する。普段ならブラックコーヒー一択だが、仕事終わりの胃は空腹を訴えている。メニューボードを見上げると珍しい名前の商品が目に留まり、気づけばそれを頼んでいた。

「ベトナム珈琲ひとつ」


帰宅ラッシュの時間だから混みあっているかと思ったら意外と席は空いていた。カウンター席は改札方面がよく見える。空いている席を陣取り、テーブルにトレーを置いたところでやっと落ち着けた。

ベトナム珈琲とは牛乳の代わりに練乳を入れたコーヒーだ。カフェオレは大体層になっている。コーヒーが上段、牛乳と混ざったコーヒーが中下段、下段に牛乳が溜まっている。ベトナム珈琲はそれとはちがい、きっぱりと二層に分離している。真っ白な練乳の土台に真っ黒なコーヒーが乗っているのだ。

冷えていれば冷えているほどこの練乳が混ざらない。

ストローを挿して一口飲むと、底に溜まった練乳の味が9割、上辺の苦いコーヒーが1割という甘ったるい口が出来上がった。だが空腹の今、これぐらいが丁度いい。カフェオレだったらガムシロップを入れているところだが、練乳であれば必要ない。

少しストローを浮かしてコーヒーと練乳の境目を飲むと丁度良くなる。ただ毎回そんなことをするのは面倒なので、ストローで練乳を混ぜるが全然混ざろうとしない。

これは良い暇つぶしになる。

一刻も早く家に帰ろうとする忙しない会社員や学生を眺めつつ、ぐるぐるとコーヒーを混ぜる。みんな働いていて大変だなぁと思ったところで、そういえば、友人を待っているんだったと思いだし、メッセージが届いていないか確認した。

『本当にごめん‥‥今職場出た‥‥』

数分前に届いていたメッセージには土下座するウサギのイラストが添えられていた。今からこちらに向かうとなると、最初に宣言した30分を大いに超える。予想通りだ。

私は『お疲れ様、気を付けてきてね』とだけ送り、再びコーヒーを混ぜることに集中した。


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