直輝、紫音に出会う。
唐突だけど、俺はよく変な夢を見る。それを見た後は、何処か切なくて、苦しい気分になる。
起きるとすぐ内容を忘れてしまって、それが何なのかは分からないけど大切なものだと思うのだ。
俺は病院の院長の息子で、跡取りだ。顔は綺麗な方だと思うし、勉強だって得意だ。女からはモテて、周りからもちやほやされる。俺は自分の人生が勝ちゲーだと言うことを分かっていた。
けど、そんな人生がつまらなかった。
そんなことを思っていたからなのか、俺はどんどんすさんでいった。表ではいい顔をして、それに騙される人を見るのが好きだった。どんどん、狂っていった。でも、そんな自分が嫌いだ。
親父はそんな俺の事を「クズ」と言うけれど、クズの何処がいけないのかがわからない。俺からクズを取ったら、後は生まれつき持っているいらない特典しかない。そうなったら俺には、何が残るんだ。
すこしくらい、抗いたいんだ。だって、時々思うんだ。「こんな人生が歩みたかったんじゃない。」って。その時、俺はまるで自分ではないような気がした。
昔から心にかかってくるそれは、未だに何なのかはわからない。俺には、分からないことだらけだ。
もしかしたら俺は、ずっとその答えを探しているのかもしれない。俺、矛盾してる気がする。
そんなときに、親父が城門寺家に行けと言ったんだ。凄い名家で、俺でも知っている。そこの紫音って言うお嬢が病弱ならしい。その令嬢と仲良くなれとか言われても、正直めんどくさい。だって、彼女はまだ3歳だし。
何を話せばいいんだ。……食べ物の話とかか?あーー、無理だ。俺には無理だ。
一応俺は跡取りとして最低限でも関わらなくてはいけない相手だし、手中にいれるか。でも恋愛感情とか向けられそうで怖い。やっぱ無理だ。でも、3歳児の時から頭に刷り込ませておけばいいかもしれない。
不敬な態度をとったところで3歳児には何も分からないだろう。何か、こう考えると気が楽になってきた。
でも、何か嫌な予感がするんだ。これはいったい何なのだろうか。
◇◆◇
城門寺家に行って令嬢に挨拶をする前に、彼女を見た瞬間何故か、『ドルシェナ』だと思ったのだ。俺はドルシェナなんて知らないのに。車椅子に乗る彼女を見るのが苦しくて、目をそらしてしまった。
いつものように猫を被ればいいんだ。……でも、俺が挨拶をした後、彼女は3歳児とは思えないような落ち着いた雰囲気で、ましてやずっと家に引き込もって暮らしている子供だとは思えない微笑みで俺に挨拶をした。
彼女に関わってはいけない。そう、俺の心が警報を鳴らした。
なのに。
彼女のしぐさを見るたびに、俺は彼女の中に踏み込んでしまうんだ。
「紫音って呼んでいい?年下に様はちょっとさ」
そんなこと言うはずなかったのに。車椅子を強く握りしめる。俺がそう言った後、彼女は困ったような顔をした。
でも、その後に
「ええ、どうぞおよびくださいませ」
余裕の笑みでそう返した。彼女が3歳児だとは思えない。話していることも俺なんかよりも大人だった。
彼女のことが、知りたい。
もう、頭の中はこの言葉で埋まっていた。顔色が少し悪くなっていることに気づいた俺は彼女の体調が心配になって、部屋に帰るように促す。
彼女の驚く姿でさえも心が心地よくなる。
もう、俺は戻れないらしい。
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