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第8話 「ジブリ作品の女の子で嫁にするなら誰がいいですか?」

・・・

・・


「麦茶もってきた」

「あ、うん」


お盆を小机の上に置く。

さて、それじゃあ…


「……」

「……」


それじゃあ……

えっと、どうする…?


「……」

「……」


(こ、これからどうすればいいんだ…?)


手持ち無沙汰に時間が流れる。


さて、流れるままに部屋に

向かい入れたわけだが、

女子部員は今日はなんの用事で

うちに来たのだろう…?


(……とりあえず、座るか)


立ちっぱなしなのも変なので、

とりあえず俺はその辺の床に座った。


「むっ…」


すると、途端に女子部員の表情がムッとする。

というかもう口でムッて言ってる始末である。


「タケシくん」

「は、はい」


ポンポン、とベットをたたく。

それは丁度彼女の横。

まるで横に座れと言わんばかりの

ジェスチャーである。


「横に座ってください」


その通りのジェスチャーであった。

Sir,Yes Sir. 俺はすぐさま行動に移す。

迅速に、かつ静かに彼女の横に座った。


「……」

「……」


再びの沈黙である。

それから数秒間続く沈黙に、

俺はだんだんとソワソワし始めた。


……え?これ変な他意ないよね?

ベットの上に2人で座る男女高校生2人。

こ、これ、もしかして何か俺の男気的なものを

試されてたりする?

え?これどういう意図?

なんでベットに座らされてるの?

試されてる?試されてる????


……と、1人悶々と自問自答していた俺だが、

ふふふ、と彼女の方から漏らすように

笑い声が聞こえてきたのだ。



「……ふふふ。タケシくんの部屋は

本当に変わらないですね」


「え?」


「子供部屋みたいです。

あのポケモンのポスター、昔から貼ってますよね。

いつまで貼ってるんですか?」


そう言って女子部員が指差したのは、

ポケモンの某映画のポスターだ。


「タケシくんの部屋、小学生みたいです」


……このやろう。言わせておけば。

言われて黙っていられるほど、

俺は人間ができていない。


だが俺もいい大人だ。

カチンときても、大人気なく

声を荒立てたりはしない。

静かに俺は反論した。


「水の都の護神はなぁ!!!!

ポケモン映画の中でも名作なんだぞ!?!?

それを俺たちの世代はリアルタイムで、

しかも劇場で見られたんだ!!!

こんな一生もんの思い出のポスター、

剥がせるわけがないだろう!!!!!!!」


大概の場合、リバイバル放映でもない限り、

映画を映画館のスクリーンで

見れるのはその時だけなのだ。


映画館で見て、売店で買ったこの生の思い出が

詰まったポスターを、捨てられるわけがない……!!!


……クールに熱意を伝えるつもりが、

喋り出したら指数関数的に

テンション爆上がりである。


「水の都のまもりがみ?」


「そうだ!

というか、なんだその初めて

その単語を聞いたようなリアクションは!

見に行ったろ!むかし!一緒に!」


「……あー。ロケット団の人が

助けに来てくれるやつ?」


「ちがう!それは『ルギア爆誕』だ!!」


なんで覚えてないの!?あの名作を!あのOPを!!


それから数分間、俺は

映画『水の都の護神 ラティアスとラティオス』

の素晴らしさを、勢いに任せてとくとくと

語り出した。


・・


「う、うん。わかった。

水の都の護神の面白さはよくわかったから」


女子部員は手をフリフリしながら

もうお腹いっぱいとアピールする。


「うん。思い出しました。

面白かった。すごく面白かったのを

思い出しました。」


「一緒に見たのになぜそんな淡白なんだ……?!

おもしろかっただろう!?

お前も当時感動してただろ!?!?」


「そ、そりゃ感動したけど……

でも、あれってアニメですよね?」


「なっ……?!

な、なんだその、遠回しにアニメを

バカにしたような言い方は……っ!?」


「ば、バカにはしてないです

でもアニメって子供が見るものですよね??」


「さ、沙織……お前はなんという……

はーー……」


こいつは昭和生まれのおばあちゃんか…?

アニメの概念がアトムの時代でとまってやがる…。


俺はやれやれと頭に手をやった後、

ガサゴソとDVDケースを漁った。


「よし。とりあえずジブリ全部見るぞ」


「え?ジブリなら見たことありますよ?わたし」


「じゃあ、もう一回見直そう。

最後にとなりのトトロを見直したのはいつだ?」


「えっ……?5歳くらい…?」


「お、おまっ……

金曜ロードショーとかで

見直したりしなかったのか?」


「??内容知ってるし、

見直す必要なくないですか??」


「はーーー……」


ジブリ映画は噛めば噛むほど面白いスルメ映画。


そして同時に、寝かせれば寝かせるほど、

味わい深くなるワインのような作品であることを、

女子部員は知らないようである……。


「歳をとってからみるとなりのトトロは最高なんだぞ?

とりあえず、となりのトトロから見ようぜ」


・・・

・・


「あ、面白いですね」


一通り見直して、女子部員は一言に総括した。


(……淡白だな)


俺の物足りない表情を察したのだろう。

女子部員は補足する。


「……子供の頃を思い出しました。

わたしも弟とあんな感じで

よく喧嘩したり遊んだりしてました…。」


「姉妹愛、ええよな」


「わたし昔、メイちゃんってあんまり

好きじゃなかったんですよね」


「あー。トウモロコシもって、

めちゃくちゃ頑固そうな固い顔で走り出すシーン。

子供の頃はなんか無意味にすごくイラっとしたわ」


「でも今ならなんとなくわかるんです。

小さくても、お母さんのために何かしたい、

って気持ちは人一倍で…

居ても立っても居られなかったんだろうなー、って」


「年上視点でメイちゃんのこと見ちゃうよね。

あの子結構聞かん坊気味なとこあるけど、

全部許せちゃうわ。


……あと、メイが飛び出したあと

サツキちゃんのお姉ちゃんっぷりがええねんなぁ…」


「ふふ、ですねー。


あと、メイが1人で飛び出したとき、

あのヤンチャなカンタが声色優しくなったり、

自転車でメイのこと探し回ってくれたり、

あの時のカンタすごくかっこよくないですか?」


「わかるンゴ…」


「お母さんのいる病院に行くシーンとか、

気丈に振る舞ってたサツキが泣き出すシーンとか…。

トトロは共感するシーン盛りだくさんですよね。」


「だなぁ…。

あと、家族団欒でお風呂に入ったり、

みんなでご飯作ったり、サツキがテキパキ

みんなの昼ごはん作ってる日常のシーンも

俺すごいすきなんだ…」


「わかります…」


そうしてトトロ談義に花を咲かせ、

次、また次とジブリ作品を見ていった。


……たのしい。

まるで昔に戻ったみたいだ。

昔はいつもこうして2人並んで、

俺のベッドに座って

ここからテレビを見てたんだ。


(沙織がベットに座って、って言ったのは

昔のこと覚えてたからだったんだなぁ)


テレビの前でベットに座る。

そこが俺たちのいつもの定位置だった。


そして10年たった今、こうしてまた沙織と

テレビを並んでみれることが、

ただただ嬉しかった。



・・・

・・


「……ジブリ作品の女の子で

嫁にするなら誰がいいですか?」


ジブリを一通り見終えたあと、

そんなことを沙織は聞いてきた。


「ナウシカ」

「ロリコン」


「キキ」

「ロリコン」


「どのヒロイン言っても当てはまっちゃう罵倒やめろ」


あと遠回しに

宮崎駿をロリコン呼ばわりするのもやめろ。


「……」

少し間を置いてから、沙織は再び尋ねた。


「……髪短めの方が好きなんですか?」

沙織は自分の髪をさわさわしながら尋ねる。


彼女の黒い長い髪。

昔からその長さ"だけ"は変わらない。


「……」


なんとも、素直にそのまま答えるのは恥ずかしい。

結局俺は質問をはぐらかすように

遠回しに答えたのだった。


「……あー。あとあの子も好き。

夏希ちゃんも好きだな。」


「えっ…。そんな娘いましたっけ?」

「サマーウォーズのヒロインの娘だ。」


「……サマーウォーズってジブリですか?」

「ちがうねぇ」


「もう。真面目に答えてください。

短い方が好きなんですか?どうなんですか?」


「……大人版三葉ちゃんくらいの髪が好きだなぁ」


「誰ですか三葉って!」


・・・・

・・・

・・







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