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第7話 「ジブリ作品の女の子で嫁にするなら誰がいいですか?」

前後編です。



【外野浅め、おっとバントの構えから…?

これはスクイズ狙いかー…!?】


居間のソファに右ひじをついて寝転がる。

テレビから聞こえるアナウンサーのその声に、

じっと俺は耳を集中させる。


外から聞こえる蝉の音。

いつもなら気になって仕方のない騒音だが

今日に限っては気にならない。


【ここも満塁でスクイズというのは…

い、一体ここからどう展開するのか!?】


甲子園決勝。九回裏。

手に汗握る緊迫した攻防に

俺の意識は完全にテレビに夢中だった。


「今年の鶴岡東つえーなおい!」


甲子園決勝。

鶴岡東と履正社の決勝戦。

東北民としては、是が非でも鶴岡東に

優勝してほしいところである。


あつい……今年の甲子園はマジであつい!

今までの中で一番あついんじゃないだろうか?!


そんなセリフを一昨年も去年も、

そして今年も繰り返す。



【そして第四球、投げました!】


ソファに足を延ばして

アイスの「爽」を食べながら視聴する。

もちろんエアコンもバリバリ稼働中。


涼しい部屋でソファに寝転がり見る甲子園。


これほど楽しい夏の

過ごし方が他にあるだろうか…?


【カラン】


氷の入った麦茶を軽く揺らしながら、

ゴクゴクと飲みほす。


甲子園決勝。九回裏ツーアウト満塁。

同点の緊迫したこの試合展開。

緊張の面持ちで、試合の行き末を見守った。


この最後の打席で試合が決まる…!

俺は吸い込まれるようにテレビを凝視する…!!


が。


しかし世の中とは無情なものだ…。

そんなたのしい時間も

ひょんなことで簡単に終わってしまうものなのだ。



【ブツン】


「あっ」


同点、九回裏のツーアウト満塁の甲子園決勝。

超盛り上がる最高のその場面で、

無情にもチャンネルが切り替わる。


「チャンネルかえるね」

「!?」


「えっ……なに?もしかしてみてたの?」

「!?!?」


「お、驚いた顔してないでなんか言ってよっ。」

「!?!?!?」


お、おま…おまえなんちゅうことを……?


「ご、ごめんて。見てないと思ったから…。

チャンネル戻すね?」


そう言って、妹の香苗はNHKに

チャンネルを戻した。

俺は愕然とした表情のまま、

テレビの液晶を見つめる。



【試合終了ーーーー!!

観客席、ものすごい盛り上がりです!

それもそうでしょう!

まさかあの場面でスクイズをしっかり決めたとはっ!

執念!執念の勝利です!

鶴岡東の優勝!!東北初の優勝です!!】



テレビの実況大盛り上がり。

俺を置いてけぼりに

テレビの向こうは大興奮である。


「………」


「あっ……ご、ごめんね?」


「……や。いいよ。

見るんだろ?午後のドラマの再放送。

兄ちゃんの見たいの終わったから、

もう見ていいよ」


「ご、ごめんね」


「気にせんでいいよ。

結婚できない男、面白いぞ。

しっかり見とけ」


「う、うん」


そして俺は二階へあがる。

スマホで甲子園の続きを見ながら

階段を登った。


・・・

・・



……夏休みが始まった。

だらだら家でゲームしたり、

たまにー友達と遊んだり。

そんなかんじで気づけば二週間は経った。


「……あついなー」


ぼーっと俺は自室の部屋のベッドで寝転がる。

なにをするでもなく天井を見つめていた。


俺の部屋にはエアコンはない。

冷房器具は扇風機だけだ。


寝転がったまま、顔だけ横に向ける。

面のカバーが外れた扇風機が、プロペラを

むき出しにしてガガガと首を回していた。


「……」


足を無作法に伸ばして、

扇風機の首元のボタンを押す。


扇風機の首は止まって、

その温い風を俺の体が一身に受ける。


送られてくる温い風。

そんな風がどこか懐かしくて、

ふいに部室の扇風機のことを思い出した。


「……夏休みも後半かぁ」


結局、あいつとは一度も

会うことがなかったなぁ…。


一度も会わないなんてことは、

小学生時代ならまずあり得ないことだった。


中学くらいまでは

夏休みでもあいつがフラリと俺の家に来て、

なんとなーく一緒に遊んでいたもんだが…。


(いつからか全然来なくなったからなぁ…あいつ…)


中ニにあがったくらいからだろうか?

あいつは全然うちに遊びに来なくなったのだ。


まぁ、今やあいつも花の女子高生だ。

しかも一番楽しい二年生の夏休み。

きっと色々やることもあるのだろう…。


「……」


……なんとなく胸のあたりがムカムカしてきた。


その胸のムカムカに気づかないふりをして、

俺は自分の部屋のテレビをカチリとつける。


テレビにうつされるのは数人の女の子。

若い女子高生たちが何やら恋愛談義をしてるようだ。


【カップルが関係を続けるためのテクニック!】


【やっぱりー、お互いに

思い合って行動することが大事ですよねぇー。】


【どっちか片方だけが気遣うような

関係は絶対続かないと思う!】


【わかるー!受け身な男とか最悪だよねー。】


【わかるわぁ。待ってるだけの男ってほんとサイテー】


「……」


俺は再びリモコンの

電源ボタンを押したのだった。


「……連絡取ってみるか」


携帯を取り出して、

ラインを開く。


「……って、俺あいつの

連絡先知らないんだっけか」


こんだけ長い付き合いで

連絡先知らないとかアホか俺は。


「………」


まぁ、連絡は後でいいか。

九月になればまた会えるしいいだろ。


携帯を放り出して、

ふたたび俺はベッドに仰向けに倒れた。



【ピンポーン】


「ん」


……チャイムの音だ。

はぁ、とため息をついてから、

俺は心底うんざりした面持ちで立ち上がる。


夏休みになると、子供のいる家を狙って

怪しいセールスマンやら変な宗教の人やらが

ウジャウジャと湧いてくるのだ。


「はー…めんどくせー」


宅急便かもしれないし

無視するわけにもいかない…。

俺はのったりと立ち上がって一階に降りる。


・・


『あはは、ひさしぶりですねー!』


ん?


応対しようと思ったら、

香苗が先に出てしまったようだ。


あの手の手合いは男の俺が

対処したほうが無難だろう。

俺は慌てて玄関に

向かおうとし、た、の、だが…。



『はい。ほんとにひさしぶりですね。

何年振りでしょうか?』



……聞き覚えのあるその声に、

俺の足はピタリと止まった。



『え?ちょw武内先輩なんですか

その敬語口調wちょー受けるww』


『う、うぅっ…!つ、突っ込まないでよー!』


「………」


階段を降りる足がピタリと止まる。


……街角で、何年か振りに幼馴染と

たまたま出会ってしまったような、そんな衝撃。


俺は考える前に息を止めていた。

気づかれないようにスッとしゃがみこむ。



『香苗ちゃんとは2年ぶりくらいかな?

ふふ、大きくなったねー』


『えへへ、バスケやってるおかげかなー?

でも相変わらず先輩は背ちっちゃいね』


『……う、うるさいよ』


『あはは』


『な、なでないでっ』



……ひさしぶりに聞いた"彼女"の声に、

俺の足は無意識に忍び足になってしまう。


「……」


息を殺す。

そーっと、階段を下る。


……って、あれ?なんで俺

息を潜めているのだろう?


自分でも正直よくわからないが、

自然と体がそうさせたのだから仕方ない。


昔の彼女が久々にみれる、

そう思ったら自然と足は忍び足に変わったのだ。



『それにしても先輩うちにくるの

ひさしぶりですねー。

お兄ちゃんに用事ですよね?』


『あ………う、うん。呼んでもらえるかな?』


『はーい、呼んできまーす』


……っとと、やべえ!

もしかしてこっちに来るか!?


俺は慌てて二階に戻る!



「おにいちゃーーーん。武内先輩きてるよーーーー」



・・・

・・



「……まぁ、汚いところだがあがってくれ」


そして、彼女を部屋に招き入れる。


「お邪魔します」

彼女は……いや、"女子部員"は

いつもの無愛想な表情で俺の部屋に入ってくる。


「……」

無言で俺の部屋を見回す女子部員。


その表情は、怒ってるようにも見えるし、

懐かしがってるようにも見える。

いや、楽しんでるようにも見えるかな?


まぁ、要はさっぱりわからんということですわ。


「……」

「……」


なんとなく見つめ合う俺たち。

なんでこんなに空気が重いんだろう?


さっき、香苗と話していた時の楽しげな雰囲気は

どこに行った…?

あれはもしかしたら

真夏の幻だったのかもしれない……。


「あの」

「う、うん」


重い空気の中、

女子部員はようやく口を開いた。


「どこに座ったらいいですか?」

「あ、あぁ。どこでもいいよ」


「……」


そういうと、女子部員は少し迷った後に、

ベットの上に座った。


……ベットの上。

そこは、昔、沙織がよくこの家に

遊びにきていた時、必ず座っていた定位置だ。


なんとなく感慨深い気持ちになってしまうが、

そんな気持ちを振り払うように、

俺は言葉を続ける。


「飲むもの持ってくるわ。何飲む?」

「それじゃー……麦茶で」

「了解」


・・・

・・


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