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第4話 「文系と理系どっちがいいと思います?」

20190804 文法ミス・誤字を修正


「そろそろ夏休みですねー……」


いつもの部室。いつもの放課後。

俺たちは相変わらず、

二人きりの部室でダラダラと過ごしていた。


【ゴーーーー……】


扇風機がブンブンと首を回している。


窓側の彼女と、入り口の近くに座る俺。

席の離れた2人に風を配給するべく、

扇風機が忙しそうに首を左右に振っていた。


(うむ…優秀な子だ…。)


やはり扇風機は東芝産にかぎるぜ。

かなり年季の入った機体だが、

元気に首を振ってくれている。


【ゴーーーー……】

扇風機の首が、今度は俺の方に

風を送ってくれた。

直後「むわーん…」とした生暖かい風が

俺の前髪を凪いでいく


……まぁ、優秀ではあるんだが、

これでもしも温い風ではなく、

冷たい風を送ることができるようになれば、

100点満点なんだがなぁ…。


そんなことを考えながら、

扇風機を見ていると……



「……そろそろ夏休みですね」

ん?


「そろそろ夏休みですねー?」


女子部員から同じセリフが

何度も繰り返されていることに

ようやく俺は気がついた。


「あ。もしかして俺に話しかけてる?」

「他に誰に話しかけるっていうんですか」

「たしかに…。」


この部室には俺と女子部員しかいなかった。


かなり遅れて、ようやく俺は

彼女の会話に乗っかるのであった。


「そろそろ夏休みですね」


「そうだな、夏休みだな」


「はい。夏休みです」


「……にしてもさ」


「?」



じっと彼女を見つめながら俺は言う。


「その会話の切り出し方ほんと好きよね、君」


"そろそろ夏休みですね"というフレーズ。

ここ最近、最も頻繁に彼女の口から

出てくるセリフだった。


テストが終わってからは

更に更にその頻度は上がってる。


「気に入ってるの?そのフレーズ。マイブーム?」

「……別に気に入ってはいないです。決して」

「えっ」


断固とした様子で否定する女子部員。

本当にここ最近よく言っていたセリフなので、

おもわぬ回答に俺は少し驚いた。


好きで使っているわけではないらしい。

ますます謎である。


「気に入ってないのに言ってるのか……?

なんで…???」


「そ、それは……」


女子部員は口ごもる。

こもりにこもって、ようやく絞り出すように言葉を返した。


「だって……夏、ですから」


「……ふむ。」


なるほど。夏だからか。

「そうだなぁ…夏だもんなぁ…」


そうかそうかと納得してる風に返事を返す。


語尾に「ぁ」をつけるときの俺は

大体いつも話題を流しているときの俺である。


このように、彼女は時たま、

わかるようでよくわからない理屈を持ってくるのだ。


典型的な感性タイプだよなー、

と個人的には思っている。

思っていたことをオブラートに言ってみる。


「沙織って右脳タイプっぽいよね」

「そうですか?」


「うん」

「でも私理系タイプだと思いますよ?」


「えぇ…?そうかぁ…?」


小中高とずっと見てきたが、

理系のイメージがまるでない。


小学生の頃の彼女は、気づけばいつも図書館にいた。

一人誰にも邪魔にならない場所。

ちょうど常に日陰になるその場所で、

ひっそりと本を読んでいる彼女の姿。


そんな記憶をふと呼び覚ます。



「昔からよく本も読んでたじゃん。

文系タイプじゃないの?」


「たしかに本は読みますけど…。

でもそれだけで文系と断ずるのは

ナンセンスだと思います。

理系だって文学は嗜むものですし」


……それもそうか。

沙織の言葉を受けて俺は一人納得する。


女子部員は続ける。

「わたし前に右脳左脳のテストやったんです」


「ほー。どうだったん」


「結果は左脳タイプでした。

理系に多い左脳タイプでしたね……!!」


「な、なんで誇らしげ…?」


どこか誇らしげに理系を自称する女子部員。


(……そういえばこいつ昔から

リケジョという単語に妙な憧れがある子だったなぁ…)


それからおもむろに、

彼女は今読んでいた雑誌の表紙を

こちら側に向けてきた。


雑誌のタイトルは、

『月刊ムー ブラックホールとタイムトラベルの謎』


「ね?」


ね?わかったでしょ?

と、言わんばかりのドヤ顔である。


「おぉ……?お、おー……」


オットセイのごとく、オッ、オッしか出てこない。


(ま、まさかこいつ……?!)


理系適性の高さを月刊ムーで

証明しようとしているのか……!?!?


フンスと胸を張る彼女。

ムー愛読者=理系脳、とでも言いたげな様子である。


流石の俺も言葉を失いかける。

しかし、すぐに"スイッチ"を切り替える。


「そ、そうかぁ。沙織は理系脳なんだなぁ。」

「はい、そうです!」


語尾に「ぁ」をつけるときの俺は

大体いつも話題を流しているときの俺である…。


そんな二度目の心のセリフを、

再びつぶやいたのであった…。



・・・

・・


ミンミンミン…ミンミンミン…。

外から聞こえる蝉の音。

喧しい蝉の声が夏の暑さをより演出する。


この暑さでは何もやる気が起きない。

開いたゲームを机に置いて、

俺は女子部員と会話を続けることにした。


「そういえば、沙織は文理選択どうすんの?」


文理選択。

今朝のHRで、文系か理系かを選択せよ

との告知が出たのだ。

沙織はどちらを選ぶのだろう。


「もちろん理系です。」


「まぁ、会話の流れ的にそうだよね」


「はい」


「となると来年からは

俺とは別クラスになるんだなー」


「え…っ」


ピタリ。

女子部員の雑誌を開く手がピタリと止まる。

おもわず、と言った感じで俺の方を見上げた。


え?なんでそんな驚いた顔してんの??


「文系理系は別クラスだからな。

俺は文系を選択するつもり。

次の学期からは別クラスだな」


うちの学校は少し変わっていて、

二年生で理系や文系科目のいくつかを体験した後に、

遅れて文理を選択するのだ。


「……」

唐突に女子部員は沈黙する。


……ん?言葉に詰まってるのか?

とりあえず俺は会話を繋げるように話を続ける。


「でもそうかー…。

いよいよ沙織との腐れ縁も

ここまでなんだな」


沙織とは昔から妙な縁があった。

小中高とずっと同じクラスで、

少子高齢化でクラスの数が少なくなっていると言え、

なかなかの確率で一緒のクラスが続いていた。


(その記録がついに破られるんだな…)


なんとも感慨深いものがある。

不思議な縁あって、なんとなーくこうして沙織と

二人でこうしてダラダラと話しているが、

こうしていられるのも、今だけなのかもしれない。


(……こうやって、人間関係は

少しずつ変わっていくのだろうか)


一抹の寂しさを感じながら、

妙におセンチな気分に浸っていると、

無言を貫いていた女子部員が、ようやく口を開いた。


「……タケシくんは理系にしないんですか?」


「うん。俺数学嫌いだもん」


「でも小学生の頃に、

「スーパー科学者に俺はなる!!」っていつも言ってたのに…」


「あはは、言ってたなー、

あの頃は、再放送でやってた

「科学戦隊ダイナマン」にハマってたからなぁ」


「……」

「というか沙織、よくそんな昔のこと覚えてるね」


「……まぁ、たまたま覚えてただけですけど」

「……」


「?……」


それから妙な沈黙が訪れる。

な、なんだ?急にどうした?


「……タケシくんは、

文系と理系どっちがいいと思いますか?」


お……おぉ?またいつもの議題か?


「と、唐突だなおい」


「答えてください」


「ん、んーーー……?やっぱ理系じゃないか?

よくわからんけど、今はITの時代らしいしな。

理系なら職に困らなそうだ」


「そ、そうじゃなくて……」


「ん?」


口ごもる。しかし結局言葉は続かない。


「………もういいです」


女子部員はそういうと、

再びいつものように読書に戻ってしまった。


・・・

・・


その日の会話はこれくらい。


それから帰宅のチャイムとともに

俺たちの時間は終わりを迎える。


何事もないいつもの1日が、静かにおわった。



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