新地獄より愛を込めて
サクッと読める短編です。
ちょっと不思議な気分になりたいときにどうぞ
ー前略、お兄様、お元気ですか?
近頃やっとこちらも落ち着いてまいりました。
旦那様やご家族の皆様にもよくよくしていただいております。
新居の方もだいぶ住み心地が良くなってまいりましたので
よろしければ、一度こちらにお招きいたしたく思います。
切符も同封いたしますのでお兄様のご都合の方つき次第おしらせください。
かしこ 冥家立夏
二年ほど前のことだ
色々あってうちの妹は地獄に嫁いだ
色々はのちに語るとして今は省いておく
そんな妹から二年ぶりの便りがこれである。
前説めいているがどうしても言っておかねばならないのは
俺と妹は、両親が他界してもはや二人きりの家族である妹は
ごくごく普通の人族であるという事だ。
地獄に嫁ぐと言っても死んでしまった訳ではないらしい
行き来は制限はあるけれど基本的にできるそうだ
あの世で物を口にすればこちらには戻ってこられないらしいというのは迷信だそうだ
ちなみに旦那の名前は 冥家デラヌ《めいけデラヌ》 というそうで
名字は本来無いが立夏の話を聞いて役職をそのまま名字にして名乗っているという。
初めて会った時に地獄の主人は閻魔様とか
もしくはヘルとか、伊邪那美とか、ハデスじゃないのかって聞いたら
デラヌは|(本人が自分は義弟になるのだからこう呼べって言った。)御伽噺かよって呆れてた。
地獄って言ってもかなりの数があるらしくて
その地獄ごとに主がいて、デラヌの支配する地獄は最近では一番新しい地獄らしい
さて雑談をしているうちにさあ着きましたよっと
普通に汽車に乗るときに、この切符を出したらなんだかよくわからないうちに着いた
世の中にはあまり深く知らない方がいいこともある、こういう場合はスルーが一番である
「兄様!お知らせしてって書いたじゃありませんか!」
汽車を降りると立花は待っていてくれた。謎の仕組みで俺が来ることはわかっていたらしい。
ああ、でも久々に会う妹……緊張するなぁ
「もう、兄様ったら無口もほどほどにいたしてください!せめて書面で一筆送っていただけば……」
妹のことばを遮ったのは端正な顔の男、こっちの世界だったらトップモデルとかになれそうな、
語彙力がなくてとにかく伝えきれないがそんな男だ。
「立夏、まずは『ようこそおいでくださいました』だろ?」
「デラヌ様……」
ラブラブそうでなによりである。
俺って昔から色々考えてるうちに返事するの忘れちゃうところがあって無口だと思われているらしい
「驚かそうと思って」
「兄さんらしいわね」
短く済む話は短く済ませないと、長々付き合わせるのも悪い
っていうか俺は本当はおしゃべりさんだ。
心の中では饒舌……心の中では。
新しくできた地獄ばかりだというのでそれから俺は色々と案内してもらった訳だが
これが凄いんだ。うん。
基本的には8区画に分かれているのだが、大まかに分ければ
・肉体的な苦痛を味わわせる地獄
・精神的な苦痛を味わう地獄
の二つで各4つずつ、それぞれに区画管理責任者がいるそうだ。
・ダーズンローズが管理する肉を痛めつける区画
・アバナズマが管理する内臓を痛めつける区画
・ドグマチールが管理する骨を痛めつける区画
・デバッガドールが管理する全身をまとめて痛めつける区画
・テイルランナーが管理する終わらない区画
・ルチアナルアが管理する何もない区画
・テルルカーフが管理する眠れない区画
・ラカントラカが管理する過去の区画
だそうだ。
精神の区画は分かりにくいが、要は終わらない何かを永遠に繰り返させられたり、
何もない空間にただ一人で置かれて何億年分も過ごさせられたり
眠くて仕方がないのに眠ることが許されなかったり
過去にあった辛い出来事を延々と繰り返させられるんだという
肉体に苦痛を与える地獄も恐ろしいが実際に見て回った精神の区画群は
恐ろしいなんてもんじゃなかった、ちなみにどの地獄も一切食物を口にできないらしい
亡者であっても腹は減るし眠くもなる。だからこそ
絶対に落ちたくないと思わずにはいられなかった。
区画の中にもいくつもの種類の地獄があって、様々な方法で痛めつけられた死霊たちは
前世での罪を清算しては次の生へ澄んだ魂で渡って行く
それは必要な過程で、だからこそ立夏も
「恨まれることの多い職業ですが、旦那様を尊敬しています」
と言っていた。そんな妹はどこかかっこよかった。
その後二日程度地獄に滞在して観光?を楽しんだ後に俺はこっちの世界へ帰ってきた
それからも時々手紙をやりとりを続けている。
諸君らにも注意しておこう。
物語に聞く地獄よりも、本物の地獄はずっと、いやいうまでもあるまい。
もしもこの注意を鼻で笑うものがいるなら、その身で知ることになるだろう。
俺は今何もない区画で罰を受けている
誰も聞いてはいないとしても何かしていないと気が狂いそうだ。
ああ、あの時こうしておけばよかったなんていうのはたらればに過ぎない
悔いの残らないように生きることだ。
ー新地獄より愛を込めて
いつか妹と冥家の恋バナを連載で書いて見たいです(。・ω・。)