第39話「どんな結末になろうともとは言ったけど」
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数日間の航行と試写会を経て、クルーズ船が紛争国の最寄りの港に到着する。この港に停泊して、各勢力の兵士や指揮官に対して仮想世界システムを提供するという仕組みだ。
わざわざクルーズ船を使ってまで現実世界で出向いたのは、やはり通信回線速度の問題。技術スタッフは日本在住の人達ばかりだし、この方が手っ取り早かったという。
いやまあもちろん、試写会興行も兼ねてたよ?タダでは起きないっていう精神は我がFWOグループにもあるらしい。営業的なところは相変わらずゆるゆるだけど。
<さすがに、『戦争中』の様子は中継しません。記録はしますが、公開するつもりもありません>
<『残酷描写』シーンばかりに、なる>
<全くです。現実に可能な限り即した表現とするよう求められましたからね…>
現実と見紛うばかりの表現は、あの詐欺の時に使われた仮想世界技術と、高速精密スキャンが活躍してしまった。あれらの技術もFWOグループが吸収したことを知っていて…くそう、あの某め。
いずれにしても、現在クルーズ船(現実)内に設置の仮想世界システムを起動し、準備を進めていく技術スタッフ陣。戦場エリアは数個だけなので、『コアワールド』のサブセットで対応できたそうな。…FWO日本サーバって、本当に広大なんだなあ。
<必要なアバターと各戦場エリアは日本で実装済ですし、実際の人々との接続確認が終わり次第、『実戦』に入ります>
<よろしく。私は、見ないから>
<ええ、その方が良いでしょう。では>
はあ…。どんな結末になろうとも、早く終わってほしいものだよ。
◇
FWO日本サーバで、リーネとしての私はミリー達とリポップボスの討伐を、ケインはビリーと一緒に露店販売。ボスまわりがちょっと違うけど、いつもの生活が進んでいく。
しかし、ビリーくんはいつになったらお金がたまるのかな?お店やりたいんだよね?
「宵越しの銭は持たねぇ!」
「…それで、どうやって店を持とうと」
「…あ、アイテム使ってボス倒せないかなーとチャンスを伺ってて…」
ビリーくんは一発逆転タイプの経済観念だった。ミリーは知ってるのかな?株を買うならFWOグループのにしときなさいよ?
なんか、田中&高橋ペアと同じ組合せのように見えてきた。さすが、どちらもリアルカップルカッコカリ。私が言えた義理じゃないか…。
「お、提案された側の方が優勢だぞ。ログアウトした死亡&捕虜兵士の数が圧倒的に少ない」
「みたいだな。提案した方がしかけた割には、早々に趨勢を決した感じだなあ」
実戦の様子は中継していないが、進捗は誰でも確認できるよう公開されている。公平性確保のためなんだとか。つまりあれである、選挙の得票集計の進捗表示みたいな。あるいは、スポーツのスコアのみ表示。
戦争をゲームのように扱うなんて…とも思ったが、ゲーム化しているのだから、まあ、妥当なのだろう。スポーツの国際試合が広がり始めた頃から国家間の緊張が緩和されたという説もある。今回の場合に当てはまるかはわからないが。
「そういや、先輩が歌っているあの歌、あの国の伝統民謡なんだってな。それに刺激されて、回線が細いながらもFWOを始めた人々が結構いるんだってよ」
「もしかして、それが影響しているとか?VR慣れが影響している?」
「まあ、どちらの勢力の人々もそんな感じみたいだけどな。ただ、そうして始めたFWOでは激しい戦闘なんかできなくて、スローライフがメインらしい。それがむしろ逆に…とかって説も出てた」
説って、また掲示板情報かな?まあ、わからなくもない。私がリーネとして尋常ならざる攻略厨ができるのも、同時にケインとしてスローライフをほえほえと送っているからこそだ。労力的な意味ではなく、精神的な意味で。
今だって、隣でミリーが『はー疲れたー』とか言ってる間も、リーネとしての私はリポップボスに回り込んで攻撃のタイミングを伺っている。常に気持ちの切り替えをしているようなものである。
うん、これも田中さんや高橋さん、技術スタッフの人々に説明したんだけどね、以下略。
「ああ、これはもう、決まりだな」
「そうだね。提案された側は兵士も司令官も主要メンバーを含めて多くが残っている。対して、提案した側の勢力は…え!?」
「おい、なんだこれ!?死亡してもログアウトできなくなってるぞ!?捕虜認定を受けた兵士も!」
なにそれ!?どんな結末になろうともとは言ったけど、そんな結末は認めないよ!?




