第36話「デート中ですね?デート中ならデートしてて下さいよ!」
手を、つないでみようと思う。リーネとケインで、いわゆる恋人つなぎ的なアレで。えへへ。
おいお前いくつだよなに純情ぶってんだコラという意見は素直に受け止めようと思う。
でも経験ないんだよ!相手の性別関係なく!普通にしっかりと手をつなぐのだって過去には両親くらいだよ!言わせんなよ泣くぞ!
だからまあ、いいじゃないか、試してみたって。どうせ中身は私一人だ。ノーカンだ。何のカウントがノーなのかはあえてはっきり言いたくないけど。うう…。
気を取り直して。
「…」
「…」
いつもの宿屋の一室で、それぞれ片方の手の平を合わせ、指を絡めていく。
はー、ケインの手って案外大きいなあ。ゴツゴツしているわけじゃないけど、リーネとしての私の手を大きく包み込む感じ。私がそう造形したと言えばそれまでだけど、私自身を比較対象にしたわけじゃなかったからね。
それに引き換え、『佐藤春香』アバターのリーネとしての私の手は、指は、小さくて、短くて、すぐにでもぽきっと折れそう。現実の体で、自分自身の右手と左手を組むのとは大違いな感触だ。
「…」
「…」
思っていたような、気恥ずかしさは、それほどない。
それよりも、妙に物悲しさを感じる。なんだろ、やっぱり自作自演だからなのかな?でも、それなら頭の中でこれでもかと悶えるよね。これだって、人には言えない黒歴史みたいなものなのだから。
うーん…。
ちょ、ちょっと、このままで外を歩いて、みようかな?
夕暮れ時だし、照りつけるお日様の下で人目?アバター目?に晒すってわけでもないし、うん。
「…♪」
リーネとしての私は、ケインとしての私と手をつなぎながら、ちょっと口ずさんで一緒に歩く。ちなみに、あの歌じゃなくて、宿屋で見た仮想世界ネタの映画の主題歌だ。なんとなく、頭に残っていた。
第1エリアの街並は、FWO内では最大規模の都市にして、中世ヨーロッパ風の古都を思わせる作りである。『始まりの街』として初心者の印象にも残りやすく、全プレイヤーの故郷みたいなものでもある。
はー、しかしあの大部隊に蹂躙されなくて良かったなあ。いやまあ、街並とかはどうにかされたってバックアップから復元すればいいだけだけど、そんなことがあったら、悪い意味で多くのプレイヤーの記憶に残る。そんな歴史は、現実世界だけで十分だ。
街に並ぶ店構えは、レンガ造りでありながら、現代風でもある。だから、店の中がガラスを通して見ることができる。ディスプレイも色とりどりで、ウィンドウショッピングだけでも十分楽しめる。
あ、あの服、ケインに合いそう…と思った時、田中さんの『何かと貢ぐような』という言葉が浮かぶ。…ああ、うん、そうね、そういうことね。
「ケイン、たまには、私の服を、選んでくれる?」
「僕がかい?君のセンスには遠く及ばないよ」
「それでも、いい。ケインが、選んでくれるなら」
うひゃー。誰にも聞こえていないだろうとはいえ、なんともこっ恥ずかしい一人芝居!いやあ、こんな姿を…
「…涙が、止まらないんだけど」
「あの発想が改善されているのはいいことなのですが…」
一番聞かれちゃダメなふたりに聞かれちゃったよ!お店の角で何してんですか田中さんに高橋さん!デート中?デート中ですね?デート中ならデートしてて下さいよ!
◇
「料理を作ってみましょう。もちろん、このFWO内で」
なし崩し的に合流した田中さんが、そんなことをほざきやがった。ミッキー高橋さんと共にいきなり魚屋1号店に連行されたと思ったら…。あ、この連行って『ドナドナ』っていうんだっけ。違ったかな。
「スローライフを送る仮想世界の夫婦に料理は必須です」
またどこかの作品に影響されたな?そうでしょ?
「レシピがあれば、作れる。リーネとしても、ケインとしても」
「ケインが作れるのは当然ですので、リーネとして作ってみましょう。それとも、現実の春香さんとしても作れますか?」
「リーネとして作れるなら、現実世界で春香としても作れる」
「そうでしたね…。なんというか、同時接続やロールプレイなどよりも、その能力がとってもうらやましいです…」
いや、それは違うよ田中さん。私はロールプレイが得意で、だからこそ、そのロールプレイ中の体験が現実の私として認識できるんだよ。同時接続でアバター分担できるのも、その一環。
と、いうことは、何度か田中さんや高橋さん、技術スタッフの人達に説明してるんだけど、どうしてもわからないらしい。もう理解してもらうのは正直あきらめているけど。
「わかりました。それでは、レシピなしで何か作ってみて下さい」
「レシピなしで?」
「ええ。その方が家庭料理っぽいですから」
ふんふん、とメモをとってる高橋さん。いやそれ、メモとるほどのこと?それともアレですか、田中さん語録でも作ってるんですか。
まあいいや、ということで、以前、ボス攻略前の野宿で作った…
「ちょっと待って下さい!?なんですか、野宿って!?」
「ボス出現を、待つため」
「今になってようやく、リーネパーティがほとんどのボスを攻略できた理由がわかりましたよ…」
え、ダメだったの?雑魚魔物も大量に討伐できてほくほくだったんだけど。
「ダメではないですが、そこまでの攻略厨だったとは…」
「ケインの、ため」
「まあ、いいです。その、野宿で作ったという料理を作ってみて下さい」
ねえ、田中さん、だんだん投げやりになってない?田中さんから言い出したことだよ?
などと反論してもしょうがないので、我が定番のウルフの火あぶりを手早く作って差し出す。
「はい、ダメー」
「なぜ」
「なぜ、と聞き返すところが凄いですね。春香さんの新たな一面を垣間見ました」
「美味しいのに…」
田中さんと高橋さんは、技術はともかく味覚が残念とかあれやこれやと評し始めた。残念ってなんだ。ウルフ美味しいじゃないか。クリームシチューの具にしたいくらいだよ。
「まあ、春香ちゃんのその服飾センスでなんとなく予想していたけどね」
「ケインを見るまでもなく、男性のためのファッション感覚はプロ級なんですけどね…」
服飾=ファッション、センス=感覚だよね?ふたりして遠回しにバカにしてますね?
このスカートの短剣模様、いい線いってると思うんだけどなあ…。
「あれ?そういえば、春香ちゃんが普段着ている服は普通よね?」
「そういえば、そうですね…」
―――はるか は め を そらす!
―――しかし そらせなかった!
―――はるか は といつめられた!
「…私の、服、みんな、お母さんに、買って、もらってる…」
「…春香ちゃん?春香ちゃんって、18歳よね?もう、大学生よね?」
「これまで『さすはる』ばかりだっただけに、なんとなく安心したようなそうでもないような…」
わかってるよー、肝心なところはお子ちゃまのままなんだよー。
今日はもう帰って寝る。明日も試写会で早いんだから!
今回の話でほわほわ(仮)シリーズは終了です。次回より第二部ラストの話を始めます。




