第8話「うはははは!雑魚がゴミのようだ!」
そういうわけで、リーネ、ケイン、そして、初期アバターの3人が、第1エリアのポータルポイントに降り立つ。
初期アバターは、リアルの私の年齢と身長に合わせて選択した。名前は設定していないが、私達3人しかいないのだから、普通に現実の名前で呼んでもらえばいいだろう。
「えっと、これからどうすればいいの、ケイン?」
「まずは、街の露店地域に行ってみようか。たぶん、NPCがサンプルとか並べていると思うから」
「わかったわ。…リーネ?ねえ、リーネ?」
中身が美里のリーネが、ぼーっとした顔で立ち尽くしている。視線の先はもちろんケインだ。
うん、まあ、カッコいいよね。中身が健人くんだから、美里にとってはなおさらだろう。
「リーネ!」
「へ?え、あ、ああそうか、今のあたし、リーネなんだ」
「そうよ。ケインと一緒に露店地域に行きましょ?」
「あ、う、うん。…それにしても、春香、なんか雰囲気が変わったわね。堂々としている感じ」
「え、そうかな?」
アバター経由だと、ロールプレイするのが身に付いているのよね。
今は、『平凡な初心者』というロールプレイ。イメージとしては、田舎からのおのぼりさんだ。
「わー、こんな感じなんだあ。オリジナルのケインは、いつも何を売ってるの?」
「なんでも。でも、レベル1のアイテムばかりなんだぜ。商人としての俺、ソルトって言うんだけどさ、その商人としては、新規開発されたものだけをケインと取引してる」
「へー、そうなんだー。あ、ソルトって名前、お姉さんから教えてもらってたよ」
という感じで、らしく会話する。こういうのはお手の物だ。でないと、同時接続なんてやってらんない。
…おや?中身が美里のリーネさん、機嫌が悪くなってますか?しょうがないなあ。
「ねえ、リーネ?ソルトくんからは普段何を買ってるの?」
「え?ああ、健…ソルトからはHPポーションがほとんどね。あと、最近は転移魔法陣、かな。あ、もちろん、リーネじゃなくて、本来のアバター、シェリーとして、だけど」
「だな。リーネちゃんは、レベルMAXな高級アイテムを普段から買い込んでるみたいだし。だよな?姉貴」
「そ、そうね。オリジナルのリーネのことはよく知ってるわ」
うーん、中身健人くんのケインに『姉貴』と呼ばれて、少し顔が緩んでいる。もう、疑いないほどにガチですな。
「じゃあ、オリジナルのことをよく知ってるリーネさん、次は戦闘を見せてもらえる?」
「任せなさい!」
ようやく、本調子になってきたかな。
しかし、シェリーっぽいリーネというのも新鮮だな。リーネは、もうちょっとこう、無口系に近いんだけど。
◇
「うはははは!雑魚がゴミのようだ!」
だから、それはリーネのキャラじゃないって。
黙々と、地道に、そしてストイックに。それがリーネだ。
などと言いたくなるのを我慢する。私は初心者、初心者だ。
「姉貴、それ、リーネちゃんのキャラじゃない」
「はうっ」
ケインの顔でそう言われたら強烈ですなあ、シェリー…美里としては。
「これは、私には無理かなあ。始めるとしたら、生産職系かな」
「お、そう?なら、始める時は声かけてよ。ケインも紹介するから」
「うん、その時はね。…あ、もちろん、美里経由で」
美里としてのリーネの一瞬の表情の変化を私は見逃さず、すかさずフォロー。なんか、怖かった。
そんなこんなで、3人でのFWOお試し版は終了。
…美里のガチなブラコン気質を確認できただけだったような気もするが。
ああ、そうそう。
運営にキャンペーンの件を『問い合わせ』たら、協力報酬としてPVのに上乗せされるとのこと。
いやあ、別に金銭が欲しかったわけじゃなかったんだけどなあ、ははは。…旧型ヘッドセットを新しいのに交換できるかな?