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第16話「我が身のこととして実感できないってそういうことだよ」

見切り発射ですが、第二部第二章を開始します。

それで、これまでのスピーディな投稿を期待されている方には大変申し訳ないのですが、数話分(たぶん4~5話ほど)書き上げたら、1話分ずつ毎日18:00で投稿予約、というスタイルにしたいと思います。見直しを進めながら公開できるといいますか、変に間を開けてエタらないようにできるといいますか…。既にある程度の文量を投稿している場合、この方がやはり安心できるんですよね。

余裕ができましたら、またまとめ投稿に切り替えたいと思います。御了承いただけますと幸いです。

「それでは、御社は関係がないと?」

「は、はい、もちろんです!当社とて、いくら不正でなくとも、社会的信用を失うような行為は…」

「ですが、あの件(・・・)で見られた大隊規模のプレイヤーの動きは、御社のVRゲームでマニュアル化されたものに酷似しております。それについてはどのようにお考えでしょう?」

「ぐ、軍隊の戦術は現実のものを参考にしていますからな、偶然かと…」


 ふーん、偶然ねえ?規模から編成から指揮系統から何から何まで、マニュアルの模範様式のひとつに沿っているのにねえ?


 ここは、リアルの会議室。VRゲーム同業他社の社屋にある応接室。そこの社長さんから提携の話をもちかけられ、その対応として、田中さんと私が訪問している。

 この会社のジャンルは…まあ、先の会話から御想像の通り、戦争。複数の国家を仮想世界に設け、プレイヤーはそのいずれかの国の軍隊に所属し、国同士の戦争の中で成果を上げていく。

 一兵卒から下士官まで成り上がるもよし、少尉から将軍までのエリートコースを駆け上がるもよし、報酬は多いが一兵卒に近い待遇の傭兵を続けるもよし、といった感じだ。


「いずれにしましても、あのようなことがあった以上、我々FWOグループとしては、御社のようなジャンルに直接関わるのは避けたいのです。失礼な物言いで申し訳ありませんが、御理解いただけないでしょうか」

「は、はい、それは、もう。私共としては、ジャンルを超えた提携を行うことで、今後の業務拡大のための発想転換を模索したいと、それだけでして…」

「そうしますと、少なくとも、互いの仮想世界をつなげてプレイヤーが行き来するような提携は想定されない、と考えてよろしいのですね」

「えっ…あ、はい、そう、ですね…」


 はー、やっぱりそんなことを考えてたのか。あれでしょ?FWO側で戦闘職プレイヤーを中心に直接勧誘して、戦争VR側に引き込む。

 別のVRゲームに直接乗り込んで戦争参加プレイヤーを得ようなんて、他の国に乗り込んで傭兵として徴収するようなものだ。それだって、勧誘プレイヤーが納得した上で参加するなら別に構わない。

 ただ、戦争VR側の勧誘って、アレだよね、賭けでPvPしかけるやつ。対人戦に慣れておらず、しかし、仮想世界の経験だけは豊富なFWOのプレイヤー達は、そんな戦争VRのプレイヤー達にとってのネギカモだ。


「FWOはもともと、初心者にも優しい世界として作られ、なおかつ、膨大なスキル数とエリア数で熟練プレイヤーにも満足いただいています。だからこそ、他に類を見ないほどのプレイヤー数を獲得しています」

「…」

「貴社のジャンルを否定するつもりはありません。ですが、プレイヤーを獲得したいのでしたら、現実世界での新規プレイヤー獲得に努めるべきでは?ああ、失礼。仮想世界をつなげたいというわけではないのでしたね」

「…おっしゃる、通りです…」


 ミリーが、戦争VRプレイヤーに挑発されて賭けPvPを受け、対人スキルで負けて戦場に連れて行かれる。ああ、やだやだ、そんなシーンは見たくない。

 私に関係なく、攻略とスローライフを是とするようなFWOの世界観に合わない。初心者にも優しく楽しい世界だからこそプレイヤーが多いのに。


「とはいえ、貴社との提携によって得られるものは、当方にも少なからずあるかもしれません。そこで、提案なのですが…」

「…なんでしょう?」



「しかし、やはり春香さんは凄いですね。持株会社にだけ据えておくのはもったいないくらいです」

「私は本来、ただのプレイヤー。こういうのは、田中さん…も違うか、『エンターテイメント』経営陣の、仕事のはず」

「会社同士の強気の交渉には、皆、慣れていないもので…」


 先程の交渉は、小柄でちんちくりんな小娘である、私、佐藤春香(さとうはるか)が行った。まあ、またニュースキャスター風ロールプレイに御出陣いただいたのではあるが。


 運営自らもその仕事を楽しく健全にこなしていける、ある意味理想のVRゲーム。それが『フェルンベル・ワークス・オンライン』。

 プレイヤーと運営との間の垣根があまりなく、お茶目でおかしな提案や発想が実装されることがあるものの、それゆえ急速に拡大した、通常であればまだまだ『新参』のVRMMO。


「戦争ジャンルは、古くとも確実な需要がありますからね。VRゲームとしても古参で、しかも、大企業系列が抑えるのが通例です。今回の話も、先方はかなり強気な態度で提携を『通達』してきまして」

「今では、FWOグループも、大規模な多国籍企業」

「急速に発展したおかげで、中身の本質までは変わっていないのですよ。良くも悪くも」


 とまあ、そういうわけで、荒事に向いていないFWO経営陣の許可を取って、実質的なグループ代表である私が直接交渉に臨んだわけだ。言うことを聞かせる『エサ』もあったし。

 私としては、交渉でも出てきた戦闘マニュアルに(・・・・・・・・)関する(・・・)情報が欲しいだけだけど。


「それで、本当に可能なんですか?その、戦争VRゲームとの…」

「…ごめんなさい、また勝手なことをして」

「いえ、今回の交渉も、先方の機嫌を損ねて、マスメディアにあることないこと吹き込まれても困ると思っていましたからね。そんな私に、口を出す権利などありませんよ」


 映画製作を進めている『FWOプロモーション(株)』社長の田中さんとしては、気が気でないだろう。

 私としても、田中さんが仕事のトラブルで高橋さんとの交際がうまくいかなくなるのだとしたら、大変残念だ。まあ、どんなことがあっても既に大丈夫なほどバカップルになっていることを、私は密かに知っているのだが。


『ねえ、春香ちゃん、御両親に夫婦円満の秘訣を聞いてきて!え、あ、も、もちろん、そんな、夫婦だなんて、夫婦なんて、話、まだまだ、そんな…!』


 アレは、誰だったんだろう…。うん、包丁を振り回しながら奇妙な踊りを踊るのは、ミッキー高橋さんしかいないよね。

 それにしても、いくら両親が『探検者』としての活動のため第1エリアやクルーズ船エリアにいることが少なくなったからって、私を通す話じゃないでしょう。交際どころか、実質的には失恋のような話ばかりの…


「は、春香さん!?ど、とうしたんですか、目が死んでますよ!」

「…ごめん、あらためてこの世の(私以外の)無常を感じて。もう、大丈夫」

「は、はあ…?」


 あーあ。私の人生に、男の人とのお付き合いとか、結婚とか、そういう要素が入ることってあるのかなあ。我が身のこととして実感できないって、そういうことだよねえ…。

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