第11話「なんであたし達は高校でそれができなかったのよっ…!」
招待した男の子は、無事再転移していった。
仕事とは別の、私の願い―――自分でも予想していた以上の願いを果たしてくれたこともあって、何かお土産を、と帰り際に尋ねてみたら、『お寿司アイテムをたくさん』と言われた。
男の子の国も件の隣国も大陸内部にあるせいか、生魚を食べることが難しいというかそもそも慣習がない。うんうん、日本の異世界…それはもういい。気持ちはわかるので、ミッキー高橋さんに馬車馬のように働いてもらって用意した。あとで田中さんに癒やしてもらいなさい。
「彼には、今後も時々日本サーバに転移できるようにする予定です。あまりやりすぎるとそれこそひいきとなってしまいますが、現地のFWOプレイヤーが少ないうちは希望に応じたいと思います」
えーと、それってあの子に現地FWO普及のための広告塔になってもらうってことかな?まあ、今更か、今回の記録映像も既にPV化されているし。映画化用とFWO拡大展開を兼ねたもののようだ。
なお、結局私は今回まとまった歌を歌ってはいないけど、男の子に歌い方を教えているシーンは、それなりに好評のようだ。…いつもと違って、あのシーンは純粋にこっ恥ずかしい。てれてれ。
こっ恥ずかしいと言えば、出会い頭のアレは完全未公表。わかる人にはPK無効化がわかるしね。あと、ほら、いきなり抱きつくってのは、世間一般的に、ね。いくら見た目小学生っぽい私でもさ。まあ、あの子は全く気にしてないって言ってくれたけど。
「それにしても、今回急襲した集団の意図がよくわかりませんね。PKを楽しむなら最初に極大魔法を使うはずがありませんし、戦争VRゲームと同じことを期待したのならそもそも魔法は使いませんし」
「持ち込めなかった武器の代わりに、魔法を使ったとか?マシンガンは、別として」
「大量破壊兵器を前提にすると、それはもはや戦術ではなく戦略シミュレーションですね。VRアバターの集団として楽しめるようなものではないと個人的には思うのですが、どうなんでしょうか」
まあ、世の中いろんな人がいるからね。一方的かつお手軽に殲滅できることを好む人だっているだろう。ただ、あれだけの規模の集団のみんながみんなそれを好んでいるというのも違和感がある。
と、すると。
「…実地の軍事訓練?実地じゃないけど」
「…FWOを都市殲滅の訓練に用いられてしまったと?確かに、プレイヤー達はさっさとアカウント削除して素性が追えなくなっていますが。しかし、そうすると…」
「あらためて、行方不明の社員と、あの政情不安の隣国を、調べた方がいい」
憂鬱である。それは、田中さんも同様だろう。
正直、単純にPKを楽しむ集団だった方がまだマシだ。その結果を現実世界に持ち込むことは少ないのだから。でも、それがよりにもよって現実の戦争に活かされてしまうのだとしたら。
はあ。最近、田中さんとはこういう陰鬱になるような話ばかりしているなあ。これじゃあ、高橋さんとの関係もぎこちなくなるかもしれない。
だから、話を切り替えることにした。
「それで?高橋さんとの同棲生活は?」
「どうっ…!いえ、その、うまくいってます、けど」
「それは、良かった。両親が言い過ぎていたので、気になっていた」
「大変失礼ながら、春香さんが御両親のような性格じゃなくて良かったです…」
それは違う。私は恋愛事情に深くコメントできるほどの経験が…経験が…かはっ。ひさびさにHP半減。
◇
舞台裏ではそんなことがありつつも、表向きの私の日常は大変順調かつ充実したものとなっている。
平日昼間でもミリーとボス戦闘が可能になったし、大学図書館のアクセスもよりスムーズになったしで、高校時代の攻略とスローライフよりもむしろ良くなっているかもしれない。
余談だが、現実の大学図書館では、学生証ではなくとも、なぜかFWO会員証(真)でも個人認証できるようになった。あと、大学の食堂やら購買やらでも。
もともとカード仕様が同じだったせいもあるけど、なんというか、割と広い大学の中での印籠か何かのようになっている気がする。銀行カード兼用自体が珍しく、みんな単に見てみたいだけかもだが。
いずれにしても、大学内で動きやすくなれば、普段のキャンパスライフはもちろん、民資研のための活動もしやすくなる。伊藤教授の研究室も訪ねやすくなるしね。事務の方、私は伊藤先生の娘じゃないよ!
そういうわけで、私自身が理想としていた大学生活が、ようやく始まったような気がする。映画撮影は連休までペンディングだし、しばらくは優雅に過ごすことにしよう。
「はい、春香ちゃん、これおいしいよ。あーん」
「あ、ずるい!私がカニクリームコロッケ食べさせてあげようと思ってたのに!」
「何言ってんだ、春香さんはシチューの方が好きなんだぞ!」
食事する時のこの脱力シーンが広く認知されるとは思わなかったが。
ねえ、ここ大学だよねえ?
◇
そんな日常生活を、自嘲混じりに話す私。
FWOではお馴染み魚屋にて、ケインの傍らにいるリーネとして。
「くっ、うらやましい…!なんで、なんであたし達は、高校でそれができなかったのよっ…!」
「掟なんて…掟なんて…要らなかったんだ…みんなで愛でれば…良かったんだ…」
ミリビリ姉弟が、アバターで器用に血涙を流しながら、そんなことをのたまった。
そんな舞台裏も知りとうなかったよ。




