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第7話「私の、最悪にして最高の、黒歴史」

 ヴゥン、という音がして、ひとりのアバターがポータルポイントに現れた。彼が『ケイン』のひ孫さんのアバターだろう。現地ローカルサーバに一度ログインし、ほぼ同じ世界位置の日本サーバに転送される。

 現地ローカルサーバにはまだクルーズ船エリアが実装されていなかったけど、うまくいったようだ。男の子のアバターがこっちに来て、何かを話しかけ…


 …

 ……

 ………


 …え?


「あ、あの…」


 その男の子に何かを話しかけられた私は、だが、ただただ呆然とする。

 そして、ふらふらと近づき、


 がばっ


 私は、その男の子を抱きしめていた。

 背格好が同じだからか、頬が男の子の首元に重なる。アバターだけど、ぬくもりを感じる。


「ケイン…!」


 私の、最悪にして最高の、黒歴史。

 初恋の相手は、VRアバターだった。



 ―――僕の名前、『ケイン』っていうんだ


 ―――こっちおいでよ、綺麗だよ


 ―――ここの景色、僕のお気に入りなんだ



「あの…あの、佐藤、春香さん、ですよね?」

「…っ!ご、ごめん!」


 我に返った私は男の子から飛び跳ねるように離れ、とりつくろうように姿勢を正した。

 …ダメだ、こうしてあらためて見ると、また…ああいや。落ち着け、私。落ち着こう。


「あの、そのアバターは?」

「はい、このアバター情報、おばあちゃんの遺品のメモリスティックに入っていたんです」

「え?」


 この時代、メモリスティックのような物理媒体にデータを保管したりバックアップしたりしない。ネット上のあちこちにある仮想ストレージに保管するのが一般的だ。

 政情不安定で内戦も頻発していると聞く、『ケイン』の中の人が暮らしていた国。おそらく、旧型の個人用VRローカルサーバを転用して運用していたと思われる、閑散とした仮想世界。

 もしかすると、バックアップ機能も何もなく、そのようなレガシーデバイスを使うしか方法がなかったのかもしれない。


「じゃあ、そのアバター情報を復元して?」

「はい。僕の国のFWOの人がこのアバターのことを日本本社に相談したら、すぐにFWOで使えるようにしてくれたんです」

「ああ、なるほど…」


 …ん?日本本社?


 田中さん、知ってた――――――!?



 甲板の椅子やテーブルに移動し、みんなで座って話を聞く。

 しかし、最初に会う時は田中さんが所用で同席できないって言ってたけど…逃げたな?サプライズとはいえ、もしこの場にいたら、また私がドロップキックでプールに突き落とすと思ったのだろう。正解だ。


「ねえねえケイン、あの男の子に妬いちゃう?」

「妬く?」


 ミリーがこっそりとそんなことをケインに尋ねてくる。私に聞こえないようにしているつもりのようだが、残念、ケインも私だ。

 最初、意味がわからなかったが、ああ、と理解して、


「いやいや、そんなことはないよ。…まあ、実は春香からあのアバターのことは聞かされていてね」

「え、そうだったの!?あ、もしかして、春香…というか、リーネの好みに合わせて、ケインのアバターの造形も変更した?名前も?」

「あー、まあ、そんなとこ」


 もしかしても何も、最初からそのままあのアバターを参考にしました。名前を含めてね。今の私と同じくらいの年齢になったらこんな感じかなーって。私の体の方は何も変化がなかったけどね!


「なーんだあ。あたしてっきり、春香は健人の顔とかを参考にしたのかと思ってた」

「ああ、彼のリアルも、僕のこのアバターに少し似ているそうだね。そういえば、名前も」

「まあね。ケインに話しかけるきっかけだったって、ビリー…当時のソルトが言ってた」


 なるほどね。まあ、健人くんのそれは本当に偶然だ。髪や目の色も全然違うしね。


「ところで、ケインは気にならないの?ふたりが何話してるか」

「え?何って?」

「え、もしかして、ケインも理解できるの!?ふたりが話している言葉」


 あ、簡易翻訳モジュールの設定するの忘れてた。

 えっと、言語設定、言語設定…。はて、出てこないよ?男の子が使ってる言葉。

 そこに、伊藤先生がミリーとケインの会話に入ってくる。


「いやあ、春香くんは凄いよ!あの言葉、歌詞の言葉ほどではないが、あの地域の小国家群でしか公用語として使われていない少数派言語だよ。私も、時々出てくる単語だけで判断しているが…」


 そうなの?んー、どうしよ。私がみんなの通訳するしかないのかな。

 と思ったら、男の子がフランス語に切り替えてくれた。なら、翻訳設定も必要ないね。え、やっぱりみんなわからない?なぜにー。

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