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第5話「その後のフレーズは私にとって困惑しか生まれない」

「はー、ミッキーと田中さんがねえ」

「まあ、そういうことだな」

「お前、気づいてたんだな。だから、先輩と田中さんのツーショット画像見てもなんとも思わなかったのか」


 いえ、単に自分自身のことだったからです。

 などと言うはずもなく、いつものあいまい微笑返しをビリーにしておく、ケインとしての私。


「しかし、このクルーズ船エリアもすっかり名物のひとつになったなあ」

「そうだな。まさかFWOで何度も乗船を体験できることになるとはね」

「本物の設計データをそのまま反映させているらしいぜ。誰がデータの権利をもってるか知らんけど、太っ腹だぜ」


 ここは、FWOに数あるエリアの中でも、特別扱いの場所。名前でおわかりのように、以前私が各国関係企業の招待客と太平洋上を航行した時のクルーズ船そのままをFWO内に再現し、エリアとしたものだ。

 船内は街や村と同じ扱いではあるが、エリアなので、エリアボスがいる。とはいえさほど強くなく、初心者プレイヤーを卒業した程度のレベルならば討伐できる。ちなみに、タコの怪物だった。うにょうにょ。


「あのPVのせ…おかげで、船舶会社やデザイナーの顧客がそれなりに増えたらしい。船がPVに出てるんだから、普通はお金を請求する側のはずなんだけどね」

「そりゃあお前、佐藤先輩は今や」


 その後のフレーズは私にとって困惑しか生まれないので、聞こえなかったことにしておく。


「で、その外国の少年をここに招待するって?ゆかりのある船を基にしたエリアということで」

「ああ。リーネではなく、あくまで春香としてね。ついでに言えば、アバターも」

「先輩も凄いよなあ。その子が非互換の旧型ヘッドセットしかないからって、最新型をプレゼントするなんて」


 そうなのだ。『ケイン』おばあちゃんのひ孫の子が住んでいるところは国境沿いの小さな町で、そもそも町全体がVRゲームに通常必要な通信回線に対応していない。

 ただし、最新型ヘッドセットとその地方のFWOローカルサーバであれば、リアルタイムなデータ圧縮通信で十分に楽しめる。

 ローカルサーバはFWOグループがその町を含む地方対象に先行設置したが、対応ヘッドセットは各自が用意する必要がある。そして、それは最新かつ最高スペックであり、とても高い。


「ひいきになるんじゃって話もあったらしいけど、FWOへの招待は春香個人の願いでもあるからね。特に今回は日本サーバまで来てもらわないといけないし」

「しかも、あのシングル曲に関わることだからな。FWO内でも歌ってくれるんじゃないかって期待しているプレイヤーも多いらしい。もちろん、俺もな!」


 さて、それはどうしようか。まだ決めてないんだよね。

 本当なら、あの歌詞の意味の詳細を理解して日本語訳で歌いたいところだけど、流石に今回は間に合わないか。



 リーネの代わりに『春香』アバターを調整していた時、田中さんがひさびさの『上司』アバターで話しかけてきた。


「春香さん、今回の少年の件ですが、少々複雑な事情があることがわかりました」

「複雑?」

「少年はもともと今の町で生まれたわけではなく、物心ついた頃に、隣の国から内戦を避けて家族と共にやってきたようです。難民というよりは、親戚を頼って今の町に来たようですが」


 ということは、『ケイン』はずっとその隣の国にいたということかな。あのVRゲーム、そんな政情不安定な国で稼働していたのだろうか。隣の、比較的豊かな国で運営していたにしては、閑散としていたし。

 あと、あの歌詞の言葉は、その隣国に住んでいる少数民族の言葉だったってことになる。政情不安定なら現地調査も厳しいし、既にデータ化されている音声だけで言語体系がわかればいいけど…。


「それで、その子との関係は?」

「いえ、少年の方は問題ありません。問題は、その政情不安定な隣国の方でして。FWOグループに吸収されたあの企業は、条約違反にも関わらず、密かにその国の一方の勢力と取引をしていました」

「軍事訓練のための個人用VRローカルサーバ?」

「その通りです。ですが、もう一方の勢力に、そのVRサーバが強奪されたようです」


 つまり、あの男性の言っていた話は、あながち嘘でもなかったらしい。

 受注してVRサーバを数十台用意したところまでは同じだが、政変で売れなかったのではなく、納品後にもう一方の勢力に強奪され、発注元の勢力が購入費を踏み倒したようだ。

 残ったのは、サンプルとしてのVRサーバ1台のみ。これを用いて、先の会社ぐるみの詐欺を考え出したらしい。


「ただ、密かに取引した社員が現在行方不明です。このため、詳細は今まで知られず、少年の出身国として調べている途中で各種資料から発覚したということです。警察には連絡済です」

「もしかして、あのハイリスク・ハイリターンな詐欺手法を考えたのも、その行方不明の社員?」

「かもしれません」


 あの詐欺をした会社の資産は、現在はFWOグループに吸収されている。再編の中での資料整理・分析でも裏付けが取れたようだ。


「強奪された勢力が補填のため、新しく設置したFWOローカルサーバを、強奪する可能性がある?」

「さすが、春香さんですな。もちろん、あくまで可能性です。ハイリスク・ハイリターン。ですが」

「取引した人物が、VR専門家として強奪された側の勢力に与していれば、その可能性が高い、と」


 陰謀ですなあ。でも、私はスパイではない。とりあえず、現地会社に既設FWOサーバの監視をお願いしよう。だから、心配しないで、田中さん。

 FWOグループにも警備担当の系列会社が必要かな?FWO-SS(Security Service)とか。って、私はFWOをどうしていくつもりよ。



【日常】FWO総合スレPart2311【生活】


253: 名無しの重騎兵

最近ここのスレはまったりしてるな


254: 名無しの弓使い

映画スレが盛り上がっているからな

まあ、これはこれで

ケインに毒されたかな


255: 名無しの陶芸職人

おい、PK集団が現れたぞ

しかも、かなり悪質


256: 名無しの重騎兵

>>255

ひさしぶりだな

またケイン・ディヴォースの一派か


257: 名無しの陶芸職人

>>256

違う

あいつらは映画化スレでとうの昔に昇天した

ではなくて、パーティ相手にヒット&アウェイ


258: 名無しの斥候

>>257

俺も見た

やけに統率とれてたなあいつら


259: 名無しの八百屋

戦争VRから流れてきたのか?

迷惑な

リーネちゃんに殲滅されてしまえ


260: 名無しの薬師

リーネ様というか春香様はしばらくそっとしておいてほしい

大学生活始まったばかりだし、映画撮影も控えているし

最近はイベント交流もあるんだろ?


261: 名無しの傀儡師

>>260

まあなあ

春香たんはぁはぁ


262: 名無しの釣り師

>>261

通報

って、この流れもひさしぶりだな

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