第5話「自分自身同士でも、私は、幸せなのだろうか」
そして、滞りなく終了した、事実上のVR合コン。
いや、だって、特に話すことないもん。他の人に伝えるほどの、という意味だけでなく、合コンそのものにおいても。あれだけ騒いでいたソルトはフレ交換だけでほくほくだし。
同時操作は相応にできはしたが、お互い顔を見ながらの、しかも、周囲に人がたくさんいる場所では、どうしても会話がうまくいかない。本来の私のコミュ障気味が露呈したとも言えるが。
他のメンバーは、次第になごやかに歓談するようになったようだ。何組かカップルもできたらしい。
ただ、シェリーが時々、話しかけるだけでなく、私の方をちらちらと見てきたのが気になった。正確には、ケインとして、リーネとして、の、両方の私を。なんだったんだろ?
店から出て、さて解散、という時、シェリーがリーネとしての私の背中を押す。それほど強く押されたわけではないが、少し前かがみになる。
その先には、ケインがいる。ある意味当然ながら、危なげなくリーネを支える、ケインとしての私。そして、小柄なリーネはケインの腕の中にすっぽり収まる。
反射的に、リーネは上目遣いに、ケインは見下ろす形で、お互いを見つめる。…その瞬間、『パシャッ』という音が。ん、誰かスクリーンショットを取った?
「リーネは、ケインに送ってもらいなさい。ケイン、よろしくお願いします」
「え、シェリー?」
「じゃあ、来週のクエスト攻略の時に、また」
そう言って、去っていくシェリー。他のメンバーも、なんだかわかったような顔をしながら歩き去る。
…えっと、これってもしかして、リーネとしての私と、ケインとしての私を、くっつけようとしてる?
まあ確かに、FWO内ではあまり接触しないようにしていたから、つい初々しい態度をお互いにとってしまったかも。加えて、気心の知れたアバター同士だし。当たり前にも程があるが。
ここ数年ほとんど会話のない兄妹姉妹同士が、合コンで偶然出会ってしまったみたいなものだろうか。全然違うか。
…でも、まあ、安心感はある。こうして、ちょっと寄り添っている感じとか。どっちも私だから当然だけどね!
とはいえ、案外、このまま付き合ってる者同士として周囲に認識された方が、トラブルは少ないかもしれない。
そう、思い始めていた。
『ピロン♪』
リーネのアバターに、何か届いた?空中に現れた封筒のマークをタッチする。
「…」
さっきの、スクリーンショットだった。お互いを見つめ合いながら寄り添う、リーネとケイン。
背格好が違いすぎて兄妹に見えなくもないが、でも、幸せそうなオーラが見える。
…そうなのだろうか。自分自身同士でも、私は、幸せなのだろうか。
◇
【夢と希望】FWOプレイヤーが集うスレPart71【現実と絶望】
232: 名無しの牧師
スレタイなんとかならんか
VRなのに
231: 名無しの剣士
どの掲示板でもお通夜のようになってる件
みんな、それなりに納得したんじゃないのか?
232: 名無しの農夫
理屈と感情は違うのだよ
…違うんだよ
233: 名無しの双剣使い
リーネちゃんは相変わらずの攻略厨だし、ケインも絶賛ゆるゆる中
でも、たまに街で連れ立って歩いているところを見ると、こう…
234: 名無しの魔導師
後悔…後悔は…先に、立たず…
235: 名無しの弓使い
>>234
IKIRO
236: 名無しの斥候
こないだ知り合いがケインにPKかけたら、あっさり死に戻りした
その知り合いが
237: 名無しの八百屋
>>236
街中でバカだよな
初級転移魔法陣を開発したのがケインなの忘れてやがる
そして、その最高レベル版を当然のように持っているリーネちゃん
第10エリアのボス攻略を放り出したらしいぞ
238: 名無しの剣士
>>237
すぐに戻ってきっちりボス討伐成功させてたけどな
残念なのは、リーネ不在の間にHP全損しまくった支援パーティ
239: 名無しの鍛冶職人
不思議なのは、露店地域半壊したのに何もお咎めなしってこと
むしろ特攻野郎は更にペナルティ食らったっていう噂も
240: 名無しの斥候
>>239
噂じゃない、本当だ
本人から聞いた
運営はリア充の味方なのか
241: 名無しの重騎兵
>>240
だからリアルじゃないだろ