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第49話「黒歴史を含めて会社ごと葬り去った気分」

 昨日の件を振り返ってみる。

 まあ、一行で済むんだけど。


『業界2位のVRゲーム会社およびその系列ネットカフェが一丸となって詐欺を働いていた』


 以上。

 至ってシンプルだね。


「そんなわけないでしょ!あの場にいた私もまだよくわかってないよ!」

「ある程度は予想できますが、私もよくわからないというのが正直なところです」


 FWO本社併設レストランで今日もクリームシチューをおいしくいただく、私、佐藤春香(さとうはるか)

 と、なぜかお冷だけで何も注文しないまま、私に詰め寄ってくる高橋さんと田中さん。


 ああ、ふたりと一緒に振り返ろうって話だったっけ。

 じゃあ、順番に確認していこうかな。



「まず、FWOからログアウトした後の世界も、彼らが構築したVRローカルサーバによる仮想世界だったことに気づいたのは、いつですか?」

「最初から」

「最初から!?FWOからログアウトした直後から!?」

「そう」


 いやだって、アバターが違和感バリバリだったじゃない。あれは、肉体を動かしている(・・・・・・)時の感覚と全く違う。


「私、全然気が付かなかった…」

「脳以外の肉体を眠らせるような状態にしてから、意識をVRアバターにつなげるわけですから、休眠効果で多少の違いは…ああ、春香さんは肉体が覚醒していても意識をVRアバターにつなげられるんでしたね」

「え、ちょっと待って!?それじゃあ春香ちゃんって、普通のひとつのアバター用ヘッドセットを使っても、クルーズ船でやったようなことができるってことなの!?」


 そういうことに、なるなあ。

 うーん、また私のユニークスキル(仮)が絡んでいたようだ。



「そして、現実の春香さんそっくりのアバターを動かしたまま『意識的に』肉体を覚醒状態にした、というわけですか…」


 その通り。


 覚醒後にカプセル内の携帯端末を操作して田中さんに連絡しつつ、カプセルのオプションポート経由で遠隔操作用アバター『ハルカ・フリューゲル』の情報一式を流し込む。

 その情報一式をローカルサーバ内の『佐藤春香』アバターに渡すことができたのは、VRゲームの流用だったせいか、ローカルサーバ内のアバターにもストレージ機能があったためだ。

 ただ、さすがに【ストレージアウト】の機能はなかったため、トイレにいる間に(約2分間で)簡易スクリプト言語でさくっと仕上げた。遠隔操作用の『ハルカ』には【ストレージアウト】がないからなあ。


 あとは、DDoSをかけた時のように『ハルカ』を5体複製し、ミリーとの模擬試合でも使った日本刀を、あの男性に突きつけたわけだ。痛いのは嫌だって言ってその場で何分間も座り込んでいた。

 その何分間さえあれば充分で、田中さんからの連絡を受けた所管警察のチームが現実世界のネットカフェに踏み込んで、終了。


「自作ヘッドセットでリーネだけログインしている最中に、ケインにログインすることは、たまにやる。その逆も。それと、同じ」

「同じって…そんな、自分の体をVRアバターのように扱うなんて…」


 どうやら、人外認定が更にレベルアップしているようだ。

 このふたりには、あまりそういう目で見られたくないんだけどなあ。


「みんなだって、眠る時に意識を体から切って、起きる時に意識を体につなげる。それと、」

「同じじゃないわよ!!」

「同じではないですねえ」


 前に技術スタッフ陣にやられてしまった、『ないわー』と同じ表情の、高橋さんと田中さん。


「高橋さん、春香さんにとってはこれがもう普通のようですから、突き詰めるのはやめにしましょう。FWO運営以外にはとても話せることではありませんが」

「あの『レッドドラゴン』の件も、自分自身の肉体をVRアバターのように動かせるからこそ、なのね。誰が信じるのよ、こんなこと…。まあ、その方がいいんでしょうけど」


 なにやら、勝手に決着がついてしまったようだ。

 …うん、心配してくれてるんだよね。それは、わかる。



「あの運営会社と系列ネットカフェは、何がしたかったのでしょう。詐欺にしては、やることが壮大過ぎるのですが」

「ハイリスク・ハイリターンの詐欺行為。それだけ」

「リスクが大きすぎるよ…」


 そうでもない。なんだかんだいって、VR技術が発達している日本における、VRゲーム業界2位の会社だ。人材も設備も、どこかの国の政府よりよほど強力で豊富だ。カプセルを改造できる程度には。

 あの会社は、特にモーションキャプチャ技術に優れている。高速精密スキャンにより、体型やその動きだけでなく、身につけている携帯端末まわり等の情報も得て、アバター変換できてしまう。

 『ハルカ』アバターの巫女装束衣装は、そうして作られたものを討伐特典で手に入れたものだ。そのデータをコピーして『ハルカ・フリューゲル』として動かすのは、何かの皮肉か。


「VRローカルサーバ詐欺を、ずっと続けるつもりは、なかったと思う。失敗にしろ成功にしろ、大物のケインを相手にしたら、騒ぎになる。別の高額商品に、切り替えていたと思う」


 詐欺トリックに使うVRローカルサーバがそもそも高額で人気の商品だから、まず最初にこいつを高速精密スキャンにかけてアイテム化した、ということなのだろう。

 しかしあのVRサーバ、1/10の価格設定にしていたよね。10人以上は騙さないと元がとれないんだけど。被害にあっても警察が取り合わなかったり、何かの理由で被害を隠したりしたんだろうか。



「しかし、あの会社も終わりですね。FWOへの一連の妨害工作の大元としても露見しましたし。最初に『ハルカ』アバターが対処したあの事件も、まさか話題作りの自作自演だったとは」

「大幅なリストラか、倒産、ってこと?」

「ええ。あのゲームも稼働終了でしょう。シェアを減らしていたとはいえ、かなり優秀な人材や設備、そして、楽しんでいた数多くのプレイヤーがいるのですから、大変惜しいのですが」


 そうだねえ。

 個人的には、『ハルカ』の黒歴史を含めて会社ごと葬り去った気分ではあるのだけれども。


 しかし、FWOにそれらの人材や設備を吸収するってことはできないものかな。私にとっても、道連れにして墓にもっていくという意味では、問題ないのだけれども。

 でもそのためには、やはり先立つものが―――


 ―――あるじゃない、先立つものが。

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