第48話「私の名は佐藤春香。攻略とスローライフを手に入れる者」
リーネとしてざくざくっと討伐してFWOをログアウト。あーあ、ケインのローブ…。
隣のカプセルでログインしていた高橋さんも復帰。釣り師からの入荷はあったのかな?
「お待ちのお客様が到着しました。こちらへどうぞ」
店員さんに誘導されて、会議スペースに戻る。
到着すると、ひとりの男性がいた。年は、30代半ばだろうか。
男性が名刺を出し、私と高橋さんがFWO会員証を見せる。
「おお…本当に佐藤春香様、なのですね。おひさしぶりです」
「ひさしぶり。といっても、リアルでは初めて」
「そうですな。FWOではリアルでも御活躍のようで。同僚が嘆いていましたよ、もうちょっとなんとかならなかったのか、と」
この人とは確かに2度ほど会ったのだが、どちらもVR面会である。そして私はプレイヤーとしてのみ。立場は田中さんに似ているが、私との交流は、せいぜいが苦情相談程度。
決して、PVにアバター出演したり、ドキュメンタリー映画を提案されたり、コスプレしたり、歌ったり、…。帰りにもうひとつ水鉄砲を買っていこう。すんごく飛ぶやつ。
高橋さんについて簡単に紹介し、席に座る。
「それで、ケイン…リアルな情報がないと名前を呼ぶのも難しいですな、そのケイン様の代理とか」
「私が良いものと判断したら、売買契約してその場で携帯端末で支払っていいって」
「ちょ、ちょっと春香ちゃん、もう取引する気なの!?」
「大丈夫」
ある意味、私の用はもう済んだから。
「そうですか!振込確認後に発送手続き、となりますが、よろしいでしょうか?」
「はい。現物は、見せてもらえる?」
「あくまでサンプルになりますが、こちらに」
重厚そうなサーバの筐体が、テーブルの上に置かれる。
「は、春香ちゃん!これ、本当に最新鋭のVRサーバだよ!家がひとつ買えちゃうくらい高いやつ!」
筐体の、取り外しやすい部分のフタを開けて中を見て、そう興奮する高橋さん。電器店でも数が少ないながら、取り扱っているらしい。高橋さんが言うなら、そうなのだろう。
「でも、なぜ通常の1/10の価格で?しかも、リアル情報を確認してさえいないケインに」
「既にお分かりかもしれませんが、ワケアリでしてな。ある国の政府から、軍事訓練用に日本製VRサーバの数十台規模での仲介を我が社が頼まれたのですが、出荷直前になって政変がありまして」
ふむ。背景としては普通かな。
「無理をしてでも、少しでも元をとりたい、と」
「お恥ずかしながら…。で、いかがいたしましょう?この場で契約と振込をしていただければ、こちらも本社に発注手続きの連絡をすぐに行いますが」
私は、少し間を置き、
「この場で少し、考えさせてもらえる?」
と、答える。
「え、ええ、構いませんが…」
「では…」
私は、目を静かに閉じ―――
◇
私の名は、佐藤春香。
VRMMOで攻略とスローライフを、手に入れる者。
◇
再び、ゆっくりと目を開ける。
「は、春香ちゃん?」
「ごめん、お手洗いに行かせて」
「え、ええ。出てすぐ右のところにあったはずです」
「すぐに、戻る」
そう言って、私は会議スペースのエリアを出る。
◇
【FWO】VRゲーム総合スレ【その他】
2: 名無しのユーザ
おい、スレタイひどくねえか
俺もFWOだけど
3: 名無しのユーザ
>>2
FWOのシェアが1/3、次点が1/5、あとは有象無象ってとこか
しかたなくね
4: 名無しのユーザ
トップ2で半分を軽く超えてるのか
しかたなくね
5: 名無しのユーザ
俺のおかしな体験聞いてくれるか
6: 名無しのユーザ
>>5
書いてみろ
7: 名無しのユーザ
VRローカルサーバ安く売ってくれるっていうから売買契約した
金払ったがモノが送られてこない
そして契約書が消えてた
8: 名無しのユーザ
>>7
詐欺か
セキュリティの甘いVR会議室使うから
9: 名無しのユーザ
>>8
紙だ
封筒に入れて封までしたのに
10: 名無しのユーザ
>>9
夢でも見てたんじゃね
もしくはVR
11: 名無しのユーザ
信じてくれよ!
FWOのダイブ時間の記録がある
12: 名無しのユーザ
>>11
詳細
13: 名無しのユーザ
>>12
詳細つっても
指定されたネットカフェに行く
まだ時間があるからFWOやって待つ
ログアウトしてリアル会議室で契約
携帯端末使ってオンラインで入金
まだクーポン残ってたからまたFWO
ログアウトしてそれっきり
以上
14: 名無しのユーザ
>>13
入金後のFWO中にすり替え
俺天才
15: 名無しのユーザ
>>14
カプセル型だったんだよ
封筒もカプセルの中に入れて鍵
店員さんも巡回してるし
16: 名無しのユーザ
>>15
警察に行け
17: 名無しのユーザ
>>16
行ったさ
メッセージ見せたけどスパム扱い
サーバ価格があまりに安かったし
18: 名無しのユーザ
>>17
ところで、鯖を手に入れてなにしたかったんだ?
美少女NPCか?
19: 名無しのユーザ
書き込みなくなったな
図星か
20: 名無しのユーザ
>>19
あれ違法じゃなかったけか
◇
2分ほどして、会議スペースに戻る。
「お待たせ」
「いえいえ。それで、手続きはいかがいたしましょう?」
男性が、契約のための書類を取り出す。
「契約は、必要ない」
「え?」
私は、唱える。
「【ストレージアウト】ハルカ・フリューゲル」
「なっ――――――!?」
「きゃあ!?なに!?なにこれ!?ナニコレ!?」
高橋さん、うるさい。
さて、目の前で起きていることを、魔物討伐時のメッセージ風に表現すると、こうなるだろうか。
――――――『ハルカ』 が あらわれた!
――――――『ハルカ』 が あらわれた!
――――――『ハルカ』 が あらわれた!
――――――『ハルカ』 が あらわれた!
――――――『ハルカ』 が あらわれた!
――――――おとこ は にげだした!
――――――しかし かこまれて しまった!
「痛覚は、現実世界と同じ設定にしているはず。この世界を、現実と思わせるために」
ジャキン!
取り囲んだ5体の『ハルカ』が、一斉に日本刀の先を男性に向ける。
「切られてみる?元は御社のアバターに」




