第4話「討伐クエスト時の服のまま来るなんて、信じられない!」
「嫌。シェリーのリアル弟でも」
「そんなこと言わないでー。食事会に参加するだけでいいからさー」
まるっきり、合コンの数合わせのお誘いである。いや、合コンの経験ないけど。
それにしても、攻略命のリーネのイメージダウンになることがわからないのかな。
実際、これから第8エリアのボス攻略って時なのに。
「…しかたない、ライバル増やしたくないけど。ほら、これがソルトの知り合いのケイン。この人にも会えるかもよ」
そう言って、スクリーンショットを見せようとするシェリー。
ちょっと、ケインと仲良くなるためにリーネとしての私を利用しようとして…るん…じゃ…。
「…」
「…リーネ?」
「…はっ。え、や、と、とにかく、わた…あたしは、会わないから!」
しまった、ケインの姿に思い切り見とれてしまった。
アバター視点だと自分自身を眺める機会はほとんどないから。リーネとの接触も避けてるし。
強いて言えば、ケインの造形強化の時にじっくり見ているくらいか。人物としてではないが。
「…ふーん?へー…そー…」
「…な、なに?」
「今のリーネの表情、とても攻略厨のトッププレイヤーの、それじゃないわよ」
え、それってどんな表情?
攻略厨なのは認めるけど。
「…やっぱり、来て。最初からケインも集まりに参加させるから」
「え、ちょっと待っ」
「明日、また連絡するから」
そう言って、ボス攻略フィールドに転移していったシェリー。
なんだろ、私が見とれたあたりから、雰囲気が変わったような…。
◇
「頼む!この通り!」
「ま、まあ、ソルトの頼みなら付き合うけど…」
「マジ!?やったー!ようやくリーネちゃんに会える!」
いつもの露店販売の場所で隣同士になったソルトと、ケインとしての私。
ケインとしてなら、こういうお誘いに乗るのは、むしろイメージ通りではある。
男女として付き合うとか、そういうことはないけど。スローライフの邪魔だ。
「それにしても、姉貴ひどいよなー。今まで、あのリーネパーティのメンバーってこと黙ってたんだぜ」
「リアル弟なのに、知らなかったのか?」
「最前線では有名な攻略組、とは聞いてたんだけどな。てっきり、ちょくちょく支援してるパーティのひとつかと」
全体メッセージで有名ってことを伏せてでも黙ってたのか。そんなに避けたかったのか、リーネに会わせるの。…もしかして、ブラコン?
リーネは小柄な少女タイプだけど所詮はデフォルト造形で、それほど目立つ容姿ではない。ロリ巨乳だが。まあ、FWO最有名人ってのが大きいのだろう。
「で、どこかいい場所ないか?俺たち生産職系と攻略組で集まる場所として」
「ソルトは商人だったんじゃ…。でもまあ、そうだな。この街だけでもいくつかあるな」
「よっ、情報通。情報屋よりアテになるぜ」
情報屋は、そういう情報に通じてるってわけじゃないでしょ。
◇
「何考えてるのよ!討伐クエスト時の服のまま来るなんて、信じられない!」
「だって、あたしこれしか、持ってないし」
「っ…!来なさい!」
リーネとしてシェリーとの待合せ場所に行ったら、シェリーにものすごい剣幕で怒られた。
そのまま、服屋に連行される。
「はい、これとこれとこれ。すぐに着替える!」
「は、はい!」
シェリー、あなたがパーティリーダーやった方がいいんじゃない?
そんなことを思わせるほどの勢いで、あれやこれやと着替えさせられる。
ちなみに、更衣室の類はない。装備変更メニューで瞬時に交換できるからだ。
「うん、よし。さっさと支払って!あなたにとってははした金でしょ!」
「酷すぎ」
はした金なのは確かだけど。ケインにがっちり注ぎ込んではいるが、それとて、最近の平均収入の一割程度だ。ボス攻略報酬舐めるな。いや、雑魚報酬も量が量だから多いけど。
ちなみに、ケインには以前から豪華な服飾ラインナップが揃っている。リーネはともかくケインがダサいのは許せないので、既に念入りに選んである。
「さ、急ぐわよ!驚くわよ、結構いい会場みたいだから!」
うん、知ってる。私が選んで予約したんだから。というか、生産職系メンバーとして、既に待機してるから。
◇
割と落ち着いたレストラン。FWOの世界観にマッチした、中世ヨーロッパの貴族向け高級店を思わせるようなところだ。
血まみれの攻略トッププレイヤーには似つかわしくない場所である。それを承知で選んだのは、ひとえに、ケインの…。
「…」
「…」
リーネとしての私が、シェリーと店の前の集合場所に到着した時、息を飲んだ。
リーネとして、そして、ケインとしても。
ケインがヤバいくらいに見目麗しいのは当然だ。そうでなければならない。ああ、造形中と違って、別アバターとしてのリーネから見ると一際輝いている。軍服にも似た衣装も素敵だ。
しかし、ケインとして今のリーネを見た私も、驚いた。どこのお姫様かって。無難な少女アバター…ということは、化粧とかの要素の入り込む余地のない、幼くも可憐な乙女、ということだ。
そして、シェリーが選んだリーネの服装。肩が出た純白のドレス。一見地味ながらも出るところは出ているリーネにぴったりだ。むしろ、ケインを始めとした野郎共には目の毒過ぎる。
「えっと、あらためまして、シェリーです。ケイン、みんな揃ったので、店に案内してくれますか?」
「…う…あっ、は、はい、どうぞ、こちらへ」
「ありがとうございます。ほら、リーネも」
「あ…う、うん」
いけない、慣れきったはずの2アバター同時操作が、ちょっとぎこちない。右手と右足が同時に出てしまったような感覚とでも言えばいいのか。
とはいえ、周囲を見ると、双方のグループのメンバーも、いや、たまたま店の前を通りがかったアバターたちも、目を大きく見開いて驚くと共に、動きが若干鈍い。男女関係なく。
驚きすぎて精神を持ってかれてしまった時特有の動きだ。いやもう、気持ちはよくわかる。自分自身のアバターのことながら。
そんなこともあったが、ひとりだけ特に問題なさそうなシェリーがみんなを促し、予約した部屋に移動する。テーブルは既に、グループで食事ができる準備ができている。
ちなみに、料理スキルがあるくらいなので、FWO内でも食事はできる。食べ過ぎても当然太らないが、人によってはリアルでも満腹感が続く場合があり、医学的には問題があるらしい。
「それじゃ、乾杯!」
本来ならば先導するはずのケインがぎこちなかったせいか、乾杯の音頭をとるシェリー。
こうして、事実上のVR内合コンが始まった。