表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/150

第41話「もちろん冗談よ。ていうか、そういうのは観賞用だし」

 各国取引先予定企業の重役陣を招いた接待クルーズ旅行。

 を、ダシにした、『フェルンベル・ワークス・オンライン』運営会社慰安旅行。


 運良く参加できたスタッフは、しかし、予期しない盗撮あらため素材映像やヘッドセット情報によって、接待プラスαでは到底済まない仕事量となった。

 たまにスタッフルームを覗いてもみなさんあんまり寝ている様子がなく、心苦しくなる。全部田中さんのせいだと割り切るのが難しいほどに。私だって、たまには黒歴史とトラウマ以外で胸が痛くなる。

 なにしろ、田中さんや高橋さん同様、ケインの素性を知っているのだ。リアル仲間として、もっともっと密な交流をしたい。できなくても、何か恩返しみたいなものがしたいのだ。


「気にしないで気にしないで!俺達()好きでやってるんだから!」

「そうそう!『ケイン』アバターのために最新服飾モデリングを並行してやれちゃうくらいだから!」

「春香たんはぁはぁ」


 最も寝不足と思われるスタッフさんを約1名、手刀スキルでそっと眠らせる。

 これも、本来リアルではできない技術のはずなのだが、やはりというか、とっさにできてしまった。

 とりあえず、早速恩返しできてよかったよ。安らかに眠るスタッフさんを見て、つくづくそう思う。


「春香ちゃん、4月から大学生だろ?『食事会』の時のような合コンやろうぜ合コン!」

「ていうか春香ちゃん、彼氏は?ビリーくんとは結局何もなかったの?ねえねえ」

「ほらほら、リアルでもこの服着てみない?ロリかわ春香ちゃんの完成よ!」


 手刀スキルを付与した魔法陣の【連鎖発動(イニシエート)】をリアルでも擬似的に実現できれば、もっと恩返しができるかもしれない。実験台はたくさんあるみたいだし。



 そして、旅行最終日。クルーズ船は一路日本に向かっている。

 半分弱の招待客は既に各国の港で下船しているが、それ以外の人々は日本から帰国する。

 残った招待客への最後のデモンストレーションが、衛星回線経由で得られるFWO日本サーバ内のシーンを大型スクリーンで鑑賞する、というもの。たまたま、リーネのボス攻略のタイミングが合ったのだ。


「ミリー、ブルードラゴンのブレスが来る。右側への攻撃を防いで」

「ね、ねえ、リーネ、今まで以上に無双してない?ボスがあっという間にHP1割」

「気のせい」


 ボス攻略の戦闘がFWO内やリアルの大型スクリーンで鑑賞されることは、これまでにもあった。というか、結果によってはその様子が編集され、ビデオ販売されることもある。サッカーの試合かっての。

 見られて緊張するとか、そういう意識は全くない。強いていうなら、今回は現実世界でも鑑賞できるよう、FWOの時間の流れを現実のそれにしていることが違う点だろうか。

 もっとも、現実時間設定はボス攻略時によくやっていることでもある。まんま中継イベントにできるからね。全体メッセージで予告されることと、これまでリーネが瞬殺してきたので実害がないっていう。


 そういうわけで、問題があるとすれば、


「そう?でも、私は少し、震えが…」


 ボス攻略時のBGMが、映画化PV第1弾のそれに置き換わっていることだろうか。

 そりゃあ、こっちの方が壮大、荘厳って思ったけどさあ。リーネのロールプレイがはかどっちゃうよ!

 一方、ミリーは涙目である。同じドラゴンタイプなのも、美里のトラウマを遺憾なく引き出している。


「だから、さっさと倒す」

「そ、そうよね!」


 申し訳ないが、長ったらしい戦闘にして招待客にサービスするつもりはない。私はともかく、ミリーに余裕がないのだ。

 このBGM変更、田中さんの特別指示かなあ。だとしたら、ちょっとまずかったかも。いやまあ、必ずしもリーネパーティがボス攻略をするわけじゃないし、好評だったから差し替えただけかも。



 ミッキーの魚屋の併設食堂。ここにもミッキーの趣味で大型スクリーンが設置されている。シュールだ。

 他のお客さんに混じり、ケインとしての私とビリーが、食事をしながら討伐の様子を観ている。

 ちなみに、ボス攻略の中継シーンは、バトルロイヤルの時と同じくメニューから選んでも鑑賞可能だ。


「ん、このイカスミうまいな。こないだ発見したカレー粉と組み合わせられないかな…」

「おい、彼女のボス攻略くらいちゃんと観てやれよ」

「ああ、ごめん。ドラゴンのHPがすぐにほとんどなくなっちゃったんで、つい」

「まあ、リーネちゃんがやられるはずないし、お前は派手な戦闘には興味ないしな…」


 という、ロールプレイである。ケインのスローライフに無双はいらない。

 無双しながら無双に関心を示さない。我ながらよくやるよ。

 でも、ビリーくん。君もBGMに絶望感を覚えてないかい?壮大で荘厳なBGMって、主人公無双にもラスボス無双にも使えるんだよね。実際、ミッキー高橋さんは『いけいけー』とか言ってる。


「僕は、リーネよりも春香のことが心配なんだよな。本当ならログアウトしたいくらいだけど、僕の素性は招待客にも秘密だから、しかたなく別室からログインしているんだ」

「心配?リーネちゃんじゃなくて、先輩として?」

「彼女、今、会場からログインしているから」

「ええ!?」


 つまり、招待客などの人々が大型スクリーンで鑑賞している、まさにその場所で、フルダイブという名の眠り姫を私はやっているのである。なにしてくれるんだって感じだが、それなりに理由がある。

 まず、これは最初からその予定だった。招待する側の本命が最後のデモでリアルの姿を見せないまま終わるのは、どうにも格好がつかないらしい。人目がある方がむしろ安全という話もある。

 そして、もうひとつ。ひとつのセットにまとめることで見た目普通に見える私のヘッドセットを、各国企業関係者に見せつける。回線は無線だから、同期信号もひとつしかないと勝手に思ってくれる。


「じゃあ、お前の素性は、本当にFWO運営関係者と、先輩しか知らないんだな」

「あたしも知ってるよ!でも、教えなーい!春香ちゃんに紹介してもらった時の約束だからね!」

「ケイン信者のミッキーがどうしてあの映画化ポスターで怪しい踊りをしていたかよくわかった…」


 ミッキーは、諸般の理由で…というか、お仕事の関係で、他の誰よりも『リーネ=春香』を知っていた。そういう設定である。もっとも、ほぼ正解なのだが。

 むしろ、高橋さんがFWO本社でも踊っていたあの踊りの方が謎めいている。どうでもいいか。


「でもよー、なんでそこまでNGなんだよ、お前の素性。リアバレするのそんなに嫌なのか?」

「僕が、というか、春香が嫌がるんだよ。僕の素性が広く知られるの」

「うーん…。なあ、詮索するのはマナー違反だけどさ。ケイン、お前、もしかして中身女?」


 大正解である。だが、ある意味半分しか当たっていない。


「想像に任せるよ。男と断言しても女と断言しても、どちらの場合も面倒なことが起きそうだからね」

「そうか?女だったら、俺はある意味いろいろと納得できるんだが」

「そうかもねえ。小柄でかわいい春香ちゃんが、グラマーで大人な女性と…うへへ」


 あのう、もうあなたの自宅アパートに行きたくないんですけど。

 ていうか高橋さん、あなたそっちの人――――――!?


「え、ええ、えええ!?ケイン、お前やっぱり女で、そういう趣味の!?」

「違う!全くもって違う!ミッキー、変なこと言わないでくれよ!」

「ごめんごめん、もちろん冗談よ。ていうか、そういうのは観賞用だし」


 観賞用ってなに――――――!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=463137323&s ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ