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第40話「どれだけの人が私を人間扱いしてくれるのだろう」

「私は…VRMMOを止めた方がいい?『利用』される前に」

「驚きましたね…いえ、さすがは春香さん、でしょうか。すぐその考えに到達するとは」

「わかる。ケインの素性がバレにくくなるとか、発覚すればチートだと叩かれるとか、そういうレベルの話ではないことくらい」


 誰にもできるはずのないことなのだから、リーネである私が同時にケインでもある、という疑惑は生まれにくくなる。技術スタッフなどの、VRゲームの専門家であるほど。

 そういう意味では安泰なのかもしれないが、それでも何らかの理由で広く発覚すれば、チートだったという非難は免れない。チートツールとか使っていなくとも。


 だが、そういう問題ではない。VR技術が様々な形で活用されている現代において、『できるわけがない』ことができてしまうことが、どれほどの脅威(・・)となるか。

 そして、そんな『できるわけがない』ことができてしまう私が現実世界にもたらす影響によって、どれほどの恐怖(・・)を人々に与えることになるのか。


 たとえば、詐欺。VR会議で、別人であるはずの複数の人物の意見や保証が、実は全て同一人物によるものだったり。推理小説でやっちゃいけないトリックみたいなものだ。

 たとえば、兵器。フルダイブ技術を応用しても、ひとりではせいぜいひとつしか遠隔制御できないはずの戦闘機が、あちらこちらから息ぴったりに攻撃をしかけてきたり。

 私しかできないのだから、世界中であり得ないことが多発して破綻する、ということはないだろう。だが。


「FWO運営会社でこの事実を機密扱いとするのは当然ですが、さて、政府当局にも伝えるべきなのか。むしろ、先のように、一笑に付された方が喜ぶべきことかもしれません」


 あの『剣一本で蹴散らす』リーネ…いや、(佐藤春香)が、現実に存在すると公に証明されてしまったら。はっきり言って、どれだけの人が私を人間扱い(・・・・)してくれるのだろう。

 ここに至り、アレができてしまったことと、同時フル接続できることは、強い関連性があるという確信がある。なぜか?


 ―――この世の全ての魔を、攻略する。


 私は、『もう一度、剣一本で蹴散らせ』と言われれば、たぶん、できる。できてしまう。私にとっては、銀貨を切るのも、魔…と捉えたあれらを殲滅するのも、同じことだ。

 美里は言った。そんなことはFWOの中だけにしろ、と。普通は、そうだ。仮想世界であり、現実世界ではないからこそ、そんな能力の存在が許される。

 目撃した、美里を始めとした元クラスメートや健人くんは、あの出来事を奇跡、すなわち、偶然と思っている。奇跡は、起こらないから、奇跡である。うまく言ったものだ。


「招待客が産業スパイや軍…事スパイ、ではないことは確認済みです。春香さんによって世界随一の多国籍企業にのし上がった我々は、既に多くの機密を抱えていますから」


 いつもだったらその言い回しでツッコミの嵐が吹き荒れる私の頭の中も、今回ばかりは静かである。ボス攻略中のリーネのように。数万の魔法陣を発動させるケインのように。

 目の前の田中さんは、今回のヘッドセットの件で、私と同じく確信に至った。そして、正しく現状を理解して、私の味方となってくれる。


「ただ、春香さんにヘッドセットのお勧めを尋ねてきた方には注意した方がいいかもしれません。春香さんの特殊性がヘッドセットにあると睨んだ可能性がありますから」


 そして、ヘッドセットではなかったとわかり、あらためて疑惑をもたれてしまったら。

 まあ、母語でお喋りしたかっただけかもしれませんが、と田中さん。


「春香さんの問いかけに対する回答ですが、むしろ変に勘ぐられずに済むという意味で、続けた方がいいと思いますよ。本音は運営の利益のためでは、と思われるでしょうけど」


 田中さんも、随分と卑屈な態度をとるようになったものだ。そんなこと、まるで思っていないのに。私のプロデュース(仮)は、金儲けではなく、純粋な好奇心からだ。

 好奇心は猫をも殺す、ということわざがある。田中さんは、好奇心のためなら喜んで殺されに行くタイプだ。それがなんとなくわかってしまう私も、同類かもしれない。


「私は、攻略とスローライフの同時処理を好きでやっている。FWO運営が反対しないなら、続けたい。もちろん、これから登場する、新しいVRゲームも」

「確かに、我々運営の最大の懸念事項は、同業他社の春香さんの引き抜きですね。せいぜい、春香さんに飽きられないよう、努力しますよ」

「私だけじゃない。他の多くのプレイヤーのためにも」


 ミリーやビリー、そしてミッキーは、掲示板を通してFWOを他のプレイヤーとだいぶ盛り上げてくれているようだ。私は全く読み書きしなくなったが、それはそれで大切だ。


「ところで、春香さんの特殊性は、国内外問わず数多くのVRゲームを経験していることにも原因があるかもしれません。時間が加速していますから、実質的な精神年齢は…」


 私は、プールサイドで体育座りしていた体勢をやめて立ち上がり、未だプールでずぶ濡れになっている田中さんの手から小型カメラを取り上げる。


 ピッ


「あああ!昨日からの撮影データがあっ!」


 黒歴史の証拠は少ない方がいい。

 あと、年寄り扱いすんな。乙女心は複雑なのだよ。



【春香様】映画FWOについて語るスレPart12【リーネ様】


44: 名無しの吟遊詩人

ああ、春香様…リーネ様…


45: 名無しの弓使い

>>44

おい吟遊詩人

お前も何か歌え


46: 名無しの吟遊詩人

春香様 ああ 春香様

リーネ様に切られたい


47: 名無しの魚屋

>>46

っ転職情報誌

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― 新着の感想 ―
[一言] 転職情報誌「MOBENEMY」 さあ、君もMOBになってリーネに斬られよう!
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